巨大地震に備える「南海トラフ法」 これで防災対策は万全になるのか?
静岡県の駿河湾から九州の日向灘沖にかけ、日本列島に沿って伸びる「南海トラフ」。そこを震源にして起きる地震や津波に備えるための「南海トラフ地震対策特別措置法(南海トラフ法)」が昨年11月、国会で可決・成立した。
法律の柱は、避難施設の整備や、住宅・公共施設の高台移転事業を推進することだ。国から「津波避難対策特別強化地域」に指定された市町村は、達成時期を示した事業計画を作成し、国の補助を受けながら事業を進めることになる。
警鐘が鳴らされている南海トラフ地震だが、今回の特措法によって、十分な対策を講じることが可能となるのだろうか? 阪神大震災の起きた年に弁護士になり、震災問題に力を注いできた津久井進弁護士に聞いた。
●巨大地震に備えて「考えられる限りの措置」を講じる法律
「南海トラフ法は、東日本大震災の教訓を形にした法律です。近い将来、起こるかもしれない南海トラフ巨大地震に備えて、考えられる限りの措置を講じておこうというのが目的です」
具体的には、どんな内容なのだろうか?
「この法律には大きな柱が3つあります。
1つ目は、たとえば津波避難タワーや避難道路のような『逃げるための施設』を作ること。2つ目は、たとえば学校や病院などの施設を安全な場所に『高台移転』するのを財政的に支援すること。3つ目は、こうした高台移転をしやすくするように様々な特例を設けて『弱者を保護』することです。
具体的な手法としては、自治体の防災対策に対して補助金を出す(たとえば用地取得費の4分の3を国が負担するなど)といった仕組みが中心なので、自治体にとっては力強い法律と言えるでしょう」
●真に役立つのは「住民主体」の防災
住民の視点からすると、どうだろうか?
「この法律では、住民は主体ではなく、あくまで客体に過ぎません。憲法理念でもある『住民自治』という観点からすれば、この法律には重要な問題があると思います」
どういう意味だろうか?
「私は、防災対策は、一人ひとりの市民が主体的、自主的に行うことが大事だと思っています。
たとえば、高台移転は『防災集団移転促進事業』という手法がベースになりますが、これは全員合意を条件とする仕組みのため、住民間の合意形成が極めて重要です。
また、避難路の設置なども、地域をよく知る住民の目線が欠かせません」
地域住民が本腰を入れて、自らの問題として防災に取り組むのでなければ、効果も限定的になってしまうということだろう。そのためには、どんな仕組みが必要なのだろうか?
「こうした『住民主体』の防災を進めるためには、弁護士による合意形成支援など、住民間の協議をサポートするソフト対策が重要です。
つまり、住民が主体となり、これを行政がサポートしていくという視点を盛り込むことが、真に役立つ防災の条件だと思います」
津久井弁護士はこのように指摘し、住民主体の本質的な防災体制を目指していくべきだと強調していた。
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【取材協力弁護士】
平成7年登録(47期)。元兵庫県弁護士会副会長、日本弁護士連合会災害復興支援委員会副委員長。主な著書に『大災害と法』(岩波新書)、『Q&A被災者生活再建支援法』(商事法務)など。
事務所名: 弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所
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