ミャンマーのカレン州の国境を非公式に横断し、最大の難民キャンプがあるタイのターク県に入国する人々。
強制送還の噂もある中、ミャンマー国内の少数民族難民グループは同国の軍事化、土地の押収政策、国際援助の減少といった要因が彼らの安全を脅かしていると主張している。
民族的マイノリティであるカレン族のナウワクシーは14歳の時、安全を求めてミャンマー東部にある彼女の村を出て、タイの難民キャンプへと向かった。
それは1998年のことだった。民族自決権を求め多くの革命がミャンマーで起きたが、最初の革命が始まってから50年以上経っていた。
現在、ナウワクシーはタイとミャンマーの国境付近で、女性の政治的な地位向上を求める団体カレン女性組織で人権関連の仕事をしている。彼女は、この60年でミャンマーから出ることを余儀なくされた何十万もの人たちの1人だ。
「生まれた時から命がけで逃げる必要があった人たちもがいます」と彼女は述べた。「彼らが願っていることは、軍の管理がない村で一晩中眠ること、農作業をすることです」
ミャンマーの民族集団の正確な数については議論がある。公式には100以上の異なるグループがあり、ミャンマーの人口の3分の1以上を占めるとされている。これらの地域社会は1948年にイギリスから独立した直後始まった世界最長の内戦の1つによって、バラバラに破壊された。
50年間に渡る軍事政権の後、2010年にミャンマーは文民による政権に移行した。2年後、政府は国内の非国家軍事グループとの和平プロセスを開始し、その後2015年10月、政府は国内に20以上ある民族軍事組織のわずか8グループと全国的な停戦合意を調印した。しかし戦闘が停止したわけではない。ミャンマー北東部では、政府との調印に至らなかったグループに対する攻撃が激化した。
現在14万人の難民が、タイにある9つの難民キャンプで暮らす。そのほとんどがカレン民族で構成されている。ビルマ、チン、カチン、モン、ラカイン、ロヒンギャ、シャンやトーアンなどの民族に含まれる何百万人もの人々は、国内や、難民の権利に対する協定に署名していない近隣諸国に退去している。
ミャンマーの民族集団の正確な数については議論があるが、100以上の異なるグループがあり、ミャンマーの人口の3分の1以上を占めているとされる。
しかしこの数年、彼らがミャンマーに強制送還されるかもしれないという噂が大きくなっている。特に、長期間野党だったアウンサンスーチー率いる国民民主連盟 (NLD) が大勝利した、2015年の歴史的な総選挙の影響が大きい。
多くのビルマの人々が選挙結果を祝う一方、難民たちの中には、NLD政権への権力の移行によって、東南アジアの受け入れ国が難民を強制的にミャンマーの元の地域に送還する正当性を与えることになると危惧する人もいる。
「人々が戻る前に解決しなければいけない問題はたくさんあります」と、カレン人難民で元IDP(国内避難民)、現在はワシントンDCを拠点にする「U.S.キャンペーン・フォー・ビルマ」の政策助言者ミラダイポー氏は述べた。「仮に、タイ政府や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が全員を送還する準備をしていると発表したらどうなるでしょうか。私たちは、難民が意志に反して送還されることがないように声を上げ続ける必要があります」
UNHCRは現在の状況について「自発的な帰国を促してはいない」としているが、昨年送還の可能性について難民キャンプの住人と話もしている。2014年にタイ当局は、ミャンマーと本国送還の合意に達したと発表した。正式な動きはないものの、難民に対する圧力はミャンマーの政治改革が始まってから明白になってきている。
援助活動家は、タイの難民に対する援助はもちろん、国内にいる推定60万人に対する援助が枯渇してきていることも指摘する。これは、人道主義団体が危機に晒される人達を支援する上でさらに大きな問題にもなっている。
タイとミャンマーの国境付近で長期間人道活動を行う活動家は「政府やドナーたちは『難民を強制的に帰国させてはいない、彼らは自発的に帰国という選択しているだけだ』と主張しているが、実際には食料支援を断っている(帰国せざるを得なくさせている)」と述べた。
