中国でのスマートフォン市場の拡大やAppleの新型スマホ「iPhone 6」の発売で、日本の大手電子部品メーカーの業績が堅調だ。
中でも、村田製作所は2014年9月の中間連結決算の売上高が前年同期比で15.1%増の4765億円に達し、過去最高を記録した。
同社の村田恒夫社長はハフポスト日本版の単独インタビューに応じ、「中国では若い人たちがスマホに乗り換えつつある」と述べ、今後も中国からのスマホ部品の需要が堅調に推移するとの見通しを示した。
また、海外の売上比率が90%に達する同社は、足元の円安が業績に大きく貢献。対ドルで1円円安になると、営業利益が30億円押し上げられていることを明らかにした。
とはいえ、韓国や台湾、中国の電子部品メーカーは価格競争力だけでなく、高い技術力まで備えてきている。日本勢が今は強みを持っている基幹の電子部品はいつまでも大丈夫か。対策は何かあるのか。
■「中国のスマホのLTEサービス開始で業績堅調」
――スマートフォン用のコンデンサーや通信部品など、スマホ特需もあり、業績が堅調ですね。
村田恒夫社長:スマホ特需というほど、特別なことかどうか分かりませんが、我々としては予想通りです。上期は、特に第1四半期(4−6月期)に中国のチャイナモバイル(CMCC)が、高速通信のLTEのサービスを導入しました。その販促プロモーションもあり、中国のスマホメーカーのLTE向けの部品需要が大きく立ち上がりました。コンデンサーや高周波部品などです。
――チャイナモバイルのおかげで、そうした電子部品がぐっと伸びたのですね。これが一番の業績堅調の理由ですか。
村田:上期の第1四半期では、そうでした。下期からは大手の先進国のスマホメーカーから大きな注文がありまして、その新商品の立ち上げに向けて、大きく受注売り上げが伸びました。
――その企業の名前は、村田社長からは取引事情もあり、おっしゃりにくいのでしょうが、誰もが皆、アップルだと思います。そして、新製品とは、iPhone 6ですね。具体的にどのような部品の受注売り上げが伸びたのですか。
村田:それは、同じようにコンデンサーであり、通信モジュールやインダクター(コイル)であります。
――中国からの需要見通しについて、どのようにみていますか。
村田:下期も堅調に推移する見込みです。
――中国経済は過去10年ほど10%成長で推移し、今後はかなり落ち込んでくるのではないか、と専門家の方でも指摘する人がいますが、御社の場合は大丈夫だと?
村田:はい、我々はインフラ系のビジネスではないので、堅調な見通しを立てています。今、中国でスマホが伸びているのは、今までのフィーチャーフォン(従来型携帯電話、いわゆるガラケー)から乗り換えたり、買い替えたりしているからです。ですから、まずlow-end(低価格)やmiddle-class(中流)のスマホにまず買い替えて、そこからもっと高級品が欲しいという方々がLTE対応のhigh-end(高価格)のスマホに移ってきています。若い人たちがスマホに乗り換えつつあります。
――そうしますと、御社のビジネスを支えてきているのは、やはりスマホを通じて、若い世代になってきているのでしょうか。
村田:はい、そうですね。
――村田製作所といえば、日本を代表する伝統的な企業ですが、やはり新しい世代がビジネスの基盤になっているのですね。
村田:そうですね。今、中国では、シャオミ(小米科技)といった、有名な携帯電話メーカーが急速に伸びています。まだベンチャー企業なのですが、そのCEO(最高経営責任者)は中国のスティーブ・ジョブズと呼ばれています。
■「欧米で設計、中国で生産」
――そこにも御社は先ほど述べられた部品をサプライ(供給)しているのでしょうか。
村田:そうです。今、スマホは、二強と中国勢(の争い)と呼ばれています。二強はアップルとサムスンで、この二社で市場の50%を占めています。後は中国勢ですとか、LGやソニーといったこれまで携帯電話を製造してきているメーカーです。スマホや携帯電話に限らず、何でもそうですけれども、今は、開発している場所と生産している場所が、メーカーによっても違います。欧米で設計された物を、いかに生産基地である中国でうまくビジネスとして行っていくかというポイントがあります。ですから、グローバルに顧客をカバーしていないと、ビジネスは完結できなくなっています。
――中国のスマホメーカー向けの通信向け部品の売り上げが業績をけん引しているとのことですが、御社の海外売上比率はどれほどですか。
