「なぜ夫の家事は妻に嫌われるのか」 専業主夫芸人・中村シュフさんが語る"主婦業"のこと

料理や洗濯、子育てに朝から晩まで追われる妻の家事を、よかれと思って休日にちょっと手伝ったら、ものすごく嫌な顔をされた。もう手伝わないぞ! そう思った経験のある男性は多いかもしれない。

料理や洗濯、子育てに朝から晩まで追われる妻の家事を、よかれと思って休日にちょっと手伝ったら、ものすごく嫌な顔をされた。何だよ、もう手伝わないぞ! そう思ったことのある男性は多いかもしれない。

でもそれは「“シュフ”のことを理解していない」んだそうだ。

芸人から専業主夫になって足掛け5年。今は「主夫芸人」を名乗る中村シュフさん(35)は、フルタイムで働く妻を支えながら、3歳と生後7カ月の娘2人の育児に励む。最近は主夫業についてのトークイベントや、雑誌の連載なども抱えるようになった。「シェフが料理のコーディネーターなら、シュフは家庭のコーディネーター」だという。

主夫になってはじめてわかった主婦のこと」(猿江商會)を出版した中村さんに、専業主夫になったきっかけや今の生活、そして主夫になってわかった、家事の上手な手伝い方などを聞いた。

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──どうして専業主夫になったんですか?

大学出て1年ぐらいバイトして、2004年にお笑いの養成所に入りました。高校の同級生と2人で最初のコンビを組んだんですけど、ノルマを払ってライブに出させて頂く、勉強させて頂くって感じで、ギャラなんて、とてもとても。午後は突然、オーディションに呼び出されることも多いので、早朝に牛乳スタンドでバイトしていました。

鳴かず飛ばずだった最初のコンビを解消して、今後を考えていた頃、同じ養成所の芸人から誘われて、2006年に組んだのが「デニッシュ」でした。そしたら組んで半年で「M-1グランプリ」準決勝まで行っちゃった。ここまで行けば、次につながるかも、と思って、4年続けたけど、厳しかったです。手前味噌ながら、相方の作ったネタのおかげで、芸人の間の評価は結構高かったんですけどね…。

収入はほぼ、ありませんでした。相方に「これに賭けましょう!」と言われ、バイトもやめて稽古に集中していました。相方は本当にお笑いが大好きで、才能と熱意にあふれていました。ネタも徹底的に作り込んで、「ここで突っ込む」といった間合いやテンポまで、相方に細かく指示を受けて稽古していました。でも僕はいつの間にか、お客さんに受けることより、相方の綿密な台本を失敗しないことばかり気にするようになっていました。あまりのストイックな生活に、心と体が悲鳴をあげてましたね。あるとき、口が開かなくなってしまったんです。私の覚悟も力も足りなかったことを思い知りました。結成から4年後、相方にコンビ解消を申し出ました。

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支えてくれたのが今の奥さんでした。もともと最初の相方の知り合いで、お客さんとしてライブに来てくれた1人でした。「デニッシュ」結成後は、僕の風呂なしアパートが完全に稽古場になってしまったので、彼女の部屋に身を寄せて、フルタイムで働く彼女のかわりに、僕が一切の家事をしていたんです。

コンビ解消後、稽古もライブも先輩・後輩との飲み会もなくなって、リハビリと称して仕事を探したりしていたとき、彼女から「何も予定がないなら、結婚式の予定を入れない?」と言われました。「僕、こんな状態ですけど」と言ったら「家庭に入ってもらえませんか」と、彼女からベタなプロポーズをされました。2011年3月12日、震災の翌日が結婚式でした。

──ところで今日は、わざわざお越しいただきましたが、お子さんたちは?

奥さんが育休中で見てくれていますが、出る前に家族全員の食事も作ってきました。心配ですねー。できるだけ奥さんには、家事と育児の負担をかけないようにしています。帰ったら冷蔵庫に信じられない食材が余っていたり、信じられない洗濯物のたたみ方をされたりするより、「手伝わないことが手伝い」というのを、彼女も理解してくれています。

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──「手伝わないことが手伝い」?

「家事を手伝ったのに、なぜ奥さんから文句を言われるんだ」って思う非シュフの方、多いと思うんです。あまり知られていないことですけど、家事の「流れ」を踏まえることが重要なんですよね。

例えば「料理を手伝う」こと一つを取っても、非シュフのイメージは、キッチンに立ってカッコよく食材を切って、フライパンで炒める、この部分だけ切り取って「料理」と思いがちです。いわゆる「派手家事」。かっこいい目立つことだけやりたがるんですよ。でも本当は、

冷蔵庫チェック

献立決めて買い出し

調理

みんなで楽しく食べる

後片付け

在庫管理

ここまでの流れが「料理」なんです。だから、シュフにとっては、普段の流れを乱されて、二度手間になるから「やらなくていい」「やらないほうがいい」と思ってしまうんですね。洗濯でも掃除でも何でもそう。

──どうすれば?

細かく夫婦間でコミュニケーションを取って、情報共有することでしょうか。そうすることで、非シュフの側も、何が求められているのかわかっていく。「流れを乱さないことがいいんだ」とわかれば、派手な部分だけじゃなく、いいお手伝いができると思います。

ちなみに僕はいいお手伝いのことを「ちょい足しお手伝い」って呼んでます。洗濯なら、洗濯機を回して干すことよりも、脱いで丸まった靴下を伸ばして脱衣かごに入れてくれる方が、ちょっとした手間が解消されてありがたい。お手伝いの価値は、労力の大小に関係ないんです。せっかく料理を作っても「ドヤ感」出したら一気にNGです。それより、ご飯を一緒に食べて会話して「おいしい。ありがとう」と言ってくれた方がよっぽどいい。「ありがとう」はシュフにとってのお給料。これも言葉の「ちょい足し」ですよね。

「洗濯物を取り込んでおいて」と頼んでも、非シュフが畳んだ時点で台無し、たたみ直しになる。シュフの側も「洗濯物を取り込む“だけで助かる”」と伝える工夫も必要かもしれませんね。

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──「家事ハラ」を防ぐってことですね。

それ、もともとは、(ジャーナリストの)竹信三恵子さんが著書の中で、家事労働を担う人を蔑視したり無視したりする社会構造のことを言っていたんですけど、いつの間にか「家事を手伝ったのに嫌がられる」意味でも使われるようになってしまったんですよね。どっちにしても、お互い情報が足りないんだと思うんです。「シュフはこういう仕事をこなしているんだ」という正しい情報さえ共有できれば、解決可能だと思います。

「女性が輝く社会」なんて言われてるけど、専業シュフについて、家事という仕事についてどれだけわかって語られているのか。まだまだ理解が足りないなと思うこともあります。「ライセンスなしで誰でもできる仕事」と思われているところがあるけど、何十年続く、ゴールのない、グレートな仕事です。

シュフって、家庭のコーディネーターなんです。家事をうまく配置して、生活を充実させ、家族の予定を把握しつつ、健康で快適な生活を送れるように切り盛りしていく。大学で家政学を専攻して、自分なりに理解したことです。

──えっ、家政学を専攻したんですか?

僕は高校は男子校だったんですが、ちょうど男子校でも家庭科の授業が本格的に始まった時期でした。「男性が家庭科を学ぶ大切さが今後大きくなってくる。あなたたちはその草分けなのよ」と家庭科の先生に言われ、その気になってしまいました(笑)。「家庭科で教育実習に来たら面白そうだな」と思って、大学は家政科に進みました。当時は男子学生を受け入れるところが少なかったんで、全国から家政学をやりたい男子学生が集まってきていました。卒業生は家庭科の教員になったり、アパレル、シェフ、食品関係の企業など、様々です。

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──公園などでは圧倒的にママが多いでしょう。「ママ友」社会には溶け込めていますか?

児童館や区の施設で声をかけてくれるママはゼロではないけど、きっと奥さんのピンチヒッターで来ていると思われているんでしょう。ガッツリ連絡を取り合って、一緒にカフェでご飯、みたいな関係にはなりませんね。僕はもっと聞きたい。同じ境遇の人たちなんで、いい小児科の情報とか、家事の愚痴とか、話し合いたい。僕の相談相手は実家の母と義理の母、先輩シュフの姉です。

でも逆に、僕がいたんじゃ皆さんリラックスできないんじゃないかとも心配してしまう。夫への悪口が言えなくなるかもしれないし、それがストレスになるかもしれない。自分から「専業シュフです」と名乗るのも、マイノリティー感出てなんとなく嫌なんですよね。

それに、児童館でも「夫の仕事を聞かない」みたいな暗黙の了解ってあるでしょ? よく会うお母さんがご夫婦で歩いているときに挨拶したら、ご夫婦の間に不穏な空気が流れることがあるんですよ。僕の奥さんに男のシュフ友達がいたらいやだな、とも思う。思わず「妻がお世話になってます」と、「児童館によく行く夫」の立ち位置になってみる、といった変な努力もしています。

──「男が家計の柱だ」という社会の風潮は感じませんか? もっと主夫が増えてほしくないですか?

思われている可能性はゼロではないけど、僕の場合は環境に恵まれていました。奥さんがフルタイムで家計を支えてくれて、お互いの両親にも、そういう古いタイプがいなかったのが大きかったのかもしれません。

かといって、「男たちよ、主夫をめざせ」という気もない。男女問わず、シュフに頑張ってほしい。家事や主婦・主夫・シュフを考えるきっかけとして、自分をとらえてもらえればいいんじゃないでしょうか。

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