福島県楢葉町の町議会は、除染作業で発生する土壌や廃棄物を保管する「中間貯蔵施設」の建設をめぐり、住民投票の実施を求める条例案を反対多数で否決した。
楢葉町は、双葉町、大熊町とともに、政府から中間貯蔵施設の建設要請を受けており、住民投票を求めた住民団体からは「町の命運を左右する問題。町民の意思を直接反映すべき」との声が上がっていた。NHKニュースが次のように伝えている。
議会では、松本町長が「町だけの問題として住民投票を行うことは適当ではない」と述べ、条例案に反対する意見を表明しました。
一方、条例案を提出した住民グループの松本慶一代表は、「建設は、将来帰還しようとする住民の足かせとなる。町の命運を左右する問題で、町民の意思を直接反映すべきだ」と意見を述べました。
採決の結果、賛成4人、反対6人の反対多数で、条例案は否決されました。
(NHKニュース「楢葉町 中間貯蔵施設で住民投票求める条例案否決」2013/1/29 12:47)
■環境庁が正式要請 住民の3分の1が署名
2013年12月、環境庁は福島県内で発生した放射性物質を含む土や草木などを保管する「中間貯蔵施設」の建設を計画し、福島県や楢葉町などの地元自治体に受け入れを正式要請した。
これに対して、楢葉町の住民団体は署名活動を行い、建設受け入れの賛否を問う住民投票の実施を松本幸英町長に直接請求した。MSN産経ニュースによると、集まった署名数は町の有権者の約3分の1にあたる2151人で、条例制定の直接請求に必要とされる有権者の50分の1(126人)を大きく上回った。
住民からの請求を受け取った松本幸英町長は議会に条例案を提案。審議の結果、反対多数で否決された。
この結果に、条例案を提出した住民団体の松本慶一代表は、「誠に残念な結果だ。今回の問題は、直接住民に問う必要があると考えていたが、理解していない議員がいることが残念でならない」と述べた。
■2度目の否決 最終処分地決まらぬまま、約束
楢葉町で中間貯蔵施設の建設の是非をめぐり、住民投票条例案が否決されたのは今回で2度目となる。1度目は、2013年9月に結城政重町議が議会に提出し、そのときも一票差で否決された。
政府が初めて中間貯蔵施設を建設する考えを示したのは、福島第一原発の事故から5カ月経った、2011年8月。それから1年経った民主党・野田政権時代に、楢葉町を含む12の自治体が中間貯蔵施設の候補地として提示された。
12の候補地の中から楢葉町、双葉町、大熊町に正式要請された理由は、自治体内で大量の除染土壌が発生しているため、貯蔵施設までの運搬距離を短縮できることや、安定した地盤が広く確保できることなどが挙げられている。
「中間貯蔵施設」という名の通り、政府はこれらの施設を除染作業を進めるために汚染土壌を一時的に保管するためのものとしており、「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」と福島復興再生基本方針で明記している。
しかし、現在も最終処分地の具体的な候補地は見つかっておらず、中間貯蔵施設の候補地となっている自治体の住民からは不信感が募っている。1月22日放送のNHKの番組クローズアップ現代「故郷はどうなる 除染廃棄物に揺れる福島」では、町の将来を案じる住民や、建設を受け入れざるを得ないとする住民など様々な声が報じられている。
“先祖から受け継いだ土地を手放すことは、つらいですが、線量が高くて住めない所を、有効に使うことは必要だと思う”
”最終的な処分場所など、どこも受け入れてくれる所はないと思う。現実的には無理だと思います。国は県外に移すといっているが、30年も先のことなど、どうなっているか分かりません”
“除染で出た廃棄物を、どこかで受け入れなくては、復興は進まない”
■双葉町、大熊町の判断は
住民投票条例案の否決を受けて、松本町長は「正しい判断」と評価した。
松本町長は条例案が否決されたことについて、「議会として正しい判断をしていただいたと受け止めている。条例案提出に向け2151人の署名が集まったことは重く受け止めたいし、施設は迷惑施設には違いない。ただ、町単独で決められるものではないので、関係する町や県、それに国とさまざまな角度で協議を重ねていきたい」と述べました。
(NHKニュース「楢葉町 中間貯蔵施設で住民投票求める条例案否決」1月29日 12時47分より)
楢葉町と同様に環境庁から建設受け入れの要請を受けている双葉町と大熊町は、要請に対して明確な態度を示していない。
【※】楢葉町議会が住民投票条例案を否決したことをどう思いますか?コメント欄にご意見をおよせください。
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