NATO(北大西洋条約機構)を戦略的な軍事拠点として今後も維持したいのであれば、大西洋同盟は21世紀型のNATOフューチャー・フォース(将来軍)を創設しなければならない。NATOのリーダーたちは9月上旬、ウェールズに集まり、世界で最も強力で民主的な軍事同盟の将来について検討した。彼らが議論を始めるなか、ロシア軍はウクライナを分割しつつある。アフガニスタンの将来は再び疑わしくなっている。イスラム国の狂信者たちは中近東全体の国家構造を脅かしている。急速に発展するサイバー、ミサイル、核の各技術は、NATOの重大な2つの空間----戦闘空間と安全保障空間----の様相に変化をもたらしている。
2014年9月は、このように、NATOの「重心」として記憶されるだろう。つまり、それは、NATOが戦略的に関係性を持つことにするのか、しないのかを選択する決定的な瞬間のことだ。前者の関係性を持つことを選択するのであれば、2014年9月は、真に21世紀型の同盟の誕生を刻むにちがいない。加盟国が防衛と軍事の計画を選択するよう突き動かしている、集団防衛と危機管理、協調的安全保障といった、全体的に関連性のあるNATOの戦略的な概念によって、新たな同盟は形作られる。
同盟は2つの目的を念頭に置いて作られている。戦争を防ぐこと、そして、必要があれば、戦争に勝つことだ。影響力と効果は、重要かつ戦略的な「商品」の2つであり、同盟はそれで「取引」している。加盟国間の取り組みと目的をめぐる戦略的な統合をする段階や、加盟国が軍隊の相互運用をする度合いによって、同盟は浮き沈みをする。どちらか、あるいは両方を失うことで、同盟は事実上、機能は無能になる。
■ ドイツ陸軍にとっての暗黒の日
1918年3月21日、帝政ロシアの崩壊によって強化されたドイツ帝国陸軍は、ミヒャエル作戦を開始した。これは、アメリカ軍が大挙してやってくる前に、ドイツがイギリスを打ち破り、第一次世界大戦に勝利するための必死の試みだった。
戦闘初期の頃には、ドイツ軍の突撃隊員たちがすばらしい成果をあげていた。この前進は単純に軍事力の賜物というわけではなかった。イギリスとフランス、とりわけロイド・ジョージのイギリス内閣でも、危険なほどに戦略をめぐって立場が分かれていた。「西側」は、フランダースの戦場でドイツ軍を倒すことが戦争に勝利する唯一の方法であると信じていた。しかし、いわゆる「東側」は、トルコやその他の場所でドイツの側面を攻撃されることでドイツ帝国が倒されると信じていた。
取り組みと目的をめぐる戦略的な統合の欠如は、フランスの古ソンムの戦場周辺の重要な地域でのイギリスの防衛を丸裸にした。ありがたいことに、1914年以降、イギリス軍は、軍事戦略と戦術の分野で、真に革命的な進歩を遂げていた。イギリスは分裂するというよりも、むしろ十分良好な形で撤退した。その際、着実にドイツの突撃隊員のエリート軍団を弱体化させ、これは消耗したドイツ帝国軍がこれ以上前進できなくなるまで続いた。
ルーデンドルフ将軍が「ドイツ陸軍暗黒の日」と称した、1918年8月8日のアミアンの戦いで、フランスとアメリカの支援を受けたイギリス連邦軍は、大規模な反撃を開始した。イギリスはまったく新しい形の機動戦を導入した。諸兵科連合部隊だ。航空機、戦車、砲兵、歩兵がお互いに支援しながら密接に行動をし、ドイツ軍を粉砕していった。その後、百日攻勢として知られるようになった戦闘が、事実上、第一次世界大戦を終結させた。
■ NATO対ロシアのウクライナ代理戦争
ありがたいことに、同盟は今日、戦下にあるわけではないが、NATOは間違いなく、ミヒャエル作戦と政治的に同じような状態に直面している。他のことはともかく、ロシアによる東ウクライナの代理とそれほど代理的ではない侵略は、警鐘以外の何ものでもない。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって何をすべきなのか、同盟のリーダーたちは戦略的に不明確で、意見が深く割れたままでいる。この分裂は取り組みと目的の戦略的な統合の欠如を反映するだけでなく、アメリカによる保護を求める者たちと、軍事力はソフトパワーの単なる補助役であると見ているヨーロッパ人との間で深く分裂するNATOも反映している。NATOは、最近著しく欠けていた大志の共有度合いを再発見する必要がある。今の状態は、モスクワがつけ入るには願ってもない好機だ。
急速に戦線拡大するアメリカに代わって、それに近い軍事的な派遣能力を発揮できる国は、イギリスとフランスだけだ。しかし、ここ10年の軍事作戦と防衛削減の結果、イギリスとフランスの小さな部隊は疲れ果てている。つまり、ウェールズ会議がNATOの21世紀の「重心」となるならば、同盟は影響力、抑止力、防衛の要となる軍事的信頼性の外観を再確立するため、最初の数歩を踏み出さなくてはならない。
NATOは今後の課題と絡む軍事的な核心部分で、将来の軍を保持する必要がある。そのため、同盟は、その軍事的なルーツに戻り、戦略の追求における軍事力の有用性を大幅に再検討しなくてはならない。この目的のために、ウェールズ会議は根本的に重要で不可欠とされる以下の3つの軍事的決定を下すべきだ。
