イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は2月13日、ドナルド・トランプ大統領になって初めてホワイトハウスを公式訪問するためにワシントンD.C.に向けて出発した。
トランプ大統領は、中東和平プロセスについて強い関心を示している。そして彼の義理の息子で上級顧問のジャレッド・クシュナー氏がその陣頭指揮に立つ可能性を示唆している。そして和平プロセスを成功させるためには、イスラエルの指導者、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を味方につける必要がある。
15日に予定されている会談に、ネタニヤフ氏は強い期待を寄せている。彼はバラク・オバマ前大統領とは緊張関係にあった。イランと欧米6カ国による核合意や、イスラエルの入植地拡大計画といった主要な政策についてネタニヤフ氏とオバマ氏の意見が一致することはなかった。
ネタニヤフ氏がイスラエル国内の保守派からの支持を得て、そしてイランのように政策面で西側諸国に影響力を持ちたいのならば、彼にはホワイトハウス内に強い味方が必要だ。トランプ氏はアメリカとイスラエルの協力関係はこれまでと違うものになると約束しているが、ネタニヤフ氏はその約束が実現できるように仕向けなければならない。
イスラエル、アメリカ両国の首脳が今後問われる3つの「深刻な問題」がある。
入植地の拡大
イスラエルの保守派の多くは、オバマ氏が退任し、パレスチナ自治区内のイスラエル入植地が大幅に拡大できるようになることを期待している。
オバマ大統領は2016年12月23日、イスラエルが占領したパレスチナ領での入植活動を非難する国連安全保障理事会の決議に棄権した。拒否権行使ではなく棄権を選んだアメリカの決定は、ネタニヤフ政権下でイスラエルの入植地建設が拡大したことに、オバマ政権が強い不満を持っていることを示していた。
保守派はネタニヤフ氏に、トランプ氏の支持を取り付けるよう凄まじいプレッシャーをかけている。
イスラエル政府はトランプ氏の就任以来、入植地拡大計画を加速させている。何千もの新家屋の建設を許可し、完全に新規の入植地を作ることさえ奨励している。「これまで59万人以上のイスラエル人がすでに東エルサレムとヨルダン川西岸地区の入植地に居住している」と、 元アメリカ国連大使のサマンサ・パワー氏は12月に語った。
元アメリカ国連大使のサマンサ・パワー氏によると、およそ60万人がヨルダン川西岸地区と東エルサレムの入植地に居住している。この写真はヨルダン川西岸地区内に占有されているエフラット入植地を2月7日に撮影したもの。AMMAR AWAD / REUTERS
入植地は和平実現への深刻な障害だと見ているのは、パレスチナ人だけでない。ほとんどの国が国際法違反だとみなしている。
しかし、トランプ大統領の立ち位置は定かでない。12月の国連決議の時点では、トランプ政権では違ったアプローチを取ると約束したが、その方法については明らかにしなかった。
国連については、1月20日以降に状況が変わる。
しかし、ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は2日、イスラエルに新たな建設を控えるよう声明を出した。
「入植地の存在が和平の障害であるとは考えていないが、新しい居住地の建設や現在の国境を越えた既存の入植地の拡大は、その目標を達成するうえで役に立たないかもしれない」と、スパイサー報道官は語った。
アメリカ大使館のエルサレム移転
アメリカ議会は1995年、エルサレムに大使館を移転させる法案を通過させた。しかし、それ以降に就任したすべての大統領は、半年ごとに大統領令にに署名し、移転を阻止させてきた。AMMAR AWAD / REUTERS
トランプ氏は選挙運動の最中に、大統領になった際にはアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転させると約束したが、大統領としてホワイトハウスに入って以来、移転計画が進んでいるかどうかは明らかではない。
トランプ氏は大使館移転に一番重点を置いているわけではない。 議会は1995年にエルサレムをイスラエルの首都と認め、エルサレムに大使館を移転させる法案を通過させたが、それ以降に就任したすべての大統領は、半年ごとに大統領令に署名し、移転を阻止していた。
アメリカ大使館を移転すれば、エルサレムをユダヤ人の首都と認識しているとトランプ政権が発信することになり、パレスチナ人を刺激することになる。専門家は、 このような動きは和平プロセスの進行を複雑にし、間違いなく中東地域を不安定にするだろうと警告している。
「アメリカ大使館のエルサレム移転は、中東のイスラム過激派にとっては朗報だ。アメリカとイスラエルがイスラム教に闘いを仕掛けているという、IS(イスラム国)やアルカイダといった過激派組織の主張を認めることになる」と、アメリカのシンクタンク「ブルッキングス研究所」フェローのカレド・エルギンディ氏は語った。「アメリカはイスラエルとパレスチナの和平問題の仲介役を放棄することになり、パレスチナ政府関係者からみれば、和平問題に直接加わってしまう恐れがある」という。
トランプ氏は2月になって、大使館移転への意欲をトーンダウンさせている。
「移転については考えている。私は和平問題について学んでおり、何が起きるかはこれからだ」、とトランプ氏は「イスラエル・ハヨム」紙に語った。
イラン核合意をめぐる交渉
ネタニヤフ首相は、イラン核合意をめぐる交渉について、オバマ前大統領と意見が衝突していた。KEVIN LAMARQUE / REUTERS
ネタニヤフ首相もトランプ大統領も、イラン核合意をめぐる交渉を好ましく思っていない。核合意については2015年にイランと国連安全保障理事会の常任理事国5カ国との間で交渉があり、イランへの経済制裁を緩和する代わりに、イランの核兵器開発を制限することとなった。
イスラエルは長年にわたり、イランに対する強硬措置を強く求めてきた。2014年、ネタニヤフ氏は「イランには節度がない」と批判した。「自らの行いを悔いることも、改めることもなく、イスラエルの消滅を求め、国際テロリズムを助長する、それがイランという国だ」
ネタニヤフ氏はイラン核合意反対の最強硬派のひとりで、核合意を「驚くべき、歴史的大失策」と非難し、トランプ大統領による合意破棄に期待を寄せている。
大統領選の間、核合意を破棄すると公言してきたトランプ氏は、今やその権限を手にしている。彼が独断で動くのか、閣僚に助言を求めるかは、まだわからない。
しかし上級顧問の中には、合意破棄を勧めない人間がいる。ジェームズ・マティス国防長官は、核合意の破棄は利点よりも大きな害をもたらすと主張してきた。「この核合意は、不完全な軍縮協定だと思う。これは友好条約ではない」と、1月12日の指名公認公聴会で、マティス氏は語った。「しかし、約束をした以上、アメリカは自らの言質に従って行動し、同盟国と協力しなくてはならない」
ネタニヤフ氏は、イランに向け新たな国際制裁を発動させるよう、同盟国に圧力を強めてきた。ネタニヤフ氏は6日イギリスを訪問し、新たな経済制裁に加わるようテリーザ・メイ首相に協力を要請した。しかしメイ氏は「核合意への明確な支持」を表明し、ネタニヤフ氏の試みは失敗に終わった。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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