「イスラム教に対する理解を深めてほしい」都内の片隅のモスクにイスラム教徒が集う(ルポ)

日本を訪れる観光客が増加するなど、国内でイスラム教徒に接する機会が増えている。イスラム教徒はどう暮らしているのか。都内のモスクから報告する。
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東京・大塚にあるモスク「マスジド大塚」(中)。屋根にある小さなドームが特徴的だ=東京都豊島区

2020年の東京オリンピックを控えて日本を訪れる観光客が増加するなどし、国内でイスラム教徒(ムスリム)に接する機会が増えている。多くの日本人にとってはまだ身近でないイスラム教徒は、どう暮らしているのか。都内のモスク(イスラム教礼拝施設)に足を運んだ。

国内のイスラム教徒(ムスリム)

店田廣文・早大人間科学学術院教授(アジア社会論)の推計によると、国内には100カ国以上からの約10万人の外国人ムスリムと約1万人の日本人ムスリムがいる。国籍別ではインドネシアやパキスタン、バングラデシュが上位。

(2016/01/09 朝日新聞 夕刊)

都心のJR大塚駅から徒歩5分。繁華街の大通りからちょっと入ったところにあるラーメン店の隣に、正面から見ると幅数メートルしか見えない細い4階建ての白いタイル張りのビルがあった。ここが、宗教法人「日本イスラーム文化センター」が運営するモスクの「マスジド大塚」だ。屋根には礼拝施設とわかる小さな緑色のドームが備え付けられていた。

8月上旬の土曜日の夕方、日没礼拝が始まろうとしていた。真ん中に立った男性が、イスラム教徒への礼拝の呼びかけである「アザーン」を唱えた。2階にあるこの部屋は男性用の礼拝所で、集まってきた約30人の3分の2以上は外国人のようだ。みな、メッカの方角を向いて、時折ひざまづいたり立ち上がったり、ひたいを頭につけたりして祈りを捧げていた。部屋の本棚には、イスラム教の経典コーランの各国語のものが並べられていた。

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お祈りをするイスラム教徒ら

その後、パキスタンから訪れたイスラム専門家が英語で説法をした。説法の最中、部屋の端にいた記者が目を落として手元の資料を見ていると、日本イスラーム文化センター事務局長のクレイシ・ハールーンさん(51)にそれをやめるよう、目で促された。神聖な時間なのだ。

モスクは主なもので全国に100カ所以上あり、ハールーンさんによると、都内には10のモスクがある。マスジド大塚の前身は1993年、池袋にあるビルの中に部屋を借り、礼拝所としたことに始まる。1999年に「マスジド大塚」ができたが部屋の契約更新をさせてもらえなくなったため、信者の寄付や借用で今のビルを購入。改装して2000年2月に開堂式典を開いた。

多くのイスラム教徒が足を運ぶ金曜礼拝には、150〜200人がマスジド大塚を訪れる。イスラム教のラマダン(断食月)の明けの祭り「イード」の時には800〜1000人が来るため礼拝所に入りきれず、交代でお祈りしたりすることもある。

訪れる人たちの国籍は多様で、パキスタンや東南アジアのほか、中東やアフリカの人など20カ国以上だ。最近最も多いのが、バングラデシュ人という。

マスジドは隣に幼児向けの教育施設を設け、年に1回、海外から先生を招いて勉強のためのキャンプを開いたりもしている。シリア難民への支援物資を募ることもある。も悩みごとなどを話し合う勉強会を開いているが、参加者の8-9割は日本人女性で、その多くがイスラム教徒とみられる。日本人男性がイスラム圏の外国人女性と結婚することはまれだが、日本人女性がイスラム圏の男性と結婚して改宗するケースが多いという。

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土曜日の夕方の礼拝、勉強会が終わると、参加者らが揃って夕食をとる。この日はカレーだ

礼拝の後は夕食会だ。じゅうたんの上に大きなビニールを広げ、男性らが座ってカレーを盛った皿を下に置いて、スプーンや素手で食べていた。食事は交代で作るという。記者もいただいた。鶏と羊肉が入り、辛すぎることはなく、美味しかった。

■「多くの人たちが、純粋にお祈りしたいと思っている」

「日本人にイスラム教に対する理解を深めてもらいたいと思っています」。ハールーンさんは流暢な日本語でそう語った。マスジドとしても、また個人的にも地域活動に積極的に関わってきた。

2011年の東日本大震災の際には、マスジドでカレーやおにぎりを作り、宮城・福島の被災地に運んで振る舞った。大地震発生の翌日の3月12日から、100回以上訪れたという。

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「日本イスラーム文化センター」のクレイシ・ハールーンさん

ハールーンさんは、パキスタン東部の大都市ラホールの出身だ。地元の大学を卒業した。アメリカのバージニア大学に進もうと思っていたが、父の勧めもあり、1991年に留学のため来日した。2001年に911(米同時多発テロ)が起きたときは、「あぁ、あのときもしアメリカに行っていれば苦労していたのかも」と感じたという。

コンピューターなどを学び日本企業に就職。約5年勤めた後、日本で建設機械の貿易会社を立ち上げた。マスジド大塚は、学生時代に手伝っていた時からの付き合いだ。自分の仕事やマスジドの活動のかたわら、NGOに所属してホームレスの支援活動もしている。また、お見合いで出会った日本人の妻と2000年に結婚し、男4人の子供がいる。

ラホールには大学教員だった父親らがいるが、「パキスタンに戻ることは考えていないですね。日本には既に生活拠点ができましたので」。

なぜ、多くのイスラム教徒がマスジドを訪れるのか。ハールーンさんは「多くの人たちが熱心な信徒で、純粋にお祈りしたいと思っているからでしょう」と話した。世界各地でイスラム過激派によるテロが相次いでいるが、ハールーンさんは「あれは本当のイスラム教徒ではない。イスラム教は平和の宗教なんです」と強調した。

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お祈りをするイスラム教徒ら。各地の礼拝時間を示す時計と、説法をするステージが並ぶ

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