以前勤めていた会社に、ちょっとした雑用も全部自分で行ってしまう上司がいました。高いポジションに就いてて、少しの会話でも頭の良さが滲み出てくるような、非常に優秀な方でした。
こういった人の影響もあって、若い頃は、部下に雑用をさせるような上司より自分も一緒に雑用をこなすようなフラットな上司の方が素晴らしいと思っていました。しかし今、自分が組織を作る立場になってみると、上司が雑用をするような会社にしてはダメなんじゃないか、とまったく逆のことを思うようになりました。
仕事ができる人はその得意領域にできるだけフォーカスし、そこに時間を集中して使ってもらった方がいいというのは、当たり前に理解できることでしょう。デザインが得意な人はデザインをする時間を、プログラミングが得意な人にはプログラミングをする時間を、企画が得意な人は企画をする時間を、営業が得意な人は営業をする時間を、できるだけ確保した方がいいわけです。
しかし会社には必ず雑用というものが発生します。雑用というと印象が悪いですが、重要度は低いが誰かがやらなければならない軽微な業務です。
誰宛かわからない電話への一次対応、誰宛かわからない郵便物の受け取り、誰宛かわからない来客への対応、ゴミ出し、コピー用紙の補充、ファックスの回収、植物の水やり、トイレットペーパーの補充、切れた電球の交換、いらなくなった書類の処分などなど。
これらの多くは誰でもできる仕事です。そして誰でもできるのであれば、専門知識を持った優秀な人ではなく、パフォーマンスがより低い人にやってもらった方がチームとしては助かるわけです。もちろん、社内でやることがコスト的に明らかにデメリットならアウトソースするという手段もありますが、多くはそこまでするほどのことでもないでしょう。
今の時代、新人や後輩に雑用を押しつけるような会社は、徒弟制度の名残がある古臭い会社のように思われるかもしれません。しかし私はそれは合理的な組織がとる合理的な選択なのだと思います。また別の観点でいえば、経験もスキルも足りない新人が一番てっとり早く貢献できるのが、この分野ではないかとも思います。もし自分は雑用をする人間でありたくないと思うのなら、早く何らかの成果を出し、「この人に雑用ばかりさせてたらもったいない」と思わせればいいわけです。
雑用であっても、案外その人の仕事の仕方が現れたりします。雑用が丁寧だと、この人は仕事も丁寧なのかな、何かやらせてみようかな、という気持ちになったりするものです。雑用一つでも自分をアピールするチャンスだったりします。また、新人が成長して先輩になった時には、雑用は後輩に任せて本来の業務に集中してほしいと思うからこそ、新人の間は雑用を行う習慣を身に付けてほしいと考えたりするものです。
もちろん、すべての雑用は新人がやるべきとは思いません。例えばうちの会社では週に一回の掃除は全員でやります。社長である私も掃除機をかけています。これは、自分の手で会社をキレイにすることに心理的な意味があると思っているからです。このように、役職や職能に関係なく意義が見出せる雑用だったら、新人だのベテランだの関係なくフラットにやっていいでしょう。また、先輩が自主的に気を利かせ、忙しい新人のために何かをしてあげる行為まで控える必要はありません。そういった臨機応変な対応は推奨されるべきことだと思います。
ただ、基本的な話としては、上司や先輩が行うべき妥当な理由がない雑用は新人や経験の浅いスタッフが行った方が合理的だし、そういう習慣があるチームの方がより機能的になるのではないかと思います。
もしかしたらこの春から社会人になり、本来の主体業務じゃない雑用が多い人がいるかもしれません。しかしここは腐らず、まずは一生懸命雑用をがんばりましょう。できるだけ丁寧に、周囲の人が驚くレベルまで工夫して、雑用をこなすようにしてみましょう。その働きはきっと誰かの目に留まり、何らかのチャンスが巡ってくるはずです。
一方、新人に助けてもらっている先輩たちは、上記のような雑用の意義をキチンと説明すべきでしょう。そうするだけで、新人たちは雑用の価値を理解して前向きに受け取れるようになるし、自分たちも心置きなく雑用をお願いできるようになるのではないでしょうか。
(2015年6月24日「sogilog」より転載)