近年、「ダイバーシティ(多様性)」「インクルージョン(包括・包含)」という言葉を聞く機会が増えました。しかし、多くの人にとっては、なかなか身近な問題として捉えづらいのが現状ではないでしょうか。
元TBSアナウンサーで、独立後にエッセイスト、タレントとして活躍する小島慶子さんは、オーストラリアとの二拠点生活の中で改めてダイバーシティやインクルージョンの大切さに気づいたそうです。人権尊重という大前提がありつつ、それらに注力することは組織や社会の成長にもつながるといいます。
3月8日に開催されたNECの社内イベント「NEC Inclusion & Diversity Day」*に小島さんが登壇。2025年までの中期経営計画でインクルージョン&ダイバーシティ(以下I&D)を重視するNECとともに、多様な人材が活躍する未来への可能性をひもときます。
1人で考えたものにはどうしても死角がある
TBSのアナウンサーとして15年活躍し、現在はタレント、エッセイストとしてマルチに活躍している小島慶子さん。さまざまな番組やコーナーを担当しましたが、自ら積極的に発言して構成や台本にも関わった現場は、今でも印象に残っているそう。
「ときには、有名大学卒の社員、専門学校を出て技術を磨いたベテランスタッフ、そして当時の私のような入社したての若者が、対等に意見を出し合えた現場もありました。すると、当初の想定よりも面白いものができたりするんです」
そんな時は視聴者やリスナーからも反応が良く、手応えを感じたといいます。全く異なるバックグラウンドを持つ人々が「知」を集結させることには意義がある、と確信したそうです。
「今、物を書く仕事をする中でもそれは感じます。1人で考えて書いたものにはどうしても死角がある。編集者の方々が指摘してくださり、より多くの人に伝わるものになった、という経験が何度もありました」
オーストラリアのタクシー運転手たちから学んだこと
小島さんは2014年に家族の拠点をオーストラリアの都市・パースに移し、現在、仕事がある東京と行き来をするという二拠点生活を送っています。
「オーストラリアに行くと、言葉にも不自由しますし、日本で働いて家族を養っている私には、現地での経済的基盤がありません。アジア系はマイノリティです。自分がオーストラリアでは極めて脆弱な立場にあることを実感します」
小島さんの心の拠り所になったのは、空港から自宅まで40分の距離を運んでくれるタクシー運転手の存在。その多くが移民で、中には紛争地区から逃れてきたという人もいるそう。なんの縁もない土地で懸命に働く姿を目の当たりにし、会話の中でも勇気づけられたそうです。
「すると、東京に戻ってきた時に目に映る景色が変わったんです。それまで、海外から日本に来てコンビニで働いている方の姿は目に入ってはいたけれど、その孤独や不安にまで思いを馳せたことはなかった。その方々と、オーストラリアでの自分が重なりました。脆弱な立場に置かれるまで、見えなかったことがあったんですね」
いつもと異なる立場に立ち、視点を変えて世界を見ることの大切さを改めて実感した経験をお話しされました。
まだまだ意思決定層に女性が少ない日本
「NEC Inclusion & Diversity Day」が開催された3月8日は、ちょうど国際女性デーというタイミング。
多様性の推進に関してジェンダーの分野を見てみると、日本は2021年の「ジェンダーギャップ指数2021」では156カ国中120位という結果でした。
小島さんは女性を取り巻く現状について「女性が能力を発揮できない社会は、そもそも第一に公正ではない」と語ります。
「人権を尊重する、というのは最も大切な原則です。日本では人権という言葉を“物議を醸すから”と敬遠しがちですが、人権を他人事のように思って生活できるのは、まさに自身の尊厳や権利が守られているからこそだと知ってほしい。ジェンダー格差も、人権の問題であるという認識が不可欠です」
NECでは森田社長を委員長とする「I&D推進委員会」を立ち上げ、企業の女性役員比率向上を目指す世界的キャンペーンの日本版「30% Club Japan」にも加盟するなど、さまざまな取り組みをおこなっています。
しかし、日本全体では依然として意思決定層に女性が少ないという現状を、小島さんはどのように見ているのでしょうか?
