ヒトラーやムッソリーニが「パロディ」として笑える時代を、私たちはどう考えるべきか

移民流入に対する排他的な空気、ポピュリズムの台頭といった問題は、ドイツやイタリアだけのものではないだろう。
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9月に公開される映画「帰ってきたムッソリーニ」

あの、イタリアの独裁者が現代に蘇ったら?という設定のこの映画、どこかで聞き覚えのある人もいるだろうか。元ネタは「帰ってきたヒトラー」。ドイツのベストセラーを元にした映画で、日本でも2016年に公開され話題を呼んだ。

なぜ今イタリアでこの映画が製作されたのか。それは「帰ってきたヒトラー」が提示したようなある種の問題意識を、イタリア社会も抱えていることの現れではないだろうか。

移民流入に対するヨーロッパ全体の排他的な空気、ポピュリズムの台頭といった問題は、イタリアだけのものではない。この映画が示す世界の不安定さとは何なのか。

ジャーナリストの堀潤さんがホストを務めるネット番組「NewsX〜8bitnews」に、「職業 ドイツ人」を称する通訳者のマライ・メントラインさんがゲスト出演。ドイツを出発点にして、世界の「空気」について話し合った。

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dTVチャンネル

 

ヒトラーは、パロディが許されない人物だった。

メントラインさんは、ドイツ・キール出身で、二度の日本留学を経て日本との縁を深めた。2008年から日本に住み、通訳・翻訳・ドイツ放送局のプロデューサーなど多方面に活躍している。

メントラインさんが現在のドイツについてこう説明する。

「ドイツは、ヨーロッパの中心にあって、移民も含めて、いろんな人が一緒に暮らしています。5人に1人くらいは移民の背景を持っている国際的な国です。そこに難民もたくさん入ってきて、一緒に暮らしているけど、その人たちが何者なのかよくわからない。宗教も違うし、事件が起こったりして、ストレスも生まれている。そのストレスから排他的な部分が強くなってきたのが今のドイツかなと思います」

ドイツでは2015年以降、シリアなどから100万人を超える移民が流入している。ドイツ中部ヘッセン州カッセルでは、今年6月、移民擁護を公言していた政治家が殺害される事件も起きた。

「帰ってきたヒトラー」は、原作・映画ともに全世界で議論を巻き起こした。

当時映画を見たという堀さんも、「思わず笑ってしまう自分を発見した時に恐ろしくなりました」と振り返る。

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移民流入問題に対し、ドイツだけでなくヨーロッパ全体の反応に“倫理的な抑制”がなくなってきた、とメントラインさん。原作小説で提示されたネガティブな予見どおりに世界は進行してきているのではないかという。

「ヒトラーは、長い間タブーで、パロディを作るなどありえない、最悪の人物でした。映画が撮影された5年前は難民がたくさんドイツにやってくる前でしたが、それでも徐々に社会の中で不満が大きくなっていた。

そしてそこにヒトラーが現れるとどうなるか。本来、ドイツ人なら拒絶反応を示すはずだが、今の社会はものすごく複雑で、みんな単純な答えを欲しがっている。今の不満をどうにかしてくれる、その答えがヒトラー、と思ってしまう。

コメディーですが、笑えるということは、排他的なものに対して免疫力が薄れてきたんじゃないかという不安もあります。ホラーにも近い作品です」

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メディアとプロパガンダに対して、どんな姿勢を持つべきか。

ドイツの学校では、ナチスについて徹底的に学び、話し合う時間が設けられているというが、年月が経つにつれて、70年前の戦争を実体験として継承できる人が身近にいなくなっている現実もある。

「ナチスは昔の話、と思っている若者たちに、あの当時の危険さを伝えるにはどうしたらいいのか? というのはドイツでは今大きな課題です」

さらにメントラインさんはメディアの役割についても言及する。

「映画の中では、メディアをコントロールできれば大衆をコントロールできるということになっている。しかし、考えてみれば今、誰がメディアをコントロールしているのか。フェイクニュースもあり、メディアが信頼できないという話はドイツでもよく聞きます。日本では私もワイドショーなどに出ることがありますが、メディアも信頼されていないし、メディア側も視聴者を信用していない様な気がします」

ドイツだけではない、今世界中にみられる排他的な動き。現代に生きる1人として、メディアとプロパガンダに対してどんな姿勢を持つべきか。2本の映画を見ながらぜひ振り返ってみてはどうだろう。

(文:高橋有紀/ 編集:南 麻理江)