ウェブメディアの悩みの一つに「コメント」の問題がある。記事に対して読者がコメントできる仕様になっていると、誹謗中傷や、自分の宣伝などで溢れかえるからだ。そうした中、経済ニュースに特化したウェブメディアNewsPicksが1月25日、新しいコメントポリシーを発表した。これまでNewsPicksでは、すべてのユーザーのコメントが表示されている。
しかし、2月から、以下の条件を満たすコメントだけが表示されるようにすると発表したのだ。
・実名が登録されているユーザーのコメント
・自分がフォローしているユーザーのコメント
つまり、匿名の人やニックネーム(ペンネーム)を名乗っている人のコメントは、それらの人をフォローしていない限り、コメント欄には表示されないため、自分の意見を他人に読んでもらう確率は著しく低くなってしまう。
これに対し、賛成反対、意見が入り乱れ、NewsPicksのコメント欄は侃々喧々諤々の状態になっている。そもそも、NewsPicksはユーザーが匿名であろうとペンネームであろうと自由に発言できる場を提供することでユーザー数を伸ばしてきたし、それで支持されてきた側面がある。著名人だろうと、無名の人であろうと、専門的知識のあるユーザーのコメントが増えるに従い、ユーザーの満足度も上がってきたと思われる。
一方で、これはウェブメディアの宿命でもあるのだが、ユーザー数が増えてくると、質の低いコメントも増えたり、コメント欄が荒れたりするのは、ある程度仕方のない事である。筆者は、去年10月からプロピッカー(公式コメンテーター)としてコメントを投稿しているが、私が見る限り、極端な誹謗中傷合戦は見たことがない。個人的にもそうしたコメントをもらったこともない。(気づいていないだけかもしれないが)
しかし、今回のプレスリリースで、運営側は「NewsPicksでは良質なコメント空間を実現していくためには、実名による「責任あるコメント」が大切だと考えています。」とし、かつ、「今後、NewsPicksでは実名での利用をより積極的に推進し、多くの実名ユーザーがコメント欄や記事投稿機能を活用することで、さらに多様で良質な情報が発信・集積される場を目指していきます。」と宣言しているのを見ると、匿名ユーザーの中に問題のある発言をする人がいるのかもしれない。
しかし、運営側はそこまで具体的に踏み込んでいるわけでもないので、何故この時期に事実上実名投稿を推奨するのか、釈然としない人も多いようだ。
実際、匿名(ニックネーム)ユーザーからだけでなく、実名ユーザーからも様々な意見が殺到している。肯定的な意見もあるし、否定的な意見もある。当然批判は覚悟していたようで、運営は、以下のように例外も設けるとしている。
「※匿名や通称名であっても、NewsPicks運営側が承認したユーザーのコメントは表示される場合があります
※実名であってもミュートされている数が多いユーザーのコメントは、フォロワー以外には表示されなくなる場合があります」
つまり、本人の事情で匿名にせざるを得ないが、質の高いコメントをしているユーザーのコメントは運営側で例外的に表示することと、実名ユーザーでも運営が好ましくないと判断したユーザーのコメントの表示は制限する、ということだ。
さらに、新しい試みとして、以下も検討中のようだ。
「一部の実名ユーザーには「プロピッカー」へのスカウトや、NewsPicks編集部が利用している入稿システムを解放し簡単に記事やオピニオンを投稿できるようにするなど、実名での情報発信をより強力にサポートする仕組みを提供して行く予定です(2016年中に順次実施予定)。」
実名化=コメント欄の質の向上につながるかと言うと、必ずしもそうとはならず、あくまで投稿する人の質によるところが大きいと思う。だとすると他のメディアに投稿しているジャーナリストや評論家、エコノミスト、学者、経営者などの著名人に収れんしてしまう可能性もありうる。となると多様で自由なコメント欄を標榜してきたNewsPicksの魅力が薄れる、と感じる人も多いだろう。
と同時に、実名ユーザーが記事や意見を直接投稿できるようにするというなら、これまた大きな方向転換だ。
NewsPicksは経済ニュースに特化しているとはいえ、ユーザーの投稿を主体にして成長して来たハフィントンポストや、国内勢ではBLOGOSやYahoo!ニュース個人、アゴラなどの路線に近づいていくことになる。それらライバル勢との差別化をどう図るのか、悩ましいところだ。
最後に、ユーザベースの代表取締役共同経営者の梅田優祐氏はこうコメントした。
「今回の変更の成否も最後はユーザーの皆さまに判断頂く事ですので、より多くのビジネスパーソンに支持される情報プラットフォームとなるよう、今後も改善を積み重ねていきます。」
NewsPicksのコメントポリシー変更は、ウェブメディアの在り方に一石を投じたことは間違いない。ウェブメディアを見るユーザーの目は今後ますます厳しくなっていくだろう。