みなさま、弁護士の小口です。すっかりコラムをサボってしまいました...。
今回は、盛り上がりに盛り上がっている森友学園問題に便乗して、裁判での証拠評価の方法に関するコラムを書いてみます。末尾に私の私見もあります。
いま(3/18)一番注目を集めているのが、安倍総理からの献金を示すものとして示されている100万円の振込伝票です。まだご覧になられていない方は、以下のリンクをご覧下さい。
全体像
裏からライトをあてた状態
よく、法律相談の際などに、「これは証拠になるか」という質問を受けます。
刑事裁判では、証拠になるかならないかという議論が確かにあるのですが、それ以外(民事裁判など)では、「どれぐらいの証明力をもつ証拠か」「強い証拠か弱い証拠か」という形で証拠を評価することになります。
つまり、なるかならないかではなく、証明力が強いか弱いかというとらえ方をします(もちろんゼロ、無関係もありますが)。
仮に民事裁判で、森友学園から、「9月5日に安倍晋三氏から100万円を寄付として受け取った証拠だ」として提出されたとすれば、この証拠にどれほどの証明力があるかを検討してみたいと思います。
まず、裏からライトをあてた状態の画像をみると、下に「27-09-07淀川新北野郵便局」というスタンプが押されています。
このスタンプは、後から森友学園が作出することがかなり困難な記載です。よって、この記載と修正テープより上にある記載から、この伝票が、平成27年9月7日に、森友学園の口座に100万円送金されたときの伝票であることは、ほぼ確かだと思われます。
そして、平成27年9月7日は月曜日であり、5日は土曜日ですから、確かに9月5日に100万円を受け取ったので7日に100万円を振込伝票で送金したというのは、自然な流れです。
上記のように、この伝票は、この問題が報道されるようになってから、あるいは色々な関係者から森友学園がしっぽ切りにあった感じになってからつくられた証拠でないことは、「27-09-07淀川新北野郵便局」というスタンプからわかります。
よって、確かに「9月5日に安倍晋三氏から100万円を寄付として受け取った証拠だ」という主張を、それなりに根拠付ける証拠、ということができそうです。
さて、残りは「ご依頼人欄」です。
そもそも森友学園は、安倍昭恵氏から、領収書は結構ですという形で100万円を受け取ったという主張をしていますので、この欄が空欄でも不思議ではありませんし、形式上空欄がムリということで自らの団体名である森友学園として記載していても何ら不思議ではありません。
むしろ、安倍昭恵氏が上記のように言ったのであれば、ここに安倍昭恵とか、安倍晋三とか書いてはまずいはずです。
その上で、もう一つのポイントは、森友学園の上に押されている赤いスタンプ、淀川新北の郵便局長印のハンコです。
今回の問題が発覚してから、森友学園が郵便局にこの伝票をもっていって、この赤いスタンプを押してもらうなんていうことは難しいでしょうから(郵便局が応じなそう)、この赤いスタンプも、9月7日当日に押された可能性が高いスタンプだと思われます。
せいぜい、その直前直後でしょう。
そして、このスタンプはどう見ても修正テープより上に押されていますから、修正テープの下の文字は、9月7日当日かその直前直後より前に記入された文字、ということになります。
つまり、今回の騒動が起きてから、あるいはしっぽ切りになりそうになってから、匿名とか、安倍晋三とか書いたということは恐らくなくて、この修正テープの下の文字も、9月7日当日かその直前直後より前に書かれた文字であろうということになります。
ここまでのように、書面の内容、客観的状況、そして様々な経験則から合わせて証拠を評価していくのが、裁判実務で日々行われていることであり、法曹として腕の見せ所でもあります。
以上でお分かりいただけたと思いますが、この証拠は、少なくとも今回の問題が起きた後、あるいはしっぽ切りされそうになった後に作出されたものではないと考えるのが合理的です。
そして、確かに9月5日に100万円を受け取った、特に、名前を伏せた方がいい人から受け取ったことを示していると思います。
そして、修正テープの下には、匿名という文字と、安倍晋三という文字が見えます。
つまり、まず安倍晋三とか、匿名とか書いたが、どちらも修正テープで消して森友学園と書いたという順序であることがわかります。
郵便局が修正箇所を示すためにスタンプを押してくれていることを考えると、郵便局の前でこのやりとりがあって、最後の森友学園を明確にするために(他が修正であることを明確にするために、)郵便局がスタンプをおしてくれたと考えるのが、最も合理的だと思います。
最後の論点は、平成27年9月7日の時点で、いつかみんなに裏切られることを想定して、そのときに備えたある種の切り札として、この証拠をつくっておいたのか、それとも籠池氏の言うとおりのことがあったのかという点でしょう。
こういうとき裁判では、他の証拠からわかる事情から、そのような動機を当時持つことがあったか否か、仮にあったとしたら他にこういう証拠があるはずでは、といったことを合わせ考えます。
まず、一連の経過からすると、この時点では全てはうまくいっており、裏切られることに備える動機はなさそうです。まあ、それでも用心深い人だということはあり得ますよね(失礼ながらそういう方には見えませんが...)。
仮に、当時の時点で、いつかみんなに裏切られることを想定していたのであれば、籠池氏は他にもすごい証拠をもっていて、あるいはつくっていて当然でしょう。
例えば、9月5日に実際に講演した安倍昭恵氏との会話を秘密録音した録音テープや、既に出ている鴻池議員とのやりとりを秘密録音した録音テープなどをです。
稲田大臣が務めていた法律事務所に事件を依頼して裁判までしていたようですから、色々な証拠をつくっておくチャンスもあったでしょう(稲田氏への振込み伝票とか)。
籠池氏が裏切られることを想定して切り札をつくっておく用心深い人なら、他にも、財務省担当者とのやりとりや、大阪府の職員とのやりとりを秘密録音した録音テープ、そして色々な書類をつくっておく、あるいはもっているでしょう。
しかし、そういった証拠が、いまのところ出てきていないところも合わせ考えると、平成27年9月7日当時から、このときのことを考えて「安倍総理を嵌めるための証拠を付くって置いた」というストーリーは、結構厳しい筋だと思います。ということは...
以上、あくまでもしがない弁護士の私見です。当たるも八卦当たらぬも八卦。
(2017年3月18日「南山法律事務所」より転載)