2016年1月からのマイナンバー制度のスタートに向け、10月から「マイナンバー」の通知が始まり、日本に住民票がある人全員にマイナンバーが配られる。「役所の手続きなどで必要になるだけ」と思う人もいるかもしれないが、民間で働く人でも他の誰かに「マイナンバーを教えて下さい」と要求しなくてはいけない状況も発生する。マイナンバーとはどのような制度なのか。マイナンバー制度を担当する福田峰之・内閣府大臣補佐官(51)に聞いた。
福田峰之・内閣府大臣補佐官
■マイナンバーってそもそも何?
マイナンバーとは、国家が国民ひとりひとりに番号を割り当て、個人の所得や年金、納税などの情報を1つの番号にひも付けて管理する目的でつくられる「共通番号制度」のこと。国民につける個人識別番号を「マイナンバー」と名づけたため、マイナンバー制度と呼ばれるようになった。
共通番号制度は佐藤栄作内閣による1970年の国民総背番号制の提案以来、たびたび構想されてきたが、2013年5月に法案が成立。対象を国民だけでなく日本に住民がある人に広げ、2016年1月から制度がスタートすることになる。
■ポイントは「番号」「カード」「ポータル」を分けて考えること
マイナンバー制度を理解するためには、「マイナンバーの番号」「マイナンバーカード」「マイナンバーポータル」の3つを、それぞれ分けて考えることがポイントだと福田氏は説明する。マイナンバーの話題は多岐に及ぶが、これらの3つの中のどれについて話をしているのかを意識することで、理解しやすくなるのだという。
《マイナンバーの番号とは?》
「マイナンバーの番号」とは、文字通り、ひとりひとりに割り当てられる個人番号のこと。日本に住民票を有していれば、中長期在留者や特別永住者などの外国人も含めて発行される。完全にランダムな12桁の番号で、家族であっても似た番号になるわけではない。生まれてから死ぬまで1つの番号を使い続けることになり、結婚したり、「マイナンバーカード」を紛失したりした場合でも、新しい番号が発行されるわけではない。2015年10月5日から通知が始まる。
通知の際には、番号などが書かれた紙製の「通知カード」が住民票を持つ全員に簡易書留で送付される。マイナンバーが印字されているので、この通知カードが「マイナンバーカード」と勘違いされることがあるが、これはあくまで通知のために使われるもので、次に説明する「マイナンバーカード」とは別物。身分証明証としては利用できない。
通知カード。やむを得ない理由により、住民票の住所地で通知カードを受け取ることができない場合は、住んでいる場所に通知カードを送付するための居所情報登録申請が必要となる。
《マイナンバーカードとは?》
「マイナンバーカード」は「個人番号カード」といわれるもの。通知カードが紙製で身分証明証として利用できないのに対し、マイナンバーカードはプラスチック製で、マイナンバーのほか、氏名、住所、生年月日、住所、性別が顔写真つきで記載されており、公的な身分証明証として利用できる。
マイナンバーカードのイメージ見本(2015年5月29日撮影)
マイナンバーカードは全員に配布されるわけではなく、申請することで取得できる。申請は強制ではない。2016年1月から発行が始まり、カードはケースに入って渡されるが、このケースについて福田氏は、「LGBTを配慮して、ケースの上からでは、性別の欄が見えなくなっているようにしました」と語った。
マイナンバーカードにはICチップが埋め込まれており、このカードと暗証番号を使うことで、インターネット上に用意された「マイナンバーポータル」から、引越し手続きを行なうことなどが可能になる。
《マイナンバーポータルとは?》
「マイナンバーポータル」はネット上に用意される各個人用のサイトのこと。「マイナポータル」との名称で2017年1月より運用され、マイナンバーにひも付いた自分の個人情報を閲覧できたり、いつ、誰が、何のために自分の情報にアクセスしたかが確認できるようになる。自治体などへの各種申請を行なうことなどにも使える。
■マイナンバーカードを保有してもらうことが行政コスト削減のキモ
マイナンバー制度が導入される理由としては、個人の所得や納税などの情報を国が把握することばかりではなく、「行政コストを削減すること」や「各種行政手続きの手間を減らす」という目的もある。
福田氏は引越の際の手続きを例にあげ、通知カードではなく、申請によって取得するマイナンバーカードを国民に持ってもらうことが、行政コストの削減と、国民の行政手続きの簡略化につながると説明した。
「現在、引っ越しにともなう住民票移動の手続きでは、引っ越しする前の自治体で住民票を発行してもらい、それを引越し先の自治体に提出する必要があります。
マイナンバー制度では、マイナンバーカードを使ってインターネットで手続きが行えるようになり、紙も要らなくなります。住民票を発行する自治体の職員も、引越し先で住民票を受け取る職員も、別の仕事ができるようになる。国民も手続きのために何度も役所に足を運ばなくて良くなるのです。
これは、マイナンバーそのものだけではなく、マイナンバーカードを持っていただくことで実現できるものです」
マイナンバーカードを持っていても役所の窓口で手続きを行うのであれば、結局、行政の人材が必要になる。それらがネット上で手続が完了するようになることで、ようやく役所の人的リソースを他の業務に充てられるようになる。そのため福田氏は、国民にマイナンバーカードを取得してもらい、ネットで手続を完了してもらうようになることが、行政コストの削減のための理想だと説明した。
マイナンバーカードに似た制度として、現在でも自治体が主体となって発行する「住民基本台帳カード(住基カード)」があるが、マイナンバーカードは国が主体となっているため、より広い分野での活用にも広がるという。
「現在、住基カードを保有しているのは国民の5%。そのため、民間企業が住基カードを利用したサービスに参入してこないという状況があります。
マイナンバーカードは健康保険証と一体化させる予定なので、持つ人が広がるでしょう。健康保険組合の番号とマイナンバーをひもづけることで、そのような連携が可能になるのです。
同様に、マイナンバーカードが図書カードや、運転免許証などの役割を果たすようになることも考えられます。『ワンカード』として一つにまとめることができますので、お財布が軽量化できます。
もちろん、一体化させたくない人は、これまでどおり多数のカードを持ってもよいでしょう」
マイナンバーの可能性
■なりすましの対応は?
