(MUUMIT RIVIERALLA /MOOMINS ON THE RIVIERA /2014)<2月13日公開>
筆者は昭和38年生まれであるが、日曜夜7時30分からのテレビアニメ『ムーミン』は好きであった。日本の子供は、見ている子が多かったのではないか。「ねぇムーミン、こっち向いて、恥ずかしがらないで、もじもじしないで」という主題歌もよく覚えている。日本では昭和44~45年、そして昭和47年に2回放送された。登場人物が個性的で魅力的であった。
ムーミンはフィンランド生まれ。本作品は原作者トーベ・ヤンソンの生誕100周年(2014年)を記念し製作された"全編手描き"のアニメーション。原作の雰囲気を生かしたという、手描きによる温かな色調や音楽が癒しともなる。
さて本作品であるが、ムーミン一家は、バカンス(さすがヨーロッパ!)でフィンランドから地中海沿岸(イタリア)の観光地リビエラ(しかも高級!)にやってきた。ところが、彼女のフローレン(日本ではノンノンだった)がプレーボーイに夢中になり、ムーミンは嫉妬。ムーミンパパも貴族と親しくなり、自らをムーミン伯爵と称し始めた。そんなパパにムーミンママは腹を立て、親戚が暮らす古いボートで静かに過ごそうと決意する。そんなこんなで、ムーミン一家はそれぞれ勝手にバラバラになってしまうが・・・・。
ムーミンは基本的には童話でキャラクターも可愛いが、物語は楽しいものだけはなく、大変な事件が起こるものや、難解で暗いものも多かった。今にして思うと哲学的なものも結構あった。それもそのはず、もともとは反戦漫画だったのである。フィンランドは長年ロシア・ソ連の脅威にさらされ、戦争を行っていたからである。それ以前はスェーデン、そして第2次世界大戦の時にはドイツと対峙していた。
実は、作家の生誕100周年記念ということもあり、さらに『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペットアニメーション 』(2010:ポーランド) という人形を使ったアニメも公開される。
映画ファンの方は分かるだろうが、フィンランドというと首都ヘルシンキで撮影された『かもめ食堂』(2006年)がある。筆者も大好きである。筆者もヘルシンキに入ったことがあるが、フィンランドはかなり興味深かった。一般の日本人の印象よりもかなり進んだ経済を持っている。1980年代以降、農業と林業からハイテク産業を基幹とする工業先進国になった。NOKIAやLinuxが有名である。また筆者も好きなのであるが、モダンなデザインのセンスもあり、食器のArabiaやIittalaは日本でも有名である。
フィンランド経済は海外に開かれており、GDPにおける貿易比率や海外資本との関係が非常に高い。そのため、国際的な経済の動向に左右されやすい特徴を持っている。最近では、最近では携帯電話で世界一のシェアを誇ったNOKIAの経営悪化が響いている。スマホへの対応が遅れたのである。ノキアは地名から取った社名で、もともとは製紙会社であったが、特に80年代から構造改革を進め一時は世界一になった。世界を旅する人ならば、どの空港でもNOKIAの呼び出し音が聞こえたものである。しかし、大きくなると「イノベーションのジレンマ」でもないが、改革は困難になるものである。その後、主要部門をマイクロソフトに売却した。
世の中、経済は生き物で、いつも成長し、形を変えている。諸行無常である。環境(状況)と自分がズレた時には、自分で自分を変えて(Transform)いくことがどうしても必要になる。それは仕方ないことで、しないのはマズいことである。商売でも売れるものにシフトしていくことは必須である。
海外のメディアは財政をはじめとして、分かっていても自らは変えられず悪化していく日本経済を「日本病」と揶揄する。金融緩和、そして量的金融緩和は規模の拡大で、一息つけても、経済の悪いところはそのまま温存しさらに悪化させる。つまり痛み止めのようなもので、海外のメディアは、痛み止めどころか「モルヒネ」と揶揄する。投与すると気持ち良くなる。しかし、もっと欲しくなる。そして体はさらに悪くなり、良くなることはない。米国はこの量的金融緩和からの脱却を「正常化」と呼んでいる。
日本は財政にしてもこの10年で約4割増えて、政府総債務残高(国の借金合計)は約1100兆円を超えている。人口は約1億2千万強であるが年々減って少子高齢化している。マクロ経済では、企業では売上高にあたるGDP(国内総生産)対比で比率を検討するが、政府総債務残高は約240%でダントツの第1位である。第2位はあのギリシャであるがぐっと離して約180%である。
こういうのは、たとえば「国債が値崩れしなければ良い」ではなくて、「生き方」の問題だと思う。ムーミンも厳しい環境の中であるため、哲学的な内容が重視されたのではないか。でも、個人的にはムーミンのあのユルい感じは大好きである。
「宿輪ゼミ」
経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生達がもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この今年4月で10年目、開催は間もなく180回を超えております。
Facebook経由の活動が中心となっており、以下からご参加下さい。会員は7000人を超えております。https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/
次回第176回の宿輪ゼミは2月18日(水)開催です。国際経済・金融事情を解説した後、中国人民元の通貨政策を詳しく解説します。