初のミリオン達成で「やり残したことは無い」 乃木坂46を卒業する橋本奈々未さんという生き方。

全てを投げ出して逃げることも出来る状況で、橋本さんにはとても二十歳過ぎの若い女性とは思えない心の強さがある。
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先日、乃木坂46の人気メンバー、橋本奈々未さんの卒業が発表された。

乃木坂46の橋本奈々未さんが両親に家を買った理由」では乃木坂46のドキュメンタリー映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」や各種インタビュー等を題材として、乃木坂46と橋本奈々未さんをお金・ビジネス・働きかたという視点から描いた。今回は前回書けなかった橋本さんが卒業するまでについて言及したい。

※記事内で触れた楽曲等は全てyoutubeの公式アカウントのPVを紹介しています。

■「お金の話ばっかりする人」が乃木坂46に加入するまで。

前回の記事でメンバーの松村沙友理さんや生駒里奈さんについて「看護大に合格して看護士になっていた自分」「地元の高校を卒業して就職や進学していた自分」を影のように抱えていると書いた。橋本奈々未さんもまた人気アイドルである一方で「もう一つの人生」「アイドルにならなかった自分」を抱えているように見える。

映画のインタビューでは、昔は海外に行きたいと思っていた事、その第一歩として地元の北海道を離れて東京へ行こうと思ったこと、そこで確実に東京に行くための口実として東京の芸大を受験したことなどを明かした。

奨学金は全て学費の支払いに使い、生活費はアルバイトでまかなったという。最近では奨学金の返済にまつわるトラブルが度々報じられるが、橋本さんも破たん寸前の状況で大学に通っていたようだ。

さすがにアルバイト代や生活費の額までは明かしてはいなかったが、例えばアルバイトで毎月10万円稼がないと生活が成り立たない、という状況ならばまともに授業を受けることも生活をする事も出来ないだろう。準備不足、計画倒れ、と言ってしまえば簡単だが東京での生活は予定通りにはいかず「困窮」の一言だったようだ。

あまりの酷い状況に、一緒に上京してきた友人や親から地元に戻っては?と言われたという。一度帰省した時に友達と集まってバーベキューやったんですよ、と楽しそうに話す一方で、これで地元に帰ったら必死で受験勉強をしたことやお金を貯めて上京してきたことが無駄になってしまう......と、橋本さんは進むことも引くことも出来ない状況に追い込まれていた。そんな中で乃木坂46のオーディションに合格した。

オーディションに受かると、すぐにフラッシュがたかれて、次の日の朝には雑誌とか新聞とかニュースに自分の顔が出ているという状況がつらくて、そこから毎日ずっと泣いてたんですよ。私は芸能界に入る覚悟をもって受けたわけではなかったので。

乃木坂46・橋本奈々未「整形はしてないです」変化の秘密を告白 - 桜井玲香、鳥居坂46への思い明かす (1) デビュー当時の自分「めっちゃブサイク」マイナビニュース 2015/07/29

他のメンバーを見ると加入前に楽器や歌、ダンスなど、芸能活動につながる習い事をしている人は多いが、橋本さんが高校時代にやっていたことはバスケットボール部のマネージャーで、引退後はアルバイトに受験勉強と、とても芸能活動にはつながらない。オーディションも特に準備せず臨んだという。

私ずっと将来の夢がなかったんです。特に乃木坂に入ってからは、自分がこの先したいことが見つからない状態で。でも、そろそろ本当に見つけたい。

乃木坂46・橋本奈々未「整形はしてないです」変化の秘密を告白 - 桜井玲香、鳥居坂46への思い明かす (1) デビュー当時の自分「めっちゃブサイク」マイナビニュース 2015/07/29

女優やモデルとしても活躍し、乃木坂46の御三家とまで呼ばれる人気メンバーの橋本さんは夢をかなえるため、あるいは夢を見つけるためではなく、お金を稼ぐために芸能界に飛び込んだ。

■橋本さんが抱える退学という影。

橋本さんは結成当初から度々体調を崩して、ノドがガラガラの状態でバラエティ番組に出演して笑いを誘っているシーンもあったようだ。映画では体調を崩した結果、2014年に行われた真夏の全国ツアーを途中から欠場し、最終日に行われた神宮球場でのコンサートに出られなかったことを「差が広がった」と語っている。

すでに卒業したメンバーについて、ライブやミュージカルなど大舞台に参加できなかった人はその後辞めてしまうことがある、一度そういうことがあると埋めようのない差を感じるからでは、と説明している。自身もそんな状況になったから辞めた人の気持が分かるということだろう。

結局2014年に橋本さんは夏のライブを休み、大学も退学することになったようだ。金銭的に厳しい状況だったとはいえ、乃木坂46のオーディションに合格しなければ橋本さんもまたごく普通に大学を卒業して、就職をしていたか、あるいは大学生活が続けられなければ地元に戻って働いていたのだろう。

■橋本さんの目標は他のメンバーとは異なる。

病院と友達、と母親が表現するほど病気がちだった橋本さんだが、毎日同じ場所・同じ時間に通勤する会社員とは異なり、プレッシャーと戦いながらライブや握手会、テレビ番組などで全国を飛び回って不規則な生活を送れば体調を崩さないほうが不思議だろう。

