9月1日から全国で公開がはじまる映画『二度めの夏、二度と会えない君』(中西健二監督)で主役の「智(さとし)」を演じる村上虹郎さん(20)。
「色んな気持ちが渦巻いて、なかなか器用にふるまえない智の背中を押してあげたいという気持ちで演じた」という村上さん。ハフポスト日本版の単独インタビューに対し、作品への思いや、俳優の父・村上淳さん、歌手の母・UAさんとのエピソードなどを語ってくれた。
■「不器用な人間ってかわいい」
——『二度めの夏、二度と会えない君』は、性格もキャラクターもばらばらな高校生5人が、ひと夏のバンド活動をともにする青春物語でした。演じてみていかがでしたか。
智たちが生きている世界って、すごく繊細な世界だなと。学生ってこんなに傷つきやすくて、不器用だったかなと思いながら演じていました。
自分が学生だった頃はもっと、周りのみんなはチャラチャラしていて、器用に色んなことをこなしているイメージがありましたが、少なくともこの作品にでてくる登場人物は、大人たちも含めて全員すごく不器用。
僕はそれがとても好きでした。
——虹郎さんは、器用な人より不器用な人が好きですか?
器用な人は、頭が良くて悟っている部分があったり、確かな知恵を持っていたりして、もちろん尊敬します。人生に面白みや楽しみもあるんだろうなとも思う。
でも、僕は不器用な人が好きです。不器用って、かわいらしくて愛せる。
僕も自分が不器用だなと思う瞬間は多々あります。
——こんなに色々な役を演じきる虹郎さんが「不器用」というのはあまり結びつかないのですが...
不器用です、僕。
「物事」はうまくこなせるかもしれませんが、「感情」が不器用です。自分の心にこだわりがあるから、感情をうまく乗りこなせない時はありますよ。
でも、これ以上器用に生きていたら、もう人生に飽きているかもしれません。一生懸命生きているから不器用だし、一生懸命生きているから面白いと思うんです。
昔、ある人が「人は不器用であればあるほど魅力的だ」と言ってくれました。そういう言葉をもらうと心強いですね。
——かなり個性的な5人が集まりましたが、撮影現場はどんな様子でしたか?
5人とも年齢は近いのですが、それぞれジャンルが違いすぎて共通言語があまりなかったんです。役のキャラクター的にもそうだったのですが、この5人って普通なかなか集まらないメンバーだと思います。だから、何を話せばいいのか探り探りなところもあって。
でも映画の中の5人がそうだったように、「音楽」が共通言語になってくれました。僕がギターを弾きだしたらみんなも楽器を演奏し始めたり、他の誰かが楽器を鳴らし始めたら僕も合わせたり、という感じでコミュニケーションしていたような気がします。
■父が教えてくれた、「映画は音が命」
——"共通言語"といえば、虹郎さんはお父さんである村上淳さんと同じ「俳優」という職業ですね。お父さんから俳優としてのアドバイスなどあるのでしょうか。
映画の撮影現場で、スタッフさんとのコミュニケーションは密にとった方が良いというのは教えられました。例えば、録音部さん。
——それは、どういった理由からでしょうか。
やはりお芝居も映画も「音」だからと言っていました。そこに人がいるだけでは、映画は作品として生きることはできません。音が映画に命を吹き込んでいるんです。
僕も自分なりにその言葉を解釈して、現場でも実践しようとしています。
——素敵な助言ですね。
そうですね。
親父は僕に対して、生き方とか「男としてこうあれ」という言葉を、折に触れて言ってくれました。
——お父さんが、虹郎さんのお芝居を褒めてくださることはありますか。
あまり踏み込んで指導されることはないですが、「良かったよ」と言ってくれたりはします。先日も、舞台を観に来てくれました。終演後に会いはしませんでしたがメールが来ていました。
■生き急ぐつもりはないけれど...