例えば、タイを拠点とする難民支援ネットワーク、ボーダー・コンソーシアムの報告によると、2010年までタイの難民キャンプにいる成人は配給食料として、月に15kgの米がそれぞれ割り当てられていた。最も削減の影響を受けやすい食料を守るためにスライド制(経済状況に応じて上下する)が存在する。海外からの資金は減少しいくつかの難民キャンプの成人は現在月にコメ9kgしか与えられていない。1日2回の食事を成人に与えるためには、月に約15キロ必要だ。主食の配給が削減されれば、難民は食事を抜かざるを得ない。
難民支援者らは「国内政治や海外からの投資の増加、それに関連する土地の没収や軍の台頭を含め、強力に燃えやすい要因が混ざり合うことで、安全な移動と本国送還についての問題を複雑にしている」と述べた。
難民社会の中には、NLD政権への権力の移行によって、東南アジアの受け入れ国が難民を強制的にミャンマーの元の地域に送還する正当性を与えることになると危惧する人々もいる。
「ビルマの問題は民主化だけではありません。少数民族の権利もあります」とナウワクシーは述べた。彼女はNLD主導の政権が必ずしも少数民族グループの希望を満たすわけではないと感じている。「私たちはどちらについても支援する必要があります。そうしなければまた同じことの繰り返しになるでしょう」
議会でNLDが過半数を占めているにもかかわらず、この国はまだ非常に規制の多い2008年の憲法に基づいて運営されている。この憲法は軍に対し25%の議席を保証し、政府高官に法的免責を約束して資源豊かな州の民族に経済的自立を認めていない。
「少しずつこれを修正できる可能性はあるかもしれません」とカチン・ウィメンズ・アソシエーションのセンジン氏は述べた。この組織はミャンマー北部に追放されたカチン族の10万人の難民に対して軍の暴力が続いていることを報告している。
しかし、改憲するには議会で75%以上の賛成を得る必要がある。「国会で人々に保証を与える新しい憲法を作る機会があれば、事態はより良くなるでしょう」と彼女は述べた。
NLD政権に対しミラダイポー氏が疑念を持つのは、憲法規定が3つの重要な省庁、国境省、防衛省そして内務省の管理権を軍に与えているからでもある。彼女はスーチー氏がそれを取り除くことができるのかどうか疑問視している。
「(NLDが) 国内避難民の区域の問題に取り組むことができるのでしょうか。州の医療も教育もない場所に。議会で民族の声を代表することができるでしょうか。私はそうは思いません」と彼女は述べた。
他に少数民族の権利を脅かし続けていることに、ミャンマーの鉱物、ガス、原油や水力発電資産への投資が劇的に増加していることがある。ミャンマーへの海外からの直接投資は、2015年に倍になり80億ドル(約8647億円)を超えた。
自分たちが元いた土地に帰ることを望んでいる難民たちは、これらの投資についての政治的・国際的な透明性が欠如していることを危惧している。
「州政府は、何がどこでどれくらいの規模の計画を実行するのか決めることができません」とシャン族の環境活動家サイクルセン氏は述べた。「資源をめぐる対立は、その場所が異なる民族や宗教グループが治める場所だった場合さらに激しくなります」。
「戦争だけでなく、投資によって多くの難民がでるかもしれません」とナウワクシーは付け加えた。
とりわけ、タイに住むミャンマーからの推定100~300万の移民労働者の多くが「未承認」のシャン族難民で、土地開発のための土地の収奪や環境悪化によって住む場所がなくなった。
「土地の没収と開発は軍の拡大と同時に起き、改革と政府の平和の誓いにもかかわらず今でも続いている」とミラダイポー氏は述べた。ミャンマーの大部分は、主に土地と資源の開発競争のせいで軍の存在感が増している。
ナウワクシーは、ミャンマー軍が民族地域から撤収する「証拠」がないと考えている。彼女は、新たに建設している道路は、軍隊と重砲を軍の陣営に移動しやすくするためのものだと指摘する。
彼女は長期間の占領が増えていることを踏まえ、「もし事態が逆転すれば、今度こそ、逃げ隠れる場所はどこにもないでしょう」と述べた。
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難民問題について分析しているサイト「Refugees Deeply」からの転載です。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。