日本の義務教育では、保健でも理科でも、ヒトの爪について学習する機会はありません。このため正しい知識を持っていない方も多く見られます。
例えば、爪が何からできているか訊いてみると、カルシウムと答える人が結構いらっしゃいます。また、爪は呼吸しており、マニキュアを塗ると酸素が通らないために弱ると思っている方も少なくありません。
しかし、爪は毛髪と同じで、変形した皮膚です。成分は主にケラチンというタンパク質。カルシウムは関係ありません。また、見えている部分は既に死んでしまった細胞です。根元に隠れている生きた細胞(爪母と言います)が新陳代謝して死んだ細胞を押し上げるため、伸びるように見えます。
当然、呼吸していません。傷むとしたら乾燥によってなので、マニキュアそれ自体より、水分を奪ってしまう除光液の方に、むしろ注意が必要です。爪が弱くて割れたりする時も、乾燥を防ぐお手入れが必要です。
先ほど「変形した皮膚」と説明しましたが、そもそも皮膚についても義務教育では本格的に教わりません。
保健で、皮膚を清潔に保つ話や、体温調節に関連して汗腺があることを学ぶ程度です。ニキビすら出てきません。中学理科では、外界からの刺激に対する動物の反応として、熱い・冷たい・痛いなどの感覚器として皮膚を学ぶ程度です。
これでは爪に対する理解が乏しいのも仕方ないことです
そんな知識しかなくても、爪はおしゃれの対象なので、子どもたちは早い時期から興味・関心を持ちます。お手入れのために自己流で研究し始めます。
海外では、爪に関して、教科書にもある程度の分量の記述があります。今回ご紹介する本の中に『フィンランドの教科書生物編』を入れておきます。
実際はトラブルが多い
この一方で、特に運動部で頑張る子どもたちは、人に相談することなく足の爪のトラブルを抱えています。多いのが巻き爪や陥入爪といったものです。
爪のことは保健の教科書にも出てこないので、骨折・捻挫といったケガと違って、大したものではないと思いがちです。しかも、部活を休みたくないあまり、痛くても絆創膏を貼る程度で放置しています。適当にごまかしているうちに、爪の元となる爪母を痛め、傷口が化膿して外科的処置が必要になったり、激痛で歩行が困難になってしまったりするのです。もし、爪に対する予備知識があれば日頃から注意して生活していたでしょうし、もっと軽症のうちに治療を受けたことでしょう。
この巻き爪や陥入爪は、大人にも見られます。医師が言うには「足の生活習慣病」だそうです(元々何らかの変形がある方は別です)。おしゃれのために窮屈な靴を履き、好ましくない爪の切り方(爪を丸く切るのはNGです)をすることで、爪の両端が丸まり、爪の端が皮膚に食い込む環境を作ってしまうからです。
歩行時に体重を支える
手の爪と足の爪と同じように思っている人がいますが、手の動きと足の動きって、全く違いますよね。それぞれの動きをよく見てください。
手の指は、物を触ったり掴んだりします。爪は指先を保護しているだけでなく、物から指が作用・反作用で受ける力を受け止め、骨がない指先の腹にまで力をしっかり伝えます。
一方、足の爪は、歩く時に重要な役割を果たします。足を上げる直前、必ず爪先が地面を蹴っています。この時、体重を支えているのも、この爪先です。作用・反作用で、爪先は地面から力を受けます。爪がなければ、地面を蹴ることができず、地面からの力も十分に受け止めることができません。
もし、爪を短く切り過ぎていると、受けた力で爪の先が皮膚に入り込んでしまいます。また窮屈な環境だと、爪は平らに広がって力を受け止めることができません。端が丸まったままで歩く度に、力を受け続け、どんどん悪循環してしまいます。これが巻き爪、陥入爪の原因です。
理科で、せっかく作用・反作用という概念を習うのですから、その力は足の爪にも働いているに違いないと思うようにしましょう。
足の爪が手の爪と違うのは、作用・反作用で受ける力が格段に大きいということです。爪の役割を考え、最適な状態で爪が役割を存分に発揮できるよう、生活習慣や環境を見直すことが大切です。
(2014年9月「ロバスト・ヘルス」より転載)