- 集団防衛: NATO第5条の集団防衛を、サイバー防衛、ミサイル防衛、さらには現代の防衛に不可欠な高度で展開可能な軍事力の3つを中心にして近代化、再編成する必要がある。21世紀の諸兵科連合部隊は、NATO軍とともに構成され、世界規模と現代の戦争の6つの領域--空、海、陸、サイバー、宇宙、知識--で機能するように構成されなくてはならない。
- 危機管理: 欧州連合軍最高司令部(SHAPE)、NATO即応部隊と高即応部隊(HRF)は、NATOフューチャー・フォースへと大幅に再構成される必要がある。このような軍は同盟の取り組みと目的をめぐる軍事的な統合の原則が前提となるだろう。そして、このことが逆に同盟が複雑な連合を効果的に設けさせ、効率良く指示、制御することを可能にするだろう。この連合は、高度なハイテク戦争から、モスクワがウクライナで展開中のハイブリッド的あるいは曖昧な種類の戦争に対する防衛までを含むミッションの領域にまたがるものだ。
- 協調的安全保障: 世界の安全保障とヨーロッパの安全保障での信頼を保とうとするのであれば、同盟はその世界中の戦略的パートナー、国家と機関、軍と民間人すべてとともに働けるよう、調整される必要がある。実際、ヨーロッパの安全保障と世界の安全保障を再度結びつけることは、NATOの最優先の指令であると言えるかもしれない。
世界中で対応できるNATOのフューチャー・フォースは、新たなNATOの中心に据えられなくてはならない。NATO 2020、スマート防衛、兵力連結イニシアティブについての現在の計画概念は、事実上、NATO即応部隊と高即応部隊と統合され、21世紀の諸兵科連合部隊になるものだ。各国の軍事能力と提供可能力との間の必要なバランスを保つような軍事の中核部分において、NATO軍の深くて有機的な結合ぶりは、必要不可欠な相互運用のメカニズムとなるだろう。
NATO加盟国が最低でもGDPの2%を防衛に使う必要性がきちんと説かれてきた一方で、このような支出がどのような将来の軍を創設すべきなのかについては十分に議論されていない。この2%のベンチマークが政治的に信頼のおけるものとなるためには、各国のリーダーたちがそれぞれの軍隊にいくら費やすかということだけを確信するのではなく、そのような支出がどのような軍を実現し、それがなぜ必要なのかということを確信することが必要だ。「金額に見合った価値」は今日、防衛についての必要不可欠なスローガンだろう。
NATOのポスト・ウェールズの戦略的な軍事体勢には、重要で新たな要素が加えられる必要がある。それは知識だ。軍事的な能力についてのすべての議論の中で、NATOの戦闘での重要部分となるのは、共有された知識と、それが生み出す環境や実践についての理解だ。
実際、知識は相互運用性にとって必要な要素だ。これは、政治的なレベルでのキャンペーンでも、軍事レベルの作戦でも同様だ。さらに、共有された知識は、各メンバー間の極めて重要な信頼を高めるためにも重要だ。この信頼については、今日、痛ましいほどの挑戦がなされている。
同盟は迅速に行動しなければならない。これは、現代の相互運用性が、10年以上の作戦と、情報の共有で強化されたメカニズムのそれぞれから得られた知識の上に成り立っているためだ。実際、このような知識は、体型的にこれを確保するための手順が実施されなかったり、革新的な運動、教育、訓練を通じてNATOのフューチャー・フォースへ組み込まれなかったりすれば、すぐに失われてしまう可能性がある。
何はさておき、NATOは信頼性のある戦略的軍事拠点であり続けなければならない。そのため、NATOのフューチャー・フォースは戦闘をする軍でありながらも、アメリカとヨーロッパ、さらには各加盟国の軍事力の間のしきい、さらにソフトパワーとハードパワーの間のしきいに、素早く機敏で展開できなる状態でなくてはならない。
ドイツのメルケル首相は、8月末のEU首脳会議で、ウクライナ危機の解決が本質的には軍事的なものにはならないとの発言をした。彼女は正しい。実際、非常に危険な世紀となり得る時代の多くの危機は、ソフトパワーのツールと政治的な解決策を何よりも要求するものだ。この現実は、EUとNATO間の効果的なパートナーシップと民間との軍事協力でのさらなる重要性を浮かび上がらせている。しかし、NATOの本質である、信頼性の高い確固たる軍事力の基盤なしでは、ソフトパワーはかつてイギリスの哲学者トマス・ホッブズが書いたように、「剣のない誓約」であり、「単なることば」でしかない。
この危険な21世紀は西側が一致団結して強くあれば、より安全なものになるだろう。強い西側とは、強力で信頼性のある軍事力の上に構成される、強力で正当性のあるNATOを意味している。ウェールズは、行動を起こすべき場所であり、そうするタイミングだ。また、NATOが革新的になる場所と時機でもある。
ジェームズ・G・スタヴリディス提督
アメリカ海軍(退役)、NATO元同盟軍ヨーロッパ最高司令官、マサチューセッツ州タフツ大学フレッチャースクール法・外交学部長。
ジュリアン・リンドレイフレンチ教授
国政研究所上級研究員、ヨーロッパ・アナリティカ所長、ワシントンDC国防大学特別客員研究員。
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