なでしこジャパン、北朝鮮に完敗 大儀見への依存を再認識

U-21日本代表が準々決勝でホスト国・韓国に敗れて8強止まりに終わったことで、なでしこジャパンに対するアジア大会2連覇への期待は高まった。
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YAMAGATA, JAPAN - SEPTEMBER 13: Aya Miyama of Japan and Nahomi Kawasumi of Japan discuss each other during the women's international friendly match between Japan and Ghana at ND Soft Stadium on September 13, 2014 in Yamagata, Japan. (Photo by Kaz Photography/Getty Images)
Kaz Photography via Getty Images

U-21日本代表が準々決勝でホスト国・韓国に敗れて8強止まりに終わったことで、なでしこジャパンに対するアジア大会2連覇への期待は高まった。そんな中、日本女子代表は1日、仁川・文鶴スタジアムで北朝鮮とのファイナルに挑んだが、パワーと高さに優れる北朝鮮に序盤から押し込まれ、セットプレーとカウンターからの2発でまさかの3失点。今大会開幕の中国戦からヨルダン、チャイニーズ・タイペイ、香港、ベトナムと5試合無失点で来た守備がズタズタに崩され、2010年アジア競技大会(広州)に続く連覇の夢は脆くもついえた。

指揮を執る佐々木則夫監督はこの日、2011年FIFA女子ワールドカップ(ドイツ)制覇を経験しているGK海堀あゆみ(INAC神戸)、センターバックの岩清水梓(日テレ)、ボランチの阪口夢穂(日テレ)、宮間あや(岡山湯郷)、2列目の川澄奈穂美(INAC神戸)、FW高瀬愛実(INAC神戸)の6人を送り出し、満を持して勝ちにいったはずだった。

けれども、「ここまでラクに決勝まで来れているので、逆に心配なところがある。決勝に向けて頭と感覚を切り替えないといけない」と阪口が懸念していた通り、なでしこは北朝鮮の凄まじい迫力に対応しきれなかった。前半立ち上がりから主導権を握られ、開始12分にキム・ユンミ(12番)が挙げた先制点の場面もマークについていた阪口が寄せきれず、カバーリングに行った岩清水もクリアできずに足に当たってゴールに入ってしまった。追加点を後半開始早々の7分に取られたのも痛かった。0-1で前半を折り返したことで、日本は後半から宮間のポジションを上げて、前がかりになって攻めに出た。その矢先に背後を突かれて鋭いカウンターからエースFWラ・ウンシム(10番)に2点目を叩き込まれたのだ。体調不良の状態で今大会を迎え、出場時間が短かった岩清水も本調子ではなかったのだろうが、裏を取られて懸命に走っても追いつけなかったのが悔やまれる。

その後、なでしこは臼井理恵(浦和)のサイドチェンジに反応した川澄のクロスに飛び込んだ高瀬がスルーし、ファーからフリーで走りこんだ宮間が1点を返すことに成功する。ようやくチーム全体に希望が見えてきたが、そこで畳みかけられないのが厳しかった。前線はスタメン出場した高瀬と増矢理花(INAC神戸)のコンビから、菅澤優衣香(千葉)と高瀬の高さのあるコンビに変わっていたが、単純なクロスを入れても相手の長身最終ラインに跳ね返されるばかり。ここに大儀見優季(チェルシー)がいれば、自ら工夫を凝らしてタメを作ったり、強引な突破を仕掛けたりできるのだろうが、今回のFW陣はそこまで個人能力が高くない。5月のAFC女子アジアカップ(ベトナム)の時もそうだったが、前線の大儀見依存の高さを再認識させられる状況だった。

2点目を取れないなでしこにとっては苛立ちの募る展開が続き、後半40分を切ったところでまたもカウンターから3点目を奪われてしまう。北朝鮮のここぞという場面での決定力の高さは準決勝・韓国戦でも実証済みだったが、今回もその迫力を見せつけられ、日本は2位に沈むことになった。

今大会は30歳以上のベテランと欧州組を外し、若い世代の底上げを狙った佐々木監督だったが、結果的には思惑通りには進まなかった。最終ラインの長船加奈(仙台)はそこそこ戦っていたが、臼井は相手右サイドに徹底的に崩され、ミスが非常に目立った。その臼井の前に陣取った吉良知夏(浦和)、後半からその位置に入った増矢にしても、守りの課題が浮き彫りにされた。増矢は得点力の方でも持てる力を十分に出し切れず、アジアの壁に阻まれた格好だ。彼女のみならず、若い世代は猶本光(浦和)も羽座妃粋(日体大)にしても、A代表で十分通用するという存在感と安定感を示しきれなかった。なでしこジャパンの世代交代の難しさを如実に感じさせた今大会だったと言えるのではないだろうか。

だからといって、2011年のワールドカップ優勝、2012年ロンドン五輪銀メダルのメンバーを来年の女子ワールドカップ(カナダ)まで引っ張るようなことになると、日本の底上げはなくなる。佐々木監督も辛抱して若手を伸ばしていかなければならないだろう。今大会は中国戦と北朝鮮戦しか選手を正しく見極める機会はなかったが、そこである程度できたと判断できる選手は今後に残した方がいい。1人でも2人でも若い世代を引き上げることが、今後の日本女子サッカーにとってプラスになるはずだ。北朝鮮に3失点完敗した事実をしっかりと受け止め、どう今後に活かしていくのか。まずは大会の分析・検証を確実に行ってほしいものである。

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

(2014年10月2日「元川悦子コラム」より転載)