ハンセン病回復者の社会復帰と子どもたちの未来。

マハトマ・ガンジーの夢は、インドからハンセン病をなくすことでした。私の夢は…
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ダライラマ14世(左)と筆者。
日本財団

マハトマ・ガンジーの夢は、インドからハンセン病をなくすことでした。私の夢は、回復者から物乞いをなくすことです。かねてよりハンセン病の問題に取り組み、私たち日本財団の活動も理解していただいているダライラマ14世に、この私の夢を話したところ、彼は即座に、いくら何でもそれは不可能でしょうと言われました。

インドでは回復者だけでも1100万人以上が確認されています。そのほとんどが患者、回復者らが暮らすコロニーと呼ばれる集団居住地で暮らし、主な収入の糧は物乞いなのです。

物乞いは、仕事に就く機会を奪われた回復者にとっては、唯一の残された「仕事」であると同時に「楽」な稼ぎの方法でもあります。しかし、彼らが一様に口にするのは、自分の子どもには物乞いはさせたくない、正規の教育を受けさせ、正業に就いて欲しいということです。患者でも回復者でもない第二世代の子どもたちの多くも、その将来は物乞いになるしかなかったのです。

ササカワ・インド・ハンセン病財団(SILF)は、2006年に日本財団によって設立された民間財団です。ハンセン病コロニーの住人たちとともに彼らが自立する方法を考え、職業訓練を行い、資金を援助してきました。資金援助は、回復者やコロニーの住人たちがビジネスをはじめるときなどに行われますが、ビジネスが成功した際には、返済はSILFに対してではなく、自分たちの属するコロニーに納められ、コロニーの他の人々が働くための新たな機会をつくるために使われます。

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SILFのプログラムに参加しているコロニーのチームと。
日本財団

2016年までにインドのコロニーでは、約250のビジネスが立ち上がり、その70%が成功を収めてきました。もちろんうまくいかないこともあります。山羊を飼ってその乳を販売するという計画をスタートさせたチームでは、コロニーのお祭りの際に、肝心の山羊を食べてしまいました。山羊がビジネスを継続する上でかかせないことが、なかなか理解できなかったようです。

現在、SILFのような活動を通じて、少しずつですが回復者の物乞いは減少しています。ダライラマ14世も、私がSILFの活動について話すと、その自立支援の現場まで足を運んでくれました。彼は即座に、自身の著作の印税を自立支援の活動に提供することを決断。日本財団からも資金を拠出し、コロニーに居住する若い世代の患者や回復者、あるいは第二世代の少年少女が高等教育を受けるための奨学金制度をつくることになりました。こうして2015年に設立されたのが「ダライラマ・笹川奨学金」制度です。まだスタートしたばかりですが、これまで将来への夢を持つことをはじめから諦めていた子どもたちが、奨学金の存在によって、夢を抱けるようになりました。そして多くの子どもたちが、その夢の実現に向けて努力をスタートしています。

かつて世界中のハンセン病コロニーの共通点は、そこに笑顔がないことでした。ただし子どもたちは例外です。私たちがコロニーを訪れると最初のうちは警戒した表情を見せるものの、子どもらしい好奇心から間もなく私たちの後をついて回るようになり、ときに人懐っこい笑顔を見せてくれます。そんな子どもたちの笑顔は、コロニーの大きな、そして数少ない救いでした。しかしこれまでは、成長とともに、そんな彼らからも笑顔が消えてしまうのが常でした。

SILFのような取り組みによって、コロニーの人々が積極的に生産活動に携わるようになると、働く喜びが生まれます。また将来の可能性が拓けることで、彼らに笑顔が戻りはじめます。

私たちの取り組みは、彼らの笑顔を取り戻すための活動でもあるのです。

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インド・バラナシのコロニーで会った女の子。
日本財団