日本のマイナンバー制度でのなりすまし対策としては、まず、ネット上の手続きかどうかにかかわらず、必ず本人確認を行なうことが義務付けられていることがあげられる。というのも、アメリカや韓国のマイナンバー制度では番号だけを確認するものであったため、多数のなりすましが発生するという問題が起こったためだ。
福田氏はマイナンバーが利用される場面が法律で限定されていることや、本人確認のための方法について次のように話した。
「マイナンバーは当面、社会保障、税、災害対策の行政手続のみで利用され、法律や自治体の条例で定められた手続でしか使用することはできません。法律に規定があるものを除いて、誰かがあなたのマイナンバーを含む個人情報を収集したり、保管したりすることは、禁止されています。
さらに、マイナンバーを取得する際には、必ず本人確認が必要となります。10月から全世帯に送付される「通知カード」には、マイナンバー、氏名、住所、生年月日、性別などは記されますが、顔写真は掲載されないため、身分証明証としては利用できません。そのため、役所などでの手続きでマイナンバーを提示する必要がある場合にも、マイナンバーカードであれば本人確認ができますが、通知カード単体では本人確認ができませんので、運転免許証などの本人確認書類と合わせて、提示する必要があります。
マイナンバーカードと本人確認
マイナンバーカード自体を発行してもらう際にも、受け取りの際は必ず役所に出向いて対面で受け取る必要がありますので、その際に本人の確認を行います。
また、マイナンバーポータルにログインする際にも、マイナンバーと暗証番号を入力すればマイナンバーポータルにログインできるという仕組みではなく、マイナンバーカードに埋め込まれたICチップの情報をカードリーダーで読み込んだうえで、暗証番号を入力するという方式を取ります。
ですから、通知カードを落としたり、あなたのマイナンバーを他の誰かが知っていても、カードがないとマイナンバーポータルにはログインできません。番号がわかっても何もできないのです。
マイナンバーカードを落とした時にも、暗証番号が分からなければ、マイナンバーポータルにはログインできないのです」
万が一マイナンバーカードを落とした場合などは、24時間365日開設されている窓口に連絡すれば、対応が行われる。
■あなたが誰かに番号を聞かなくてはいけないことも
マイナンバーは2016年1月から運用が始まる。社会福祉の分野では年金・雇用保険・医療保険の手続、生活保護・児童手当など給付の手続き、高等学校等就学支援金や奨学金の申請手続きなどで使われる。税の分野では、確定申告、源泉徴収などの手続で提示が必要になる。
税や社会保障の手続きでは、民間企業が個人に代わって手続きを行う場合もある。そのため、勤務先や証券会社、保険会社などの金融機関に、マイナンバーの提出を求められる場合がある。
民間企業にマイナンバーの提示が必要になる場合の例
あなたが誰かに、マイナンバーを「教えて」とお願いする立場になることも考えられる。例えば、企業が個人に原稿料や講演料、デザイン料などの報酬や料金を支払うときには、支払調書などにもマイナンバーを記載する必要があるため、業務を依頼した人に対し、会社としてマイナンバーの提示をお願いすることになる。
これについて福田氏は、最初は戸惑うかもしれないとしながらも、今後は「報酬を振り込むために銀行口座を聞くように、マイナンバーを聞くことも当たり前になる時代になる」と話す。そのうえで、マイナンバー制度は公平な社会をつくるための制度なのだと強調した。
「これまでは申告主義だったので、各個人の所得を調べることができませんでした。しかし、マイナンバー制度にすることで、雇用先などは源泉徴収票にマイナンバーを記さなくてはいけなくなりますので、隠していてもバレます。生活保護の不正受給もなくなります。企業側としても、知らない間に脱税に手を貸している状況が、なくなるのです」
しかし、マイナンバーを扱う業務に従事する際には、情報の取り扱い方法などについて整理をしておく必要がある。内閣府は企業向けにンマイナンバーの「Q&A」やガイドラインなどの資料を作成しており、これらのツールを効率よく活用してほしいと呼びかけている。
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