音楽療法は誰をサポートするものなのか

基本的に音楽療法は、人生すべての過程で人々をサポートできます。
|

音楽療法の対象となるのは誰?

音楽療法というと、老人ホームやデイサービスで、高齢者を対象にしたものを思い浮かべる人が多いと思います。

しかし実際には、音楽療法はあらゆる分野で取り入れることができるのです。

音楽療法の盛んな米国では、さまざまな場所で音楽療法士が活躍しています。

私はホスピスや緩和ケアの音楽療法を専門としていますので、普段は医療における音楽療法のお話が多いですが、今回はその他にどんな人たちが音楽療法の対象になるのかお話しします。

Open Image Modal

音楽療法は人生のあらゆるステージをサポートする

基本的に音楽療法は、人生すべての過程で人々をサポートできます。

音楽療法の対象になる人は、悩みがあったり障がいや病気があったりして、だれかの支えを必要としています。

そういった状態を英語だと「ボーナブル(vulnerable)」と言うのですが、これは日本語にはない表現です。

「弱者」とも意味が違い、あくまでも弱っていたり傷つきやすかったり、困っている「状態」を指す言葉なのです。

ボーナブルな状態は誰もが一度は経験することです。

誰かの助けや支えを必要としている人たちを対象にする仕事という意味で、音楽療法士と看護師の仕事には共通点があります。

音楽療法の対象になる人の例

・障がいをもった子どもや大人

・精神疾患を患っている人

・認知症の人

・自閉症の人

・トラウマを抱えた人

・災害にあった人

・軍人

・失語症の人

・神経疾患を患っている人

・未熟児

・非行に走ったり虐待を受けたりしている青少年

・身体のリハビリテーションを必要としている人

・慢性痛のある人

・がん患者やサバイバー

・ホスピスの患者や家族

・グリーフケアを必要としている人

音楽療法士が働く場所の例

・精神病院

・リハビリ施設

・医療病院

・外来診療

・デイケア治療センター

・発達障害者にサービスを提供する機関

・薬物やアルコール依存症治療のプログラム

・刑務所

・高齢者センター

・老人ホーム

・ホスピス

・学校

どんな対象でも最初に行うのは「アセスメント」

例からおわかりのように、音楽療法の分野は幅広く、対象者によってセッションの内容や目的は異なります。

当然ながら、その分野で働くためにはかなりの専門知識が必要となりますので、大抵の音楽療法士は専門分野をもっています。

もちろん対象者によって音楽療法の内容は変わります。

例えば、同じ「リハビリ施設で行う音楽療法」であっても、対象者のニーズはそれぞれ違いますし、介入の方法も異なります。

音楽療法士が最初に行うことはアセスメント(評価)です。

音楽療法士はクライアント(対象者)の音楽の反応を通じて、精神的安定、身体の健康、社会的機能、認知能力、コミュニケーション能力などを評価します。

その後、クライアントのニーズに対応するための、個人またはグループセッションを計画します。

セッションの内容はクライアントのニーズによって異なりますが、即興をしたり、音楽を聴いたり、歌ったり、曲作りをしたり、詩についてディスカッションをしたり、イメージと音楽を用いたり、音楽を通じて学んだりします。

Open Image Modal

本当の「音楽療法」を広めるには

看護師と同様、音楽療法士になるためにはトレーニングが欠かせません。

アメリカで認定の音楽療法士になるには、承認された大学を卒業し、その後フルタイムで6カ月間インターンシップをする必要があります。

日本ではシステムが異なりますが、日本音楽療法学会認定音楽療法士という資格があり、資格保持者は2700人います。

その他にもさまざまな民間団体や自治体で資格を出しているので、実際に音楽療法士を名乗る人はもっと多くいます。

しかし、国内ではまだまだ音楽療法に対する認知度が低く、職場も限られています。

それを改善するためには、音楽療法士を増やすことよりも、質の担保が重要です。

ボーナブルな人たちと関わる仕事は責任をともなうことだからです。

また、「音楽療法」という言葉だけが先走りして、その本来の意味を理解していない人が多いのも大きな問題です。

CDを聞くだけで音楽療法だと思っている人や、音楽を用いたレクリエーションを音楽療法だと思っている人がたくさんいます。

ですから、正しい知識を広めることが大切なのです。

音楽療法を必要としている人たちが、それを受けられるような社会になるには時間がかかるでしょうが、少しでも多くの人に理解していただければと願っています。

【佐藤由美子】

米国認定音楽療法士。ホスピス緩和ケアを専門としている。米国ラッドフォード大学大学院音楽科を卒業後、オハイオ州のホスピスで10年間勤務し、2013年に帰国。著書に「ラスト・ソング 人生の最期に聞く聴く音楽」(ポプラ社)がある。

(2016年6月3日「看護roo!」より転載)