1972年の沖縄返還に絡む日米密約の取材を巡って、国家公務員法違反容疑で逮捕された元毎日新聞記者の西山太吉さんが11月15日、日本外国特派員協会で会見し、国会で審議が進む特定秘密保護法案について、成立すれば「日本の秘密国家は完成する」と訴えた。
西山さんは毎日新聞政治部記者として外務省などを担当していた。1972年、沖縄返還密約を巡る取材で機密電文を外務省職員に持ち出させたとして、国家公務員法違反容疑で逮捕され、78年に最高裁で有罪が確定した(西山事件)。西山さんは山崎豊子さんの小説「運命の人」のモデルになり、テレビドラマ化もされた。
1998年から2000年にかけて米公文書館で沖縄返還の関連文書が開示され、密約の全容が明らかになった。西山さんは以下のように指摘した。
米国の公文書公開にあわてた外務省は(密約に署名した)吉野文六・元外務省アメリカ局長に口止めし、1200トンの外交文書を焼却した。機密の処理なんて、外務省は恣意的にどんなことでも処理できる。30年たったら開示するなんて、だれが証明できる。途中で不都合なものは全部破り捨てる。これが自民党政権下における秘密の処理の実態だ。日本の現実としてよく知っておかなければいけないことだ。
情報公開の波をせきとめて、自分たちがやってきた秘密保全をめぐる政治犯罪を封じ込めて新たな秘密保全をつくることは何を意味しているか。権力の集中です。政治記者を長くやっているが、こんな急激な権力の集中は見たことがない。昔の自民党は自制したが、今の自民党は猪突猛進。一つの例をあげれば、内閣人事局を作り、各省の幹部候補生を全部選任できる。日銀総裁も内閣法制局長官もNHKの経営委員も全部、自分の子分を据える。それに秘密保全法制。権力の集中一元化ですよ。それが日米同盟というものにだぶってくる。秘密保全法制をこれ以上つくらせることは、日本の秘密国家を完成させることである。
(中略)
日米同盟というものに秘密がつきまとうことはありうるかもしれないけど、逆に言えば、日米同盟が国家の安全の礎と国民に説明しているのであれば、国民サイドから言えば、礎であるはずの安全保障問題、双方の約束事や了解事項、決めごとは最も正確に、完全に国民に伝達しなければならない。それを「安全保障」の名の下に封じ込めて独占してしまう。これではまさに日米安全保障体制が泣きますよ。
日本は情報公開制度に不備が多いとして、充実、強化が課題だと訴えた。
日本にとって今大事なことは秘密保全を強化することではなくて、情報公開こそが日本の国家のためにも民主主義のためにも重要だ。イラク戦争で航空自衛隊が国連の人道支援のために出動したが、市民団体が開示請求したら、全部黒塗り。民主党政権になって初めて(黒塗り部分を)出してきたが、国連の人道支援なんて28%ですよ。武装米兵を運んでいる(ことがわかった)。一時が万事、そうなんですよ。日米同盟を聖域化するために、全部うそを開示している。
日米同盟のいいところはどんどん宣伝していいですよ、一方でデメリットもある、苦しみも重圧もある。それも同時に日本国民に知らせないといけない。主権者がバランスの取れた情報を取得できて初めて、権利を行使できる。
一方で大手新聞やテレビが「知る権利が侵害される」と訴えていることにも苦言を呈した。
日本の知る権利はそんなに行使されたでしょうか。沖縄の大密約の体系を、日本のメディアはまったく監視できなかった。あらゆる重要な情報はすべてアメリカから出てきた。知る権利を行使して国民主権に奉仕することは、並大抵のことではない。
国民にとって必要な情報こそが、いちばん権力にとって不都合な情報。この絶対的な矛盾を打開するのが知る権利、特に新聞記者だ。新聞記者が今まで、政府にとって不都合な情報を抜いてきたことがありますか。自ら顧みろと。(マスコミは)声高らかに「知る権利が侵害される」と言っているが、行使したことがあるか。国際情勢や外交に関する情報は、全部外国の情報じゃないか。自ら恥じろっていうことです。それは私に対する反省でもありますけど、いちばん大事なことです。だからますます国民は無関心になる。
【※特定秘密保護法は国民主権を侵害すると思いますか?皆さんのご意見をコメント欄にお寄せください】
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