日本で初めてとなる本格的なフィンランド式幼児教育が行われる「ムーミン インターナショナル キンダーガーデン」が東京・赤坂にオープン、1月から本格的にスタートする。ムーミンのキャラクターを公式に"大使"として採用、「自然」「創造性」「持続可能性」に重点を置いて子供一人ひとりに適した質の高い早期教育を目標に掲げている。1歳6カ月から6歳までのさまざまな国の子供たちが通う「ムーミン幼稚園」は、どのようなところになるのか? オーナーであるバーバラ・ザモーラ・ヴァータヤさんに聞いた。
■雨の日も雪の日も外で遊んで学ぶのがスカンジナビア式
−−なぜ、「ムーミン幼稚園」を開こうと思ったのですか?
3歳になる息子がいたことがきっかけです。私はグアテマラ出身でアメリカで学びました。経済が専門で、10年にわたってウォール・ストリートで働いていましたが、7年前にフィンランド人である夫の仕事のために、来日しました。息子が生まれてからは彼にとって何が大事か考え始め、子供に対するケアや学習について研究を重ねた結果、フィンランドの教育システムに行き着きました。
−−国際的にもフィンランドの教育は評価が高いですが、その幼児教育とはどういうものなのでしょうか?
フィンランドの教育の中でも特徴的なのが、0歳から6歳までの早期教育です。まず、興味深いのは、教師が子供一人ひとりの個性を注意深く観察し、それを伸ばすような方法をとっているところですね。それから、「学ぶことを学ぶ」ということです。子供たちはただ机に座って「勉強しなさい!」と言われるのではなく、個性を強めてさまざまな意味で強い人間に育てることに重きを置いています。
−−それは、どのように実践されるのでしょうか?
子供たちを教える時には、ただ知性だけを伸ばそうとするのではなく、体の動かし方など、さまざまな側面から子供を育てることが大事です。子供は大人と違い、世の中に関する知識もなく、自分たちの体がどのように機能するかも知らないので、体