ナット・ヘントフ氏死去 反骨を貫いたジャズ評論家、ジャーナリスト、小説家

家族に囲まれてビリー・ホリデイを聞きながら息を引き取ったという。
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ジャズの巨匠、チャールズ・ミンガス(左)がナット・ヘントフと一緒にパイプたばこを吸う。1950年代終わりから1960年代初め頃に撮影。

ジャーナリスト、ジャズ批評家、活動家そして諜報員として、長年にわたり社会運動やアメリカ憲法修正第1条(言論の自由など)の擁護に貢献したナット・ヘントフが1月7日、91歳で亡くなった。

息子のニックさんがTwitterで、ヘントフはマンハッタンにある自宅のアパートで、老衰で亡くなったと伝えた。ニックさんによると、ヘントフは「家族に囲まれてビリー・ホリデイを聞きながら」息を引き取ったという。

残念なお知らせですが、私の父、ナット・ヘントフが今夜、91歳で亡くなりました。家族に囲まれてビリー・ホリデイを聞きながら、息を引き取りました。

ヘントフは当初ジャズ批評家として、1950年代にニューヨークで雑誌「ダウンビート」の編集者をつとめ、35冊の著作を残した。「ヴィレッジ・ボイス」では50年間にわたり、特にベトナム戦争、人種差別やメディアへの批評をしてきた。ワシントンポストやニューヨーカー、ウォールストリート・ジャーナル、エスクァイアといった雑誌にも寄稿した。

ヘントフは自由な言論のために戦う社会活動家だった。そのため、彼は相手が保守派だろうと進歩派だろうと、かまわずに衝突した。中絶や死刑制度に断固として反対する一方、ポルノは自由な表現として賛成した。「ポリティカル・コレクトネス(政治的な観点からみて正しい言葉使い)」の名のもとに、ぎこちない不自由な会話をしているときには、相手がゲイやフェミニストであっても容赦なく批判した。

ヘントフが2009年に「ヴィレッジ・ボイス」を解雇されたあと、ニューヨークタイムズのクライド・ハバーマン記者のインタビューで、「デューク・エリントンが固定観念にとらわれることの危険を自分に教えてくれた」と語った。「彼はこう言った。『決してジャンルにはとらわれるな。不自由になってしまうから』」と、ヘントフは回想している。

ヘントフは、トラブルメーカーとしての自分の立場を楽しんでいた。同僚からから次のように評されたことを、自分でも認めていたという。「彼はスカンクのスーツを着て(ひどい匂いを出して相手を打ち負かすスカンクのように)、毎週毎週、何度も繰り返し、屋外の社交パーティーに出向いている」

ナット・ヘントフは変人でした。彼は、抑圧し迫害してくる相手が左翼か右翼かは気にしませんでした。彼は抑圧されるのが嫌いでした。こんな例は本当にめったに見られません。

ナット・ヘントフの記事は読むのが面白くて、編集が楽しみでした。アメリカ憲法修正第1条擁護の急進派で、鋭い音楽批評家、そして好奇心旺盛なレポーターでした。頼りになる男でした。

彼は激しい怒りの気持ちを決して失いませんでした。ナット・ヘントフのご冥福をお祈りします。彼の最後のコラムをボイスで読む

ヘントフは1925年、ボストンのロクスベリーで、ロシア系ユダヤ人の移民であるサイモンとレナ・カッツェンベルグ・ヘントフの間に生まれた。初めの頃のお気に入りはベッシー・スミス、デューク・エリントン、ファッツ・ウォーラー、セロニアス・モンク、チャーリー・パーカーなどで、生涯を通してジャズを愛し続けた。ノースイースタン大学で学生新聞の編集者となり、ボストンのラジオ局で働いたあと、ニューヨークへ移った。1958年には、ヴィレッジ・ボイスで執筆活動を始めている。

ジャズ評論から始まって、市民の自由、政治、教育、そして何度も取り上げた言論の自由など、さまざまなテーマでコラムを書くようになった。ヘントフの著作は、ジャズ研究から若者向けの小説、人物評伝、社会問題の論評まで、さまざまだ。代表作は小説『ジャズ・カントリー』、ジャズ評論『ジャズ・イズ』、時事評論集『アメリカ、自由の名のもとに』などがある。

ヴィレッジ・ボイスの連載終了後も、ヘントフはキーボードを叩き続けていた。彼はハバーマン記者に、メディアにとっての「危険な時代」について語った。事実の確認・裏付け調査がされなくなりつつあり、読者は、単に自分の考えを強化するにすぎない、ウェブサイトの方に引き寄せられているという。

ヘントフは、ジャズミュージシャンのベン・ウェブスターが以前自分に語ったことについて話してくれた。「みんな、聞いてくれ。リズム・セクションがうまくいっていないときには、自分たちでやってくれ」

「私は編集者と一緒に、ずっとそんなことをやってきた」とヘントフは続けた。「それが醍醐味なんだ。人々を驚かせ続ける。というか、時には怒らせ続けるんだ」

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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