独自の仮想通貨を発行し、一般の人々に買ってもらって資金を集めるICO(Initial Coin Offering)。
全国で初めて岡山県西粟倉村が手がけると6月13日、発表された。
新たなプロジェクトを打ち出すベンチャー企業が、事業資金を集めるために実施するイメージがあるが、山村がなぜ、この方法を始めることになったのか。
ICOってなんだ
最近、仮想通貨のニュースでたびたび取り上げられるICO。
Initial(最初の)Coin(通貨)Offering(売り出し)
ーーの略で、簡単に言えば「企業が独自に発行した仮想通貨を売って、事業を立ち上げる際の資金を集める仕組み」のことだ。
株式を発行して資金を集める、新規株式公開(IPO)に似ているが、証券会社など金融機関を仲介しないため、取引の手数料を抑えられて、機動的にお金を集めることができる。
だが、株のシステムのように厳密な審査や上場基準などがないため、信用リスクが高い。加えて、仮想通貨は価格が乱高下しやすいなどのデメリットもある。
仮想通貨やICOをめぐっては、2018年1月に起きたコインチェックからの仮想通貨NEM大量盗難事件を受けて、金融庁が仮想通貨交換業への監督を強化。事業者への立ち入り検査や行政処分が相次いだ。
こうした状況で、新たな仮想通貨交換業者の認可やICO実施の取り組みなど、仮想通貨ビジネスを推進する取り組みがほぼ停止状態になっている。
全国初の自治体ICOを始める、西粟倉村って?
ICOで、資金を集めようとしている西粟倉村は、2018年5月1日時点で人口1470人。村の95%が山林という小さな村だ。
「平成の大合併」で合併せず「自立」を選んだ村は、合併特例債などの財政支援策が無い状態で、村の経済を活性化させる方法を模索してきた。
1990 年に人口がピークの 1939人に達した後は人口が減り続け、日本創成会議の統計では、2040年までに、人口の「再生産力」を示す20~39歳の女性人口が50%以下まで減る「消滅可能性都市」のひとつになっている。
そんな状況を打開しようと、2008年、豊富な山林資源をもとに、伐採から加工、そして流通までをになう林業の6次産業「百年の森林(もり)構想」を始めた。
この百年の森林構想の中心的役割を担っている「西粟倉森の学校」が、ブロックチェーンの技術開発をする福岡県飯塚市の企業「chaintope」などと関わりがあったことから、「ICOを地方自治体でも実施できるのではないか」と村に提案。
勉強会を重ね、2017年11月からは共同研究を始めるなど、本格的に検討していた。
どういう風につかうの?
西粟倉村が直接、仮想通貨を発行するには「公債のシステムやスピード的な問題」などに引っかかるため、村や地元の企業などで作る「西粟倉村トークンエコノミー協会」を設立。
この協会が仮想通貨「Nishi Awakura Coin」(NAC=ナック)を発行し、投資家は主要仮想通貨のEthereum(イーサリアム=ETH)でNACを購入する。
この方法で、集めたETHを現金と交換し、村にあるローカルベンチャー企業や、この取り組みで「新たに事業を起こしたい」と村へ来る企業の新事業に資金を投入する。
村の広報担当者は「仮想通貨や、ICO自体の印象が良くないと思われることもある。
だが、ICOに関する自主規制ルールの策定を目指す、日本仮想通貨事業者協会や金融庁と相談し、ルールに則った運用をすることで、安心して応援してもらえるようにしたい」と話す。
NACの保有者の投票で、資金投入先を決める?
NACは、NACを持っている人に投票権が与えられ、西粟倉村で事業を立ち上げようとするローカルベンチャーへ資金の投入先を投票することができる。
投票で人気を集めた事業は、優先的に資金を投入される。
西粟倉村の担当者は「ローカルベンチャーとNAC保有者による、挑戦と応援 の仕組みを整備することで、仮想通貨が創る経済圏『トークンエコノミー』を循環させていきたい」という。
理想は10社程度をサポートできる資金調達
地域のベンチャー企業を応援する取り組みは、これまでもクラウドファンディングなどで資金が集められてきた。
だが、クラウドファンディングでは、一時的な取り組みで、多くても数千万円しか集まらない。
広報担当者は「クラウドファンディングよりも、資金収集が大規模にできるのはメリット。理想ではあるが、10社程度の新事業をサポートできるだけのお金を調達できたらと思う。うまく進めば、単発ではなく、継続的にコインを買ってくれた人が地域づくりに参加できる」と話す。
交通系ICカードのSuicaやPASMOのように、西粟倉村で生産された家具などを、NACで買える。そしてNACを通じてこの村を知ってもらい、海外からの集客を見込めるような経済圏を目指しているという。
海外でも自治体がICOを検討
海外ではすでに国や自治体がICOに着手している例もある。
ただ、ベネズエラの「Petro」の取引を巡っては、米国政府が経済制裁に抵触すると警告し、実際に取引があったのかどうか疑問視する声もあった。
バークレー市では、独自の通貨を地方債のように発行し、ホームレスなど家に住めない人々に、安い住宅を提供するための資金源として、ICOが行われる予定だという。