村田:当社の売上高の90%は海外です。
――そんなに高いのですか。売り上げの海外比率が90%というと、これはメーカーの中でもかなり高い方ではないでしょうか。
村田:はい、そうでしょう。一方で、国内の生産比率は70%あります。ですから、典型的な輸出企業になっています。
■「1円の円安で30億円の増益」
――そうしますと、円安の恩恵がかなりありますね。
村田:もちろん、そうです。円安について言えば、 ドル取引がとても大きいので、一円、対ドルで為替が動くと、年間の営業利益にして30億円の影響が出ます。
――御社の事業別の売上高はどのようになっていますか。
村田:だいたい通信関係が50%、PCと周辺機器が19%近く、車関係が15%となっています。
――このうち、スマホ関連の部品はどこに入るのでしょうか。
村田:スマホ関連は通信の50%に入っています。
――電子部品が世界的にコモディティー化(一般大衆化)している中で、何か意識されていることはありますか。御社としては、どのような対策を取られているのか。例えば、新たな付加価値の高い製品を生産、開発していくのでしょうか。
村田:電子部品のすべてがコモディティー化している訳ではありません。セラミックコンデンサーで、我々がMLCCと呼ぶセラミックのチップコンデンサーがあります。技術的に、それほどhigh-end(高性能)でないものは、日本以外の国でだいぶ作られるようになってきました。この部品については、コモディティー化していると言われるようになっています。
韓国、台湾、中国に同業者がいます。同業の中には、非常に技術的に力を持っている同業もいますし、低コストの国で作っている同業も多いので、その辺りの価格競争は厳しくなってきています。当社としても、そうした繁栄を脅かされた部品については、海外で生産する方向で生産の拡大を行っているところです。
――その場合の海外とは中国ですか。
村田:そうですね。MLCCの場合は中国とフィリピンとシンガポールで生産しています。
先ほども申しましたように、生産の7割が国内ですので、まだまだhigh-endの製品については、国内で生産しているケースが多いです。
どうやって同業との差別化をしているかと言えば、最先端の小型高機能の商品を同業に先駆けて提供していることで、追随を許さないということ。もう一つは、携帯電話などは立ち上がりが非常に急激なものですから、それだけの供給キャパシティーを持っていないと対応できません。我々は、そうした大きなキャパシティーを持って対応しているので、お客様の満足を得ることができています。
――コストを下げて低価格で競争する部分は海外で、その一方、付加価値の高いアッドバリューの部分は国内でもしっかりやっていくということですね。
村田:そうですね。
――今後の日本市場についてはどのように見通されていますか。
村田:消費税を上げたこともあり、停滞はしていますが、円安の部分も後押ししてくれて、景気も立ち上がってくるのではないかと思っています。当社の場合は、売上比率的に国内は10%を切っていまして、それほど日本の景気の影響度は大きくないです。
むしろ、アメリカと中国の景気の方が重要だと思っています。アメリカの場合は、今のところ、非常に経済が好調のように聞いている。大消費国なので、将来も期待できると思います。
中国は国全体として成長率がやや鈍化していますが、我々の提供している部品、携帯電話とか民生部品にはそんなに大きな影響が及ばないのではないか、と思っています。
売上別にみると、香港や台湾を含む中華圏が50%超、アメリカやヨーロッパがそれぞれ7、8%程度にとどまっています。物作りという意味では、アジアの時代ですね。欧米先進国は、設計はしますが、自国での生産はせずに、中華圏のEMSという製造受託企業に(注文を)出しています。
――ハフポストは若い方の読者も多いのですが、最後に次代を担う若者に何かメッセージはありますか。
村田:もう少し海外の生活環境を見てみるとか、国内で井の中の蛙であっては駄目だと思います。もっと外を見ることをお薦めしたいですね。日本視点や日本の観点しか持たなくなると、まずいと思います。
むらた・つねお1974年村田製作所入社。89年取締役、91年常務、95年専務。2007年から現職。京都府出身。63歳。
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