退学を後悔しているかどうかは友人でも親族でも無い自分には分からない。ただ、前述の松村さんや生駒さんと同じように「大学を辞めなかった私」という、もう一つのあり得た人生を橋本さんは影のように抱えているのではないかと思う。

そんな状況でも、映画では「私も含めて家族がやっていけるまで活動する、目標はハッキリしている」と他のメンバーとは意味も方向性も全く異なる場所にゴールを設定していることや、すでに卒業を意識しているような発言も1年以上前の映画で見え隠れしている。弟さんの学費の話や来年には家を買うという話も、これらの話の一部として語られている。

家族を支えるためにキッチリ仕事をする......これが橋本さんのスタンスだろうか。芸能活動を嫌々やっているわけでないことは間違いないようだが、アイドルとしての活躍を目標とする他のメンバーとはスタンスが随分違う。全てを投げ出して逃げることも出来る状況で、橋本さんにはとても二十歳過ぎの若い女性とは思えない心の強さがある。

■自由とは「自由席」の事である。

タレントに限らず、誰であっても好きな仕事を選ぶ自由がある。そして「自由」という言葉には一見するとマイナスのイメージは全く無いように見える。

ただ、自由であることは個々人に選択や判断が委ねられており、その結果失敗したり嫌な思いをしたりする可能性がある。これは新幹線の「自由席」をイメージすると分かる。自分が座りたい場所には他の誰かが座っているかもしれず、どこにも席があいていないかもしれない。隣に誰が座るのかも分からない。自由には結果を引き受ける「責任」がともない、望んだ結果を得られるか分からない「不安」がつきまとう。

では指定席なら安心かというと、そこに自由は無い。一昔前まで王様の子供は王様で、農民の子供は農民にしかなれず、他に選択肢はなかった。つまり自由を求めるならば責任と不安から逃れることは決してできない。

映画で描かれるのは、橋本さんをはじめ乃木坂46のメンバーたちが自らアイドルの道を選んだことで生じる重い責任、そしてアイドルとしてやっていけるのかどうかという不安だ。これはアイドルを選んだ自分との戦いであり、ライバルであるAKB48との戦いであり、ファンやレコード会社の期待という名のプレッシャーとの戦いでもある。

■ミスチルの桜井さんがカバーした乃木坂46の名曲。

記事を書いている時にミスターチルドレンのボーカル・桜井和寿さんが乃木坂46の歌をカバーしたという話を目にした。2016年7月に開催された、「寺岡呼人presents Golden Circle 第20回記念スペシャル~僕と桜井和寿のメロディー~」というライブで披露されたという。残念ながら現時点で音源を無く聞くことは出来ないようだが、カバーしたのは「きっかけ」という曲で桜井さん本人が非常に気に入って歌うことを決めたようだ。まるで自分が書いた歌詞みたい、と言うほど気に入っているという。

観客1万3000人を前にして、桜井と寺岡、さらにキーボードを担当していたKを合わせた3人で歌唱したのが、乃木坂46の2ndアルバム「それぞれの椅子」に収録された「きっかけ」だった。

~中略~

当然、この事件は乃木坂ファンにも大きな衝撃を与えており、「桜井、ありがとう!」「誰が聞いてもイイ曲だもんな」「ついに乃木坂も有名アーティストにカバーされる時代が来たか」など、まさに感動コメントが連打されている

ミスチル桜井和寿が乃木坂46の「神曲」をカバーしファンが大コーフン状態に アサゲイプラス 2016/07/11

この曲はアルバム発売時には歌番組でも披露されているが知名度で言えば他のシングル曲よりも随分下がると思うが、ファンの間では名曲として知られているという。桜井さんがカバーしたと言われてさすがに気になって聞いてみると、映画で描かれた乃木坂46のイメージと重なるような内容になっている。

*サビ1

決心のきっかけは

理屈ではなくて

いつだってこの胸の衝動から始まる

流されてしまうこと

抵抗しながら

生きるとは選択肢

たった一つを

選ぶこと

*サビ2

決心のきっかけは

時間切れじゃなくて

考えたその上で未来を信じること

後悔はしたくない

思ったそのまま

正解はわからない

たった一度の

人生だ

*ラストBメロ

ほら 人ごみの

誰かが走り出す

釣られたみたいにみんなが走り出す

自分のこと

自分で決められず

背中を押すもの

欲しいんだ

きっかけ

「きっかけ」より一部抜粋・引用 乃木坂46 作詞・秋元康 それぞれの椅子より

力強いサビとくらべて、背中を押してくれるきっかけが欲しい、とその後にやや弱気な歌詞でブレているあたりは映画から受けた決心と迷いを行き来しているようなメンバーの印象に近い。

歌の世界と現実がリンクし、リアルとフィクションがないまぜになっている感じが何とも面白い。これは秋元氏ならではの作詞ということになるのだろう。桜井さんまでベタ褒めしている状況を見ると、単純に可愛いとか歌が良いといったことだけでなく、全てをひっくるめて乃木坂46の存在がファンの心をつかんでいるのではないかと思う。こういった曲は自分のような「一見さん」ですら興味深く感じるのだから、ファンにとってはたまらないだろう。

きっかけ 2016/05/25 (それぞれの椅子に収録)

■50億円稼いでもお金持ちに慣れなかったあの人の話。

自分は「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人」という本で、お金の使い方はその人の生き方そのものだと書いた。「50億円稼いでも金持ちになれなかったあの人の話」という記事では元プロ野球選手の清原氏が多額の収入を得たにも関わらずお金を使いきってしまい、挙句の果てには罪を犯して逮捕され、弁護士費用にすら困窮したという話にふれた。お金を湯水のように使う贅沢な暮らしを送っても、清原氏は自身にとって何が大切で何をしたかったのか、真正面から向き合って考えることが出来なかったのではないかと思う。

では卒業を決めた橋本奈々未さんはどうか。

収入のことだけを考えれば芸能界にいたままのほうががいいんじゃない?といった話をデビュー当時からバラエティ番組を一緒に続けてきたバナナマンの設楽さんに聞かれても、橋本さんは笑って受け流すだけだった(乃木坂工事中 テレビ東京 2016/10/31)。二十歳すぎの女性が弟の学費を払って実家の住宅購入資金まで準備出来たのだから、設楽さんの指摘は間違いないと思うが、それでも必要なお金を稼いだから辞めるという判断を下した。

番組では卒業の理由として弟さんの学費に目処がついたといった発言もあったが、これはお金に苦労したからこそ、何が大切でどこにお金を使うべきか、お金に振り回されずに済むだけの判断力が身についたのでは無いかと思う。

グループ卒業後は個人で活動はせず芸能界を引退するようだが、次に何をやるかは決まっていないという。秘書検定の資格を勉強しているとインタビューで答えているが、秘書を目指しているわけでもなさそうだ。

ただ、芸能界を引退するのなら今後については橋本さんを追いかけ回すべきではないし詮索もすべきではないのだろう。

※橋本さんが家計を支えていた事について、社会保障等の不備を美談のように語るのはおかしいといった指摘も一部である。これについて学費に目途が付いた理由の一つに弟さんが勉強を頑張って学費免除の特待生になったことも説明している。それぞれが出来る範囲で頑張った結果だろう。大学の学費をどこまで公費で賄うべきかは議論の余地もある。制度の不備は批判されて然るべきだが、家庭の事情については他人がとやかく言うような話ではないだろう。

■お金の使い方はその人の生き方そのものである。

正しくお金を使う事は、稼ぐことと同じかそれ以上に難しい。なぜなら何が正解なのか人によって異なり、しかもその答えは自分自身で決めないといけないからだ。橋本さんはアイドルとして成功した結果、若くして大金を手にしたと思うが、何が正しい使い方なのか、自身で考えて決めることが出来たのだろう。

体調を崩しながら命を削って得たお金を、自分の意思で誰かのために使う......その経験は今後の人生で大きな自信につながるのではないかと思う。お金の使い方はその人の生き方そのものだ。自身の意思を貫いて目的を遂げたことは、NHKの紅白歌合戦に出場したり、ドームでコンサートに出演したり、そんな経験に負けないほど意味があるのではないかと思う。

ファンの方がいなかったらここまでこられなかった。

引退後は皆さんにとっての私ではないかもしれないけど、私にとってファンの方はずっと居続ける。

その人たちの力が無いと先にも進めないと思う。

これからも感謝をして生き続ける。

橋本さんはこれまで応援してくれた人たちについてこんな話もしていた(乃木坂工事中 テレビ東京 2016/10/31 一部補正済み)。ファンにとっては突然の卒業と引退でショックを受けているかもしれないが、ここまで言って貰えるなら本望ではないだろうか。

橋本さんがセンターを務め、最後の作品となった「サヨナラの意味」は初の100万枚を突破したと報じられた。この結果を受けて、橋本さんは卒業にあたってやり残したことは無いと答えて来たけど改めてやり残したことは無いと実感がわきました、とコメントしている。

ミリオンを達成した事で公式ライバルとして「AKB48超え」に王手がかかったと言えるかもしれない。前回の記事で書いたように、プレッシャーに追われながらAKB48を追いかける立場から、今度はAKB48から追いかけられる立場になるのだろうか。

来年二月の卒業まで、橋本さんの最後の活躍に期待したい。

悲しみの忘れ方 2015/10/28 (ドキュメンタリー映画表題曲・「今、話したい誰かがいる」収録)

サヨナラの意味 2016/11/09 (橋本奈々未さんセンター曲&卒業曲)

悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46 2015/07/10 (映画の解禁用映像)

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参考書籍

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー

※本稿及び前回の記事は橋本奈々未さんや乃木坂46のメンバーに関するプライベートな情報を多数含んでいますが、全て映画やテレビ、インタビューなどで公表された情報のみ利用しています。それ以外の内容は筆者の見解および憶測を含んだ文章であり、内容に間違いや誤解を招く表現があれば文責は全て筆者にあります。