自治体病院の存在意義とは~「住民医療」への原点回帰~

人権と命を最優先にする過不足ない医療を提供する自治体病院の原点である「住民医療」となるよう地域住民、医療従事者の声を受け止めながら、希求して行く所存です。

前回の続きですが、監察医務院と都立病院の連携に尽きまして、去る10月23日の公営企業会計決算特別委員会第2分科会にて以下を質しました。

お姐「都は監察医務院を有し、不審死の検案と解剖を行っております。私は先月、同院を視察させていただいましたが、福永院長以下、スタッフのスキルの高さと最新鋭の設備に感銘を受けました。いわゆる「エコノミークラス症候群」を発見したのも監察医務院ということです。同院による研究と成果をいかに都立病院の医療に反映しているのか、現状の連携状況と考え方をご説明ください。」

病院経営本部「監察医務院で行われている死因究明の過程で得られた貴重な情報は、医学教育や、臨床医学等に還元され、医学の進歩に貢献している。また、都立病院では、同様に剖検や臨床研究に取り組んでおり、それぞれが医学の発展に貢献しているものと考えている。」

(お姐超訳:監察医務院の医学貢献は認めてますし、都立病院でも同様に研究はやってますが、監察医務院の調査研究結果を常に共有するということは行ってません。)

と、言うものでありました。せっかく都の税金を使っている2つの医療機関、しかも監察医務院は国税を使って調査研究を地道にしているのに積極的には共有しないとは…縦割りMOTTAINAI!!ただ、都立病院での院内研修会などで、監察医務院長を講師としてお招きして知見を頂くことはあるとのことは申し添えておきます。

病院経営本部の「経営」については、収益性分析についての比較、職員給与費の比較、一般会計繰入金に関する諸問題の観点から厳しく点検させて頂きました。病院の一般会計繰入金医業収益比率(=平たく言うと税金投入率)を比較したところ、総務省の資料によると広尾病院は46.1%、大塚病院は55.8%、駒込病院は45.8%、墨東病院は47.2%、多摩総合医療センターは38.1%、神経病院は107.0%、小児総合医療センターは63.6%、松沢病院は71.6%でした。自治体病院、すなわち都立病院は、独立採算制の趣旨を持ちつつ、地方公営企業法第三条の基本方針「常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進」せねばならないところなのですが、経営面だけ捉えてみますと、398億円(!)という莫大な税の投入なくして独自での運営が全くできていない状態であります。

本年3月31日付で「公立病院改革の推進について」が通知されており、その中には「新公立病院改革ガイドライン」が示されてますし、東京都でも都立病院改革推進プランを推進しておるところで、ではどこまで効率化、合理化をしていけばいいのか。

お姐のような鬼の市場経済再優先の自由主義者は、大鉈振るってコストをカットせよ!と言い出しそうだと皆さんは思われるかもしれませんが…そこは少し違うということをお伝えしたく、以下、決算特別委員会で述べたことを基本に成文してご紹介いたします。

【自治体病院の存在意義とは】

自治体病院、都立病院というものは、地方自治体としての都の組織であるととともに、医療機関という二つの側面をもっております。医療提供についていえば、地方自治体政策の一環として不採算を度外視したうえで医療サービスを地域住民へ提供する一方で、私的医療機関へは補助を出し、なおかつ民間である彼らと同様に医療を提供している面から収支は、均衡させなければならない、という言わば二律背反する、相矛盾しかねない二つの要素を求められてしまうわけです。しかも、都は、都立病院に加え公社病院、福祉保健局の医療センター、監察医務院等さまざまな医療部門を抱えております。

民間医療体制が整備されてきた東京都においては都立病院の果たすべき役割は、より公共性が求められることから「地域における医療や社会問題を解決する施設・組織」(病院経営本部事業概要より)としての役割に集中するため、「医療機関の集約とネットワークの充実強化」と「患者中心の医療」(都立病院改革推進プランより)に特化し、何もかも抱え込まず、開業医、得意分野のある民間病院と役割分担をしていくということで、その矛盾を解消していくと私は考えています。

そもそもに立ち返りますと、自治体病院というものは、中・低所得の住民に安価に医療を提供することを目的として設立されてきた歴史があります。知恵とお金を出し合い、地域や職場というつながりで、万一病気になったときに低負担で医療サービスを受ける相互の信用と社会連帯を基盤とし、貧しい人にも医療を提供することを目指し、平等を意識した世界に類を見ない日本の医療制度の礎となってきました。

収支均衡が求められ、政府においても行政改革の対象となっております一方で、自治体病院がある地域は国保医療費が安いという傾向があります。

地域包括ケアの考え方は、実は新しいものではななく、これまで、地域の医療人材の育成、予防医療、経済的にも弱い立場の人にも公平な医療を自治体病院が中心になって、地域と協力し担ってきた形を今日的に復元するものであり、結果的にコストを分担していくことに繋がると考えます。。

莫大な、公費が投入している都立病院ですが、消防庁から取り寄せた資料には、平成26年度救急搬送66万件のうち、都立病院における受け入れ数は30,877人、4.6%を受け入れているとのことです。都内の病床数のうち都立病院が占める割合は4%とすれば、それを上回る都民を受け入れている努力が見て取れます。

上田が病院経営本部へ求めるところの経営効率化とシビアなガバナンスと改革を進めるのは、持続可能な患者中心の医療の実現のためであります。都が目指す「行政的医療」の提供からさらに昇華し、人権と命を最優先にする過不足ない医療を提供する自治体病院の原点である「住民医療」となるよう地域住民、医療従事者の声を受け止めながら、希求して行く所存です。

著者:伊関友伸 (城西大学経営学部マネジメント総合学科教授)

☆お姐、自治体病院は現代の赤ひげ先生であろう。そのためにも不要な医療・投薬を見直してゆけ!☆

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(2015年11月5日「上田令子のお姐が行く!」より転載)