■ネットで穏健化する?
「『ネットが社会を分断』は不正解、10万人の調査結果が明かす真相」という慶応大経済学部の田中辰雄教授(計量経済学)の解説記事(47NEWS)が話題になっている。
これまでの議論では、ネットは自分の好きな情報だけを見たり視聴したりするので、分断の一因になっているのではないかという見方があった。自分と似た意見ばかり「選択的接触」をしているためだ。
だが、田中教授は、10月に共著で出版した「ネットは社会を分断しない」(角川新書)で、違う見方を示している。11月21日昼に放映されたインターネット番組Abema TV の「けやきヒルズ」のコーナーにも出演し、自身の見解を述べた。
田中教授は、ネット上ではいろいろな意見と接するので、逆に「穏健化」するのだと訴える。実施した10万人の大規模アンケート調査の結果を元に、「ネットは社会を分断しない」という結論を導いたためだ。
■若者は穏健化
著書「ネットは社会を分断しない」などで、田中教授は次のような点を主張・指摘している。
・保守・リベラルの一方だけの意見に接しているのは5%以下に︎とどまる(143ページ)
・ネットで聞く意見の4割は反対側の意見で、両側の意見を聞いているうちは、分極化は起こりにくい(189ページ)
・︎ソーシャルメディアを利用し始めた人の政治傾向は分極化せず、むしろ穏健化する。
・実際、若年層ほど穏健化しており、分断傾向はない(198ページ)
・ネット上の投稿の約半数は、0.23%の人が書き込んでいる(210ページ)
・ネットの議論が分断されているように見えるのは、極端な意見ばかりが目につくネットの特性のため(解説記事)
11月21日昼に放映されたインターネット番組Abema TV の「けやきヒルズ」では、「ネットは社会を分断する?しない?」というコーナーで田中教授が登場。自身の主張を展開した。
■一方で、別の見方も
一方、番組では、田中教授とは異なる立場の大阪大学・辻大介准教授(コミュニケーション論)の見方など別の視点も参考にされた。
ネットをよく使うと、排外的な意識が強くなる一方、アンチ排外主義的な意識も強くなる傾向があるという見方だ。さらに、ネットが分極化をうながすのは「右派」か「左派」などの政治思想というよりも、「敵」か「味方」という感情ではないか、という見解も紹介された。
■ネットは、「信念」強化する
その上で、同番組コメンテーターのノンフィクションライターの石戸諭氏が、「ネットでは、自分たちの信念や価値観、感情が強化される」と指摘。
イタリア・IMTルッカ高等研究所のウォルター・クアトロチョッキらのフェイスブックの研究で、好みの情報ばかり消費している実態がある例をあげた。
石戸氏は「反対意見に接しても、自分が信念を持っているものを信じがちだ」として、個別的、感情的なものは分断が進む可能性がある、と田中教授の見方に異論を唱えた。
さらにSNSでは、主張や議論の内容よりも、学者やマスコミの言い方が「偉そうだ」などという感想が見られるなど、感情的な反発を促しやすい面も指摘した。
感情に基づく分極化が起こるとどうなるか。
石戸氏によると、激しい議論に触れた「中間層(穏健派)」が政治や社会の問題から関心を失う可能性があるという。
■ネット空間、議論の場になってない
ただ、田中教授も石戸氏も一致していたのは、ネットが議論の場になりにくいという点だ。
ネットの言論空間は、もともと、マスコミが言えないような意見をあげることができる、という期待があった。
しかし、田中教授はこの点について、「学生と話していても、ネットで議論するのは無理ですよ、となる。ネット上で議論をする場がない」と訴える。2人は、議論の場としてのインターネット環境を見直していかないといけないと、締めくくった。
「 #表現のこれから 」を考えます
「伝える」が、バズるに負けている。ネットが広まって20年。丁寧な意見より、大量に拡散される「バズ」が力を持ちすぎている。
あいちトリエンナーレ2019の「電凸」も、文化庁の補助金のとりやめも、気軽なリツイートのように、あっけなく行われた。
「伝える」は誰かを傷つけ、「ヘイト」にもなり得る。どうすれば表現はより自由になるのか。