世界に3点しか現存しないとされる「曜変天目茶碗」が新たに見つかったとテレビ東京の番組で放送され、真贋論争が起こっている問題で、私立・奈良大学がこの茶碗を分析した。奈良大は、ニセモノであれば使われているはずだと指摘されていた成分が「検出されなかった」と、3月1日に発表した。
発表によると、奈良大は茶碗の所有者から直接相談され、調査することになった。朝日新聞デジタルは、茶碗の所有者が「旧知の大学教授」に茶碗の釉薬の成分分析を依頼した、としている。
話を聞く中で、ニセモノだと言っている人たちは実物をまったく見ずに言っていることを知り、文化財調査の原則である、自分の目で実物を観ることがないまま真贋を云々することに疑問を感じました。
(テレビで話題になってしまった茶碗の分析を本学で行いました | 文化財学科からのお知らせ | 文学部:文化財学科 | 学部・大学院 | 奈良大学より 2016/03/01)
この茶碗をめぐっては、曜変天目の再現に挑んでいる陶芸家・九代目長江惣吉氏が、ヨーロッパで18世紀以降に開発された「スピネル顔料」(陶磁器の釉薬用絵具)を塗り付けて発色させたものだとする見解を発表。「12世紀から13世紀、中国の南宋時代に福建省で焼かれた」と鑑定していた古美術鑑定家の中島誠之助氏の主張を批判し、「ニセモノ」説を展開していた。
今回、奈良大が、発色させるための釉薬が使われているのかを「蛍光X線分析装置」で確認したところ、「発色の原因と考えられるような元素は検出されず、赤、青、緑、白(黄)、黒のどの色に見える部分も含まれる元素には大きな違いがない」と判明したという。
奈良大は「このことで、この茶碗がホンモノであることは証明できません」としたうえで、「ニセモノだと言う人達が主張しているようなモノではないことは確実になりました」と説明している。
■長江惣吉氏「極めてずさんな調査という印象」
一方、長江氏によると、奈良大の分析結果には疑問が残るという。長江氏は7日、ハフィントンポストの取材に対し以下のように語った。
奈良大学の分析結果の資料を見ましたが、基本的な欠陥があると思います。分析の主目的は私が指摘したコバルト・クロム・セレン・カドミウムの4種の発色物質が無いことの証明ですが、使用された分析機器はクロムの値が正確に出ないものでした。このことは調査報告書にも明記されています。
また、正確な分析には欠かせない純水による検体(茶碗)の洗浄も行われておらず、極めてずさんな調査という印象を受けます。私は中立的な立場の第三者による厳正なる再分析を求めたいと思います。
長江氏は2日、放送倫理・番組向上機構(BPO)へ番組内容の審査を求める申請を出した。
また今回の真贋論争をめぐっては、テレビ東京側の説明義務を指摘する声も出ている。上智大学の碓井広義教授は、朝日新聞デジタルの取材に対し、「そもそも鑑定結果は本当なの?というクエスチョンも含めて楽しむ番組だったのに、テレ東のリリースが、社会性の高いニュースにしてしまった」として、テレビ局側が視聴者に説明しないことを疑問視している。
テレビ東京はこれまでにハフィントンポストの取材に対し、「鑑定結果は番組独自の見解に基づくものです。また、番組の制作過程については従前よりお答えしておりません」と回答している。
【UPDATE】コメント内容を一部修正しました。(2017/03/07 20:38)