「100年待つわけにはいきませんから、クオータ制*の導入は重要。そして、責任者は男性がやるものという思い込みを外すこと。女性も含めたより大きな母数の中からリーダー候補を選べば、より多くの優秀な人材に出会えますよね」
意思決定層への女性の登用が増えれば、女性リーダーの中にも多様性が生まれることも大きな意義。
「個人の生き方や、発揮するリーダーシップの種類など、さまざまなタイプのロールモデルがいれば、これからリーダーを目指そうという女性も、自身のキャリアの選択肢を広げやすいのではないでしょうか」
「あれ、これってNGなの?」という気づきを与える
まだまだ課題は多いものの、多様な社会の実現を求める機運は高まってきています。小島さんは、世の中は着実に変わってきている、と語ります。
「私たちの日々の会話や、SNSで何に『いいね』をするか、小さな積み重ねも大事なんですよ。例えば、セクハラめいた冗談を言われて、その場で『やめてください』と言うのは難しいこともあるかもしれません。でも、周りの人も含めて、これまで笑って受け流していたのを笑わないようにするだけでも『あれ、これってNGなの?』という気づきを与えることができるでしょう」
「そもそも社会はずっと昔から多様でした。にも関わらず多様性がないように見えるのは、無理して“普通”に合わせている人や、障がいや病気、自身のルーツや性的指向、性自認など、さまざまな“人との違い”を『隠す方が生きやすいから』と、隠さざるを得ない人たちがいる、ということです」
誰もが人権を脅かされることなく、安心して共存できる社会──その実現がこれまでにない苦労を伴うとしても、確実に目指すべきことなのだと信じて皆で行動し続けることが大事、と小島さんは語りました。
組織の心理的安全性を高めるためにできること
そして、当日のイベントに参加していたNEC社員からはこんな質問が。
「NECでは、I&Dの重要性が社内に浸透してきていますが、I&Dが実現した先の組織の形がどうなっているのか、どういう関係性が成立しているのか、イメージできている社員は少ないかもしれません。個人のレベルでどんな努力ができるでしょうか」
小島さんは次のようなアドバイスを送りました。
「ランチ会など、いろんな人が『自分語り』できる場所をつくってみては。人のストーリーを傾聴するということも大事。自分は1人じゃないし、こういう話をしてもいいんだ、と、職場への信頼も育むことができると思います」
これは、自身がTBSでの会社員時代に労働組合の執行委員として、さまざまな社内制度の改善に尽力した頃の経験によるものだそう。
「当時、仕事と子育ての両立という課題が今ほど広く共有されていませんでした。そこで、困っていることをシェアするランチ会を開いたら、子育て中の女性ディレクター、介護中の男性など、様々な人が思いの丈を語ってくれました。大変な思いを誰にも言えず、困っているという人は多いはず」
ここは自分の思いを語っていい場所なのだ、という心理的安全性を生み出すことが何よりも大事なこと。それは、家庭、学校、職場、社会、国、全てのコミュニティに当てはまります。まずは身近な場所で、相手の話を傾聴し、尊重する。その姿勢が、多様性豊かな社会の実現に近づくための一歩なのかもしれません。
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「NEC Inclusion & Diversity Day」では、毎月おこなっている森田社長と社員との対話の場「CEO タウンホールミーティング」もI&Dをテーマに開催。加えて、全世界のNECグループ社員を対象に「Driving Innovation for the Future」と題した、森田社長と、NECのインド、欧州の海外現地法人やイギリスのグループ会社のリーダーによるパネルディスカッションも実施されました。
日本国内では、NEC社内のカフェテリアで、3月8日限定ランチメニューなどの提供も。
NECは、I&Dを経営・事業における成長戦略そのものと考えています。ビジネスの成長に向け、国籍、年齢、宗教、性別、性的指向・性自認、障がいの有無に関わらず、すべての人が持てる力を最大限発揮できる職場環境を築く重要性を再認識すると共に、多様性が生み出すイノベーションについて、多くの社員が考える一日になりました。
▼NECが取り組むインクルージョン&ダイバーシティをもっと知る
NEC webサイト|インクルージョン&ダイバーシティ
▼「NEC Inclusion & Diversity Day」にあわせて制作された、NECグループで働く女性たちを紹介する映像
(文:清藤千秋 写真:小原聡太)