結婚のきっかけは「あなたの子どもが産みたい」。借金地獄を救ってくれた妻のために、ボクができること

村橋ゴローの育児連載「ワンオペパパの大冒険」05
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monzenmachi via Getty Images

結婚して以来14年間、炊事・掃除・洗濯などほぼほぼの家事をしている。子どもが生まれた4年前からは育児もボクが担当している。人からよく「なぜすべてをひとりでやるの?」「どうして男のお前が?」と聞かれるが、「家事・育児が好きだから」と答えている。

しかし、これは本当のようで本当の答えではない。もちろん好きは好きだが、その奥にはもっと大きな理由があるからだ。

消費者金融から400万円の借金

結婚した14年前、ひょんなことから妻と知り合い、付き合うことに。当時お互いに32歳の適齢期だったが、ボクに結婚の意思はなかった。前に付き合っていた彼女同様、妻も単なる通りすがりの女だと思っていた。それはなぜか? ボクは当時、400万円もの借金を抱えていたからだ。

22歳でひとり暮らしをはじめ、中目黒の15畳ワンルーム・家賃16万円という部屋を借りた。当時は景気がよく22歳にして月収60万円ほどの時期もあったので何とかなったが、それにしてもぜい沢な部屋だ。テレビで観た、「身の丈にあった生活をしていては成功できない。ちょっとぜい沢な環境に身を置くことで必死に働くことができ、金が追いついてくるんだ」という言葉を真に受けて、自分もそうした。しかし、そんな生活が長く続くはずがない。

やがて破たんをきたし「生活費」という名目で、消費者金融から金をつまむようになった。セイン・カミュが宇宙人に扮し「♪ラ・ラ・ラ・むじんくん」と歌っていた、たぶんあの時代。

最初は1社からの借り入れだったがそれが3社、最終的には6社・400万円にまで膨れ上がっていた。A社からつまんだ金をC社の返済にあて、E社からつまんだ金で飲みに行く、というすさんだ生活。完全な自転車操業。つまんだ金で仲間と飲み、カラオケ屋に行き「♪バーイシコー」とクイーンの『Bicycle Race』を歌い、自分を笑っていた。

アコムの看板が赤いことから、当時アコムのことを「UFJ」と呼ぶほどの『MY5』、マジで闇金5秒前だった。

別れを覚悟して、「借金がある」と告白したら

そんな折、妻と出会ったのだ。当然、そんな現状を言えるわけがない。言ったところで、すぐ逃げられるだけだ。というか、そんなこと言わなくたってすぐにオレが浮気でもして、バレて、別れるだろう、と。そんな中、いつものようにA〜F社が入っている新宿の街金ビルをハシゴして金を工面していると、ケータイに着信が。それは高校からの親友からのもので「結婚する」と。「それでハワイで挙式するから、お前も来ないか?」というものだった。

もう32歳、ハワイで挙式する親友、街金ビルを徘徊し今日・明日の2~3万を必死に工面する自分。見ないことに心血を注いでいた現実というフタが一気に開き、その場で吐いた。どうやって新宿から家の最寄り駅まで帰ってきたのか覚えてないが、踏切を真剣に見つめる自分がいた。「死のう。死にたい」そう、人生ではじめて本気で願ったのだった。

その夜、当時付き合っていた妻に、吐き出した。誰かに言わなければ、自分はもう狂ってしまう。誰かに吐き出して、少しでもラクになりたかったのだ。しかしこれで、この女ともお別れか。だが、彼女はこう言ったのだ。

「いくらあるの? アタシが返してあげるよ」

 そして、こうつけくわえた。

「あなたの子どもが、産みたいの」

日々、愛を返していく

ボクらは、その半年後に結婚した。以来、家事と育児はボクが担当している。彼女から「やれ」と言われたことは一度もない。すべて自主的にだ。家事や育児、好きは好きでやっている。

でもどこかで家事や育児を通して、あの日もらった愛をちょっとずつ妻に返しているのかもしれない。死ぬことも本気で考えた、その晩にもらった彼女からの愛。だからいわば32歳でいったん死んだわけで、今に至る以降の人生は、彼女にもらった余生なのだ。

実は妻は昨年、会社を辞めた。1000万円の年収を捨てて起業することにしたという。ボクにとっての人生は、彼女にもらった余生なのだから、彼女のやりたい道に寄り添うつもりだ。「どんな生活をしたいか」という望みはみんなあるが、それよりボクにとって大切なのは「誰といたいか」。

大切な人に「ありがとう」を伝えよう

ここまでの話がノロケに聞こえるかもしれないけど、あなたを支えてくれている人を大切に思っていますか? という話。夕飯の時間になれば出てくるご飯、きれいに畳まれたTシャツ、これらすべては「当たり前」なんかじゃない。

四十六にもなって、妻がすっと手を握ってくれる。これってもう、けっこうな奇跡に近いんじゃないかと思う。ここんとこ、ワンオペ育児とか家庭に関するいろんな問題がかなり大声で議論されているが、当事者であるすべての男女にこう言いたい。「好きな人にはやさしくしようぜ。あと、『ありがとう』って言おうぜ」って。

 

■村橋ゴローの育児連載

 

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