「ムーミン」が大人にも愛される理由とは? 「妖怪ウォッチ」との類似性も

ムーミンが長年にわたって愛されるキャラクターとなった理由はどこにあるのだろうか? 改めて“可愛い”だけじゃない、再び盛り上がりを見せているムーミンの魅力に迫る。
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時事通信社

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新作映画も好評 「ムーミン」が愛される理由は可愛さのなかにある“毒”

日本でも世代を越えて愛されているフィンランド生まれのキャラクター「ムーミン」。昨年、作者のトーベ・ヤンソンが生誕100周年を迎え、この2月には長編アニメーション映画『劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス』が日本公開されるなど、ここにきて再び盛り上がりを見せている。ムーミンが長年にわたって愛されるキャラクターとなった理由はどこにあるのだろうか? 改めて“可愛い”だけじゃない、ムーミンの魅力に迫る。

■ムーミン人気をけん引する大人の女性

1945年に原点となる小説『小さなトロールと大きな洪水』が出版された「ムーミン」シリーズは、1970年の『ムーミン谷の十一月』まで、長編・短編合わせて全9作の小説が発表されている。日本では、1969年の『ムーミン』にはじまり、1991年~1992年に放送された『楽しいムーミン一家 冒険日記』まで、4度にわたってTVアニメ化。“ムーミン谷”に住むゆかいな妖精たちは、アニメを観ていた世代はもちろん、温もりのこもったきめ細やかな線で描かれたシンプルなフォルム、ちょっとおとぼけ感のある表情など、キャラクターとしての魅力で子どもから大人まで幅広い世代に支持されている。

可愛いキャラクターもの=子どもに人気があるというイメージがあるが、「ムーミン」の場合、ここ数年は特に“大人の女性”からの人気が上がっている。実際、休日にムーミンショップやカフェに足を運ぶと、20代、30代と思われる女性たちが目を輝かせながら行列を作っているのをよく目にする。また、第1作目~2作目のアニメを観ていたと思われる50代以上のファンも多く、キャラクターものでありながら成長しても楽しめるコンテンツであることがわかる。

『楽しいムーミン一家』世代である筆者自身も、「ムーミン」は大好きなキャラクターのひとつだが、当時は“可愛いキャラクター”というよりも、“怖いアニメ”というイメージのほうが強かった記憶がある。どんな時もほのぼのしている一家とは対照的な、シュールな雰囲気の音楽。ムーミンが紫色の化け物に変身してしまう話や、大洪水で家が水に浸かってしまい、漂流する劇場に逃げ込んだ一家が離れ離れになってしまう話。また、ムーミン谷に大量発生し、雷に打たれ発光している「ニョロニョロ」、不気味な音楽とともにどこからともなく現れ、触れたもの全てを凍らせてしまう「モラン」といった個性的なキャラクター……ユニークでありながらも子ども心に“トラウマ”を植え付けられた視聴者も多いだろう。

■人気コンテンツには「陰」の部分が必須

しかし、この“怖さ”や“毒”といった部分こそ、大人も「ムーミン」に惹かれる最大の要因だ。例えばトラウマになったキャラクターとしてよく挙げられる前述のモラン。灰色の身体にまん丸の目、大きな鼻。言葉を発することもなく、冷気を出しながら無表情で見つめてくるモランは、当然のことながら誰からも好かれていない。それでもどこからともなく現れては人の集まるほうへ寄っていき、様々なものを凍らせてしまい、ますます嫌われていく。だが、一家だけはその絶望的ともいえる「孤独」に気づく。実は「ムーミン」の中でモランは「孤独」の象徴として描かれているのだという。

そうして作品自体を見ていくと、ストーリーやキャラクターに込められた、様々な「陰」の部分に気付く。作者のトーベ・ヤンソンは、第二次世界大戦をはじめ複数の戦争を体験している。これが「ムーミン」の世界観にも影響していると言われており、モランで表現されている「孤独」など、人間の身近にある様々な「陰」のテーマが、ファンタジーに置き換えて表現されている。深読みしていくと、子どもの頃は“怖い”と感じていた要素が、いつしか共感や同情といった感情に変わっているのだ。

以前、ORICON STYLEでは『妖怪ウォッチ』が大人にもウケている理由のひとつとして、普遍的でわかりやすい話のなかに「シュール」「ブラック」な要素が隠れていることを挙げた。子どもから大人まで、幅広い世代に愛されるキャラクターコンテンツには、表に見える「陽」の部分とは真逆に位置する「陰」の要素が必須なのだ。

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