病気の長男と高齢の母抱え、「転勤は困難」。男性社員の訴えをNEC子会社が認めず解雇。訴訟に発展

「人権侵害のレベルだ」と男性は憤りをあらわにした
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提訴後、記者会見する中正司光幸さん=大阪地裁
Kazuhiro Sekine

長男の病気などを理由に転勤命令に応じず、懲戒解雇されたのは不当だとして、大阪府の男性が7月1日、NECソリューションイノベータ(本社・東京)を相手取り、解雇の無効確認や慰謝料100万円の支払いなどを求める訴訟を大阪地裁に起こした。

訴えたのは、大阪府岸和田市の中正司光幸(なかしょうじ・みつゆき)さん(53)。

訴状などによると、中正司さんは約30年前、NECの子会社である「関西日本電気ソフトウェア」(現・NECソリューションイノベータ)に入り、大阪市内にあるNECグループのビルで勤務していた。

2016年に別の子会社「NECマネジメントパートナー」に出向し、同じビルにあるオフィスで勤務していたが、リストラの一環として、このオフィスが2019年3月末で閉まることが決まった。

2018年夏、中正司さんは川崎市の職場か、退職金が上乗せされる希望退職を選ぶよう上司から迫られたという。

中正司さんは、小学生の長男が頭痛や嘔吐などを伴う自家中毒で、発症した場合は学校に迎えに行く必要があることや、同居している母も高齢で体調不良が続いていることなどから川崎への転勤には応じられないと回答した。

その上で、同じビルに入っている別のグループ会社のオフィスでの勤務を希望した。

会社側からは、このビルの清掃業務を請け負う別会社への出向を提案されたが、中正司さんは「顔見知りが多数いるフロアやトイレの清掃業務で、見せしめ的な意味合いがある」と拒んだ。

出向元のNECソリューションイノベータに戻り、システムエンジニア(SE)として勤務することも検討されたが、中正司さん自身、SEの業務は15年以上ブランクがあることなどから双方で合意にいたらなかった。

2019年4月上旬、中正司さんは会社側から川崎への転勤を命ずる「業務命令書」を受け取ったが、それに応じなかったところ、中旬になって懲戒解雇されたという。

原告側は、転勤命令自体が「業務上の必要性はなく、転勤に応じられない事情がある者を退職に追い込むのが目的」と主張している。

また、家族の事情にも配慮がなく、「育児・介護休業法の趣旨に反する」とし、人事権の乱用に当たると訴えた。

一方、転勤に応じなかったことを理由に懲戒解雇されたことについても「会社側による権利の乱用だ」としている。

育児と転勤をめぐっては最近、大手化学メーカー「カネカ」が育休明けの男性に転勤を命じたことを家族がTwitterに投稿して「炎上」するなど、社会で注目されている。

提訴後、代理人の弁護士とともに大阪地裁で記者会見した中正司さんは次のように憤りをあらわにした。

「長男の病気など、私の家庭の事情については会社内では周知の事実だった。それを分かった上でこうした転勤を命じたのは人権侵害のレベルだ」

グループ企業の広報についても担当しているNECの広報担当者はハフポストの取材に対し、「会社としては本人の意向や家族の事情を確認し、最大限の配慮をしました。今後は訴状の内容を確認した上で対応します」と答えた。