ネパール大地震は災害援助に対する挑戦か?

災害援助はそれぞれの状況に応じて組み立てられなければならない。
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United Nations Office for the Coordination of Huma

どのような災害であっても、それぞれ独自の課題に直面するものだ。よって、災害援助はそれぞれの状況に応じて組み立てられなければならない。4月25日と5月12日に発生したネパール大地 震はそのことを如実に物語っている。私たち支援者の努力が最も効果を発揮するためには、被災国の地形的特性、文化、政治背景を理解することが欠かせない。

4月25日の地震は、主に僻地の村で暮らす人々に大きな影響を与えた。多くの家屋、診療所や学 校が破壊された。このことが、災害初期の捜索救助活動を進める上で最初の難関となった。レスキューチームの多くは災害発生直後から短期間のボランティアとして駆けつける。生存者をがれきの中から引き上げるために自らの命を危険にさらすこともいとわない。そして、やがて生存者を見つける望みが尽きた頃、こうしたチームは現場を引き上げ、これと並行してその他の援助活動が本格化する。

私たち国連人道問題調整事務所(OCHA:オチャ)は国連災害評価調整チーム(UNDAC:アンダ ック)を各国政府とともに運営している。ネパールでは、このUNDACチームがいち早く現地入りし、 各捜索救助チームと連携しながら被災コミュニティのニーズを確かめる活動を始めた。トレーニングを積み経験豊富なメンバーで構成されるこのチームは、ネパール政府当局や地元団体、そして国際機関と協力し、現地入りした団体や個人が一体的なコーディネーションのもとで活動できるよう素地を整え、様々な関係者を巻き込んだ緊急援助活動を迅速に展開させるための仕組みを立ち上げた。

いざという時のための備えが既にかなりなされていたことは、不幸中の幸いだった。シミュレーションや訓練も実施済みで、オペレーションセンターも既に設置され、中央でも地方レベルでも訓練を 積んだスタッフが配置されていた。これらの準備があったおかげで、震災発生後に素早く対応することが出来たと言える。それでも今回の地震のような大規模災害が起これば、こうした備えの度合いに関係なく、いかなる国の対応能力をも上回ってしまうだろう。まして、ネパールのようにアジアでも特に貧しい国にとってはなおさらだ。

国連は、ネパール政府当局、非政府組織(NGO)等のパートナー、そして地元コミュニティと共に、ネパールの人たちの生活が向上するよう長年にわたり協働してきた。しかし悲しいことに、ネパールが貧しさから抜け出し中所得国へと「卒業」するために積み重ねてきた努力の成果の多くが、今回の地震によって帳消しとなってしまった。それでも、志を同じくするパートナーが現地にいてくれたことが、きちんとしたコーディネーションのもと迅速な対応を行う上で大きな助けとなっている。

それでも、私たちの緊急対応はパズル全体の小さな 1 ピースにすぎない。今回の災害でネパ ールの経済と国民生活が甚大な影響を受けてしまった。直近のニーズを満たすための人道援助計画を、より長期にわたる復旧・復興努力と十分に調和させることが不可欠だ。その際、人びとのニーズを中心に据えてこうした計画作りをすすめなければならない。ネパール国民自身が、近隣、友人や家族で共に助け合いながら、まさに最前線でこの危機に立ち向かっている。人道援助と復興プログラムがこうした人たちにフォーカスしなければならない理由は、まさにそこにあるのだ。人々のニーズや心配事に耳を傾けることこそが、効果的な対応戦略 を練り上げる上での鍵となる。現にこうしたことは、かつてに比べればずっと容易になっている。今は様々なテクノロジーのおかげで、人道援助にあたる私たち自身が被災者にとっての良い聞き手となり、より高い透明性をもって援助の受け手となる人々への説明責任を果たしていくことが可能となりつつあるからだ。

ヒマラヤ山脈の淵に沿って広がる脆弱なコミュニティ一つ一つにたどり着くことは決して簡単ではない。限りられた資源を最大限活用するために知恵を絞ること。そのためには、空輸、あるいは陸路からの手段を巧みに用いることにとどまらず、人道援助物資を配布する代わりに現金の受け渡しを活用することも必要だ。現金による支援を導入することで地域経済を活性化するとともに、現地の人々は、それぞれのニーズと優先順位に応じて、必要なものを幅広い選択肢から選ぶことが出来るようになる。

また緊急援助は、外国政府による二国間資金協力や軍のアセットを活用すること等、様々な形でもたらされる。同様に、一般の人々からの送金といった形で、人道支援団体に資金が直接流れ込む。国連が透明性を確保するために努力を続ける一方で、こうした寄付等については自発的な報 告がなされているに過ぎない。

これまでのところ、援助活動は必要とされているところ全てに行き渡ってはおらず、資金面でも不足している。もし援助が僻地の村に早急に届けられなければ、雨季の到来により地震で受けた被害はより複合化し、被災者はさらに抜き差しならない、もっと弱い立場へと追い込まれてしまうだろう。雨季を目前に控え、対応できる時間は限られている。震災で家を失った人たちは、防水布を今すぐ必要としている。1 年で最も厳しい時期を乗り切るため、ごく簡素な最低限のシェルターをこしらえるためだ。平時ですら雨季のネパールでは様々な困難が生じるが、震災によってコミュニティ の脆弱性がさらに高まっていると言える。

家屋の修復や再建は喫緊の支援ニーズという意味では次の段階と言えるかもしれない。しかし、 被災者の心を安らげ、少しでも先のことを考えられるような希望を与えるという意味で、いのちを救う緊急人道援助と同じ位に必要不可欠だ。ネパール及び国外の関係者とのパートナーシップのもと、災害前から存在してきた脆弱性を克服できるようなより良い復旧・復興を進められれば、コミュニティがこれまで歩んできた発展への道のりに戻る道筋を付けられるだろう。

私たち国際機関とネパールの支援組織は、ネパール政府や民間企業その他の関係アクターとのパートナーシップをさらに強固なものとし、また次の災害に備えるためにも、より良い復興に向けて協働していかなければなければならない。

オリバー・レイシー=ホールは現在、国連人道問題調整事務所(OCHA)アジア太平洋地域ディレクターを 務め、同組織のアジア太平洋地域における活動を統括している。難民問題、調整、コミュニケーション、事業・計画管理等、人道支援分野で25年の実務経験を有する。

2011年3月より現職。前職はOCHAニューヨーク本部コミュニケーション・インフォメーションサービス部副部長。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連開発計画(UNDP)、欧州安全保障協力機構(OSCE)、 欧州委員会にも勤務経験があり、人道支援及びその調整に関して中国、ベトナム、インドネシア、イラク、クロアチア、アルメニア、朝鮮民主主義人民共和国で活動を行った。加えて、2002年から2005年にかけてUNDACアジア太平洋チームをマネージ。さらにOCHAが担う情報管理のグローバルな責任者を務めた他、同組織の災害時増員派遣メカニズム発展に寄与した。

英国イーストアングリア大学に学び、ジェンダーと開発で修士号を取得。

なお、OCHAの活動について詳しくは以下をご覧下さい。

このブログはハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。