NHK『まれ』のフジ『料理の鉄人』のパロディが笑えた!

NHKの連続テレビ小説『まれ』にフジテレビ『料理の鉄人』のパロディが登場した。
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NHKの連続テレビ小説『まれ』にフジテレビ『料理の鉄人』のパロディが登場した。

ちなみにNHKの『まれ』のホームページを覗くと、シェフ役の小日向文世さんのページは、まるで『料理の鉄人』ぽい写真だらけなのでその雰囲気が伝わってくる。

大悟は、ケーキ以外のことは奥さんに任せっきりで、いつもケーキだけに集中している。まぁ"ケーキばか"です。でも、そこは少し共感できる部分もあります。ぼくもどちらかというと、大悟ほど偏屈ではありませんが、芝居しか知らないので。休みの日も、ボーと観葉植物を見ているか、台本を読んでいるか、ですから(笑)。

 

出典:NHK『まれ』番組ホームページの小日向文世の言葉

今週の物語では、主人公の希(まれ・土屋太鳳)が修行するフランス菓子店では、シェフの池畑大悟(小日向文世)の腕は超一流だが、偏屈な職人肌でビジネス感覚は欠如して借金まみれの末に店の存続の危機に直面していた。

起死回生を狙って、シェフが『料理の鉄人』によく似たテレビ番組に出演するという筋書きだった。

そのテレビ番組は『料理の鉄人』ならぬ『料理の巨人』

『料理の鉄人』は、英語表記が"Iron Chef" (アイアン・シェフ)だったが、ドラマのなかの『料理の巨人』は"Titan Chef"(チタン・チェフ)。タイトル字幕にも「チタン・シェフ」「スイーツ頂上決戦」と書かれていたが、これにはクスリと笑った。たしかに「鉄」よりも強そうなのは「チタン」かもしれない。

ドラマでのパロディ番組『料理の巨人』では、かつて鹿賀丈史が演じたような「主宰者」がかつてのヨーロッパの貴族のような格好で登場する。

階段を降りた主宰者は、「私の記憶が確かならば、その食材は酸味、香味、薬味、そのすべてを兼ね備えた味覚の魔女。その名は・・・」と布に覆われたものをめくる。

そこにあったのは食材の「ゆず」だった。

「さあ、出でよ、巨人たち!」と対決する巨人を紹介する。

「スイーツの頂上に立つのか。若きスターシェフ、西園寺一真!」「対する巨人はつぶれた店の復活をかけ勝負に挑む巨匠、池畑大悟!」巨人はそれぞれ青と赤のマントをはおっていて、噴き出す白煙やジャーンという大げさな効果音とともにドラマチックで登場する。

「スイーツ界の貴公子 西園寺一真」「眠れる巨匠 池畑大悟」とキャッチフレーズ付きの字幕が入り、「料理の巨人 スイーツ頂上決戦」という字幕は出っぱなし。

ゆずを用いた料理解決は、アナウンサーの福澤朗がシェフたちのインタビューを交えながら実況していく。

今はニュースキャスターというイメージが強い福澤朗だが、かつてはプロレス中継で存在感を示した。

対決の火蓋を落とされるのは、福澤のかつての決め言葉「ファイヤー!」だった。

その実況の技がまだイケることを示した場面も、テレビ好きには楽しめた。

『料理の鉄人』は、1993年-99年までフジテレビで放送されたレギュラー番組だ。

2012-13年にも『アイアン・シェフ』として一時レギュラー復活した。

料理の対決をまるでプロレス中継のような大げさな演出と実況中継風の盛り上げで人気を集めた。

ちなみにフジテレビのホームページには以下のように書かれている。

"美食アカデミー"の主宰・鹿賀丈史が国内外から超一流シェフをキッチンスタジアムに招き、和・フレンチ・中華・イタリアンの鉄人に料理の腕を競わせる。

 

毎回、異なるテーマ素材が与えられ、1時間で料理を完成させるのがルール。

 

テーマは本番で主宰・鹿賀丈史が発表するまでは絶対秘密。制限時間の1時間も厳守される。

 

この厳しい条件に耐えうるだけの技をもった料理人だけが、キッチンスタジアムに足を踏み入れることが許される。

 

この緊張感溢れる本物の戦いから、毎回ドラマが生まれている。そう、この番組は料理格闘技番組ともいえるであろう。

 

出典:フジテレビ公式ホームページ

番組内で鹿賀丈史が演じる主宰者が、大仰にその日の食材を発表し、煙が噴き出すなかでマントを羽織って登場する「鉄人」たちが料理で対決する、という筋書きの見えないドラマである。

さて、『まれ』の劇中番組『料理の巨人』では、希自身もこれまで夜中に練習を重ねていたメレンゲ作りで貢献し、「メレンゲ入りパンケーキ」で池畑シェフが勝利する。

出来上がったスイーツの味を確かめる審査員に、料理研究家の服部幸慶さんや相撲の芝田山親方がいたのも、いかにも「らしく」て笑えた。

ところで、フジテレビの『料理の鉄人』は、番組そのものが海外に向けて「フォーマット販売」されている。

番組の「フォーマット販売」とは、番組のアイデアやコンセプト、演出方法、スタジオセットなどの基本的な形式などを海外の放送局に向けて販売するもので、その収入は放送局にとっては「放送外収入」として、利益を生む原動力になっている。

海外旅行に行くと、地元のテレビ局が「アイアン・シェフ」として同じような番組を放送しているのを見ることがある。

それは「フォーマット販売」の産物だ。

ここで疑問だが、ドラマのなかのパロディだとしても、

NHKはフジテレビに対し、なんらかの「フォーマット使用料」は払ったのだろうか?

ここまでそっくりなので、何かと抜かりないNHKのことだから、きっと、払ったのだろうと想像する。

あるいは、フジテレビが「太っ腹」なところを見せて、「いいですよ。払わなくても...」と言ったかも。

それにしても民放の人気番組のパロディがNHKのドラマで復活するというアイデアは良かった。

今日(6月6日)の放送は、見ていてワクワクした。

このワクワク、実は「生放送」という設定で、東京のスタジオに出演している希たちを、能登では家族や友人らが見ている、という設定にも支えられていた。

「生放送」で、テレビ局が全国の「お茶の間」を結んでいた、という懐かしい記憶を呼び覚ましてくれた。

この日の『まれ』が「深い」なと思ったのは、この場面がかつての人気番組のパロディだったからだけではない。

テレビ全体へのパロディにもなっていたからなのだ。

かつて、生放送で、全国の人々を同時に興奮させたあの輝きを今のテレビは持っているのか?

そう突きつけられた気がしたのだ。

さて、「巨人対決」で勝利した小日向文世演じる池畑シェフは、『料理の巨人』内で勝利の感想を求められたが、固ってしまい、何も言えないままに番組は終了してしまう。

だが、その後で、「メレンゲ入りパンケーキ」が再婚した現在の妻と娘のために最初に作った菓子であることなどを語り続ける。

番組が終わった後で、「スイッチが入った」状態になって、とうとうと語り続ける。

その最中に、もう用は終わったとばかりに、番組スタッフがシェフのマントを引き剥がし、スタジオ内の料理の撤収作業を続けている。

でも、もう番組が終わった後で、シェフが再婚した家族への思いなど、大切なことを語り続けているのだ。

「本当に大事なことや本当に感動的なことはテレビ番組の外で行われている」

そんな皮肉なメッセージも伝わってきた。

辛口のテレビ批判が込められていたと感じたのは、深読みしすぎかもしれないけれど。

(2015年6月6日 10時47分「Yahoo!ニュース 個人」より転載)

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