——虹郎さんが役者の道を選んだのは、お父さんの影響が大きかったのでしょうか。
親父の姿を見て、俳優を目指したということではないんです。自分がいつか芝居をやるかもしれないというリアリティも全くありませんでした。
母が歌手で、小さい頃からいつも楽屋にいて裏側を見ていたので、音楽にはなじみがあったのですが、お芝居の場合は、子供が現場についていくこともないですしね。
父親がどういうことをしているか、俳優という仕事がどういうものなのか、全然親しみがなかったです。
——ではどういうきっかけで役者を目指すことになったんでしょうか。
デビュー作になった映画『2つ目の窓』(2014年)の河瀨直美監督から、オーディションを受けてみないかと声をかけていただいたのがきっかけです。
先ほどお話したように、元々は全く俳優を目指していなかったので、決断するのには少し時間がかかりました。
でも今は、意図的に色んなことを瞬間的に決めています。生き急ぐつもりはありませんが、今しかないものは今しかない。それが「東京という場所」に生きて、仕事をしていることの意義だと思うんです。
——虹郎さんにとって東京って特別ですか。
やっぱり時に追われている感じはします。僕はこれまで、いくつかの場所で過ごしてきて、子供なりに色々経験して今ここにいる。東京で生きるのであれば、大事な瞬間やチャンスを逃さないで掴んでいきたいと思っています。
■他人が思う「つながり方」じゃなくてもいい
——今回の映画では、ギターを演奏されていましたね。プライベートでもギターを弾くという虹郎さん。歌手であるお母さんのUAさんからアドバイスをもらうことはありますか。
僕がギターを触りはじめたのは中学生ぐらいの時なのですが、その時に今回の映画の登場人物みたいに文化祭に出たことがあるんです。その時は本当に歌もギターも下手で、家で練習している時に、母から「うるさい」と延々言われていました。
ずっとそのトラウマがあったのですが、最近は少しずつ努力が認められている感じがします。「いいね」と言ってもらえる時もある。
先日は、母の日比谷野外音楽堂でのライブに、サプライズ出演してギターを弾きました。
——音楽で親子共演なんて最高ですね。
ありがとうございます。
この映画も、不器用な人たちが音楽でつながる話なので、通ずるものがあります。僕自身は「智」という役を演じながら、色んな気持ちが渦巻いてなかなか器用にふるまえない彼の背中を押してあげたいという気持ちでした。
生きていたら複雑なことはたくさんあります。でもそれって他人から見たら意外とどうでもいいことだったりする。だからこそ、体裁とかキャラクターを気にせずに、「いいからいけよ」と言ってくれる人が大事なんではないかと思うんです。キスしたり特別な関係になったりしなくてもいいから、自分たちらしくつながって欲しい。僕は登場人物たちに対して、そんな風に感じながら演じていました。
——虹郎さんの願い通り、彼らは自分たちなりにつながったんじゃないでしょうか。
そう思います。他人が思う「つながり方」じゃなくてもいいんです。この映画の中では、5人が音楽でつながっているというロマンが素晴らしかった。
不器用な人しか出てない映画。本当にみんな愛せます。
取材当日、開口一番に「お名前は?」と問いかけてくれた村上虹郎さん。
たくさんのスタッフやマスコミ関係者に囲まれて過ごしているであろう日々の中で、この瞬間、目の前にいる相手を大切する人なのだと瞬時にわかった。
インタビューでは、無邪気で"敵なし"といった雰囲気の中にも、あらゆる気持ちや現象にしっかりと自分で言葉を与えようとする姿勢が印象的だった。
2014年のデビュー以降、11本の映画(未公開映画3本を含む)をはじめとし、数々のドラマ、舞台、CM出演を果たしている村上さん。今後、どんな「瞬間」を掴んでいくのだろうか。(南 麻理江)
■村上虹郎さん プロフィール
1997年3月17日生まれ。東京都出身。2014年、第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品『2つ目の窓』(河瀨直美監督)主演で俳優デビュー。
スペシャルTVドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2015年・フジテレビ系)でドラマ初主演、東京芸術劇場『書を捨てよ町へ出よう』(2015年)で舞台初出演初主演を飾り、活躍の場を広げる。今後の公開待機作に、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(2017年9月23日公開・廣木隆一監督)、『AMY SAID エイミー・セッド』(2017年9月30日公開・村本大志監督)などがある。
■『二度めの夏、二度と会えない君』作品情報
原作:赤城大空『二度めの夏、二度と会えない君』(小学館「ガガガ文庫」刊/ガガガ文庫10周年企画)
脚本:長谷川康夫 監督:中西健二製作:『二度めの夏、二度と会えない君』パートナーズ
配給:キノフィルムズ/木下グループ
© 赤城大空・小学館/「二度めの夏、二度と会えない君」パートナーズ
公式サイト:www.nido-natsu.com
■あらすじ:
不治の病を患う女子高校生・燐(りん)は「文化祭でライブをしたい」という夢を叶えるために、智らが通う高校に転校してきた。それぞれの事情を抱えたメンバーでバンドを組み、文化祭は成功を収める。
文化祭の後、病床に伏した燐に対して、隠していた恋心を打ち明ける智。しかしそれは「取り返しのつかない言葉」として二人の最後の時間を"最悪な"思い出にしてしまう。「何であんなことを言ってしまったのか」と後悔する智は、不思議な力で突然、半年前にタイムスリップする。智は、もう一度"あの夏"をやり直し、燐との時間をいい思い出に変えられるのだろうか——。