歌手の安室奈美恵さんが、2018年9月16日をもって引退すると発表した。
数々のミリオンセラーを生み出し、日本の音楽シーンを牽引し続けた歌姫の引退発表に、「平成の終わり」と表現する声もネット上であがった。
安室さんは引退の理由を明かしていないが、人気に未だ翳りがないこのタイミングでの引退宣言に、潔さと、引き際の美しさを感じさせた。
安室さんに近い芸能関係者はハフポスト日本版の取材に対し、「真相は本人にしか分からない」と断ったうえで、「安室奈美恵さんの美学ではないか」と語った。
安室さんは、歌とダンスで魅せる正真正銘のアーティストだ。メディア露出は少なく、ライブ中はMCを挟まないことでも知られている。そのストイックな姿勢や生き方に、多くの人が魅了された。
「安室奈美恵さんは、芸能界の中でもトップクラスのプロ精神を持ってる人。ダンスを見せることに強いこだわりがあり、体を鍛えてひとつ一つの動きにこだわりを持っている。高い水準を目指す安室さんが凄すぎて、ついていけなくなってしまうスタッフもいたほどでした」
「自分が理想とするパフォーマンスが見せられなくなってしまう前に、ファンにそういうところを見せないための引退のように感じた。彼女の美学につきる」
引退の真相はわからないが、安室さんの、自分の中の"完璧"を追求しているような姿をみると、「美学」という言葉にも納得感があった。
私は平成元年生まれだ。
アムラー世代とは少しズレているが、小学校から高校時代にかけて、安室奈美恵さんをはじめ、浜崎あゆみさん、宇多田ヒカルさんなど、圧倒的なカリスマ性でエンタメシーンを盛り上げる歌姫たちを目にしてきた。
その頃はCD全盛期で、ミリオンセラーが"当たり前"のように連発していた時代だった。
日本レコード協会によると、CDの総売上は2016年は1748億円で、2007年の3271億円の約半分だ。安室さんのシングル売り上げトップ10をみると、1位から9位までは1995年から1998年までの曲が並んでいる。
安室さんのように、ひとりの歌手がCDのミリオンセラーを記録する時代は、もう過去のものになりつつある。
「沖縄出身アーティスト」ブームの先駆けとなったのも安室さんだった。
安室さんのブレイク後、MAX、SPEED、DA PUMPといった「沖縄アクターズスクール」出身のダンスグループが人気を博し、ロックバンドのMONGOL800、ORANGE RANGEなども中高生を中心に絶大な支持を得た。「沖縄出身」は、ある種ブランドのように定着した。
安室さんは25年の芸能活動で52枚ものシングル曲をリリースし、ソロアーティストとして唯一10代・20代・30代と「年齢での3年代」にわたりミリオン突破を達成した。2017年5月には、自身最多となる100公演の全国ツアーも成し遂げている。
安室さんの引退発表を受けて、これまでの功績を振り返ると、「なんてすごい人だろう」と稚拙な言葉しか浮かばないほど、アーティストとしての安室さんの素晴らしさを痛感する。
2019年1月1日、平成が終わり、新しい元号になる見通しだ。
ミリオンセラーという言葉を聞かなくなって久しいが、SMAPや安室さんのような"スター"がいなくなった次の時代は、どんな時代になるのだろうか。
社会現象を起こすほどの影響をもたらした安室さんのような、「美学」を感じられるスターは、今後現れるのだろうか。
その不安と寂しさを感じつつも、今は引退までの安室さんの1年間の軌跡を、テレビに釘付けになっていたあの頃のように、ワクワクしながら追いかけたいと思う。