新アベノミクスは正直言ってピンとこない

安倍総理がずいぶん威勢よくGDP600兆円という目標をぶちあげられましたが、どうなんでしょうね。
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Japanese Prime Minister Shinzo Abe delivers a speech during a press conference at the headquarters of his ruling Liberal Democratic Party in Tokyo, Thursday, Sept. 24, 2015. Prime Minister Abe, fresh from a bruising battle over unpopular military legislation, announced Thursday an updated plan for reviving the world's third-largest economy, setting a GDP target of 600 trillion yen ($5 trillion).(AP Photo/Shuji Kajiyama)
ASSOCIATED PRESS

安倍総理がずいぶん威勢よくGDP600兆円という目標をぶちあげられましたが、どうなんでしょうね。テレビで、リニアで東京大阪が1時間が実現でき、北海道新幹線もできると国民に夢をもってもらいたい、元気になってもらいたいと熱のこもった口調で語られているのが報道されていました。

正直なところ、安倍総理の熱弁にもかかわらず、安倍総理は、日本が成長する筋道のイメージをほんとうにお持ちなんだろうかとふっと疑問に感じてしまいました。

リニアってどのような経済効果を生むのでしょうか。莫大な投資によってGDPを押し上げるもののそれだけで終わってしまうのが公共工事です。確かにリニアに一度は乗ってみたいと思う方が多いでしょうし、物珍しさから最初は観光需要が伸びるでしょうが、いつまでも続きません。考えられるとすれば、海外からリニアを乗るためにやってくる観光客が増えるぐらいでしょうか。それ以外の経済効果がイメージできないのです。

東京大阪間1時間といっても正直感動がありません。東京大阪間の新幹線もかつては3時間超かかっていたのが、いまでは2時間22分で、都内の便利な場所なら大阪から出張しても朝9時開始の会議でも間に合います。それで関西の経済が活性化されてきたのでしょうか。いや逆で、東京にさまざまな機能や人材を吸い取られていったのです。

実は、「リニアでたった1時間」ではなく「1時間もかかるリニア」なのです。

光回線でテレビ会議すれば、「その瞬間」を共有でき、それのほうが生産性が高まりそうです。それならもっと利便性の高いテレビ会議システムを開発し、導入したほうがより生産性が高まります。

経済成長は、ふつう、人口、とくに労働人口が増えること、政府や民間の投資が増え、またその投資によって生産性があがることで達成できますが、それに加えて、いま日本で明るい材料といえば、それらに加え、訪日観光客が増加し、インバウンド消費が増えてきたことです。

それをもっと増やす。昨年に海外から訪日した旅行者が1,500万人を超え、今年は、おそらく2,000万人を超えると思いますが、まだまだ観光立国というには少なく、伸びしろがあります。たとえば国際観光客数では9位のロシアでほぼ3000万人で、中国は5,500万人強です。香港ですらおよそ2,800万人で、日本もその水準を目標に置いても実現の可能性は高いのではないでしょうか。

ちなみに、中国人観光客の増加が目立ち、また爆買いが話題になっています。ではどのぐらいの人が中国から日本に来ているのでしょうか。

中国本土から海外を訪れた中国人旅行者数は昨年1億人を超えています。しかし訪日したのはたった240万人、つまり2%強にすぎないのです。今年は8月までにおよそ335万人に達しているとはいえ、まだまだ増えてもおかしくありません。

「中国人観光客は今後4年以内に1億7400万人にまで増加する見込みで、年間消費総額は2640億ドル(約31兆6800億円)に達すると予測されている」そうなので、それを取り込むだけでも、もっとインバウンド消費が増え、地方の活性化も実現できます。

海外から旅行者がやってくるのはリニアではありません。クルーザー客船もあるでしょうが主には旅客機です。そして一人あたりのインバウンド消費を増やしてもらうためには長期滞在してもらう宿泊施設が必要です。3000万人以上を迎えるということを目ざすとなると現在の空港、また宿泊施設といったインフラは大丈夫なのでしょうか。

アベノミクスにそういった具体的な施策が見えてくれば別でしょうが、金融政策や掛け声だけではGDPは伸びそうにありません。

(2015年9月25日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)