内定式に台風直撃?!その時、採用担当者はどうすべきか? (後藤和也 大学教員/キャリアコンサルタント)

内定式ってなにをするの?
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10月1日、経団連が定める内定の解禁日に、多くの企業で内定式が行われた。そのタイミングに台風の影響で交通網が混乱し内定式を中止した企業もあった。

中には「地方出身の学生は前日夜から都内などに宿泊させ、当日になって開始時間を急きょ1時間繰り下げる対応」を取った企業もあったという(内定式直撃、延期や中止相次ぐ...欠席者出る社も 読売新聞 2018/10/01)。

内定式と台風などの災害が重なった際、企業の採用担当者にはどのような対応が求められるのだろうか。

■内定式ってなにをするの?

まずは内定式について、筆者の採用担当者時代の経験も踏まえて確認したい。

現行の経団連ルールによれば、大学3年生の3月に採用の広報が、4年生の6月に採用の選考が解禁され、10月に内定が可能となる。人気企業ではインターンシップ等から実質的な選考が行われているケースも多い。つまり内定は学生にとって長期にわたった就職活動の終着点と言って良いだろう。

一方、売り手市場と呼ばれる昨今、採用担当者が最も恐れるのが「内定辞退」だ。そのため採用選考開始後、速やかに内々定を伝え、あの手この手でフォローアップを行いながら辞退者を出すことなく内定式を迎えることが重大なミッションとなる。

内定式において採用担当者は関係役員の日程調整や訓示案の作成、幹部や先輩社員との折衝などを短期間に行わなければならない。

全国から内定者が集まる大企業の場合、地方内定者の宿泊手配や内定式後の懇親会など、ホスピタリティも求められる。なにか粗相があろうものなら内定辞退につながりかねず、参加者の名札づくり一つとっても緊張感をもって行うこととなるのだ。

そこまで細心の注意を払って行う内定式。その最たる目的は「愛社精神を醸成し翌年度の本採用まで内定者の心をつなぎとめること」に他ならない。内定者フォローのフィナーレとなるため、正直言って多少の悪天候なら予定通り開催したい、ましてや延期は避けたいというのが採用担当者の偽らざる本音ではないだろうか。

■内定者とは何者なのか。

内定とは「解約権を留保した労働契約が成立している状態」という見解が一般的だ。わかりやすく言えば、自社の社員とほぼ同等ですよ、ということになる。

かつて不況下で企業による一方的な内定取り消しが社会問題となった理由も、会社がおいそれと社員をクビにできないことと同じだ。

労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めている。つまり日常的な業務であろうと内定式であろうと、今年の夏に度々発生したような甚大な被害が想定される台風などの災害時に会社が出勤を命じれば、社員の怪我や命に係わるリスクがある。そしてその責任が会社側に生じる可能性もあるということだ。

■内定式の目的は「会社を好きになってもらうこと」

株式会社マイナビによる「2018年マイナビ新入社員意識調査」によれば、仕事への期待と仕事に対する夢の有無について、今年は一転上昇したという(「仕事への期待がある」と答えたのは74.1%で過去最高("どちらかといえば"を含む)、「仕事を通じて叶えたい夢がある」も71.8%で前年比4.5pt増)。

また「2019年卒マイナビ大学生就職意識調査」によれば、企業選択のポイントは「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社(38.1%)」が1位であった。

このように前向きで夢多き若者が、電車が全線運休の状態で来社を命じられたらどう感じるだろうか。先に述べたとおり内定式が愛社意識を高めるためのセレモニーであるならば、悪天候時の実施については熟考すべきだろう。

特に昨今は、災害時に何が何でも出社させる行為自体が「ブラック企業」と批判されてしまう。災害時に不要不急で出歩く人が増えれば、交通渋滞を引き起こし、二次・三次被害を誘発する恐れもある。

会社を好きになってもらう方法は、内定証書の交付に限られたものではない。「あなたの身の安全が心配なので自宅で待機してほしい。今後のことは会社で考えるから」といった柔軟な対応が、若者の心をひきつけるかもしれない。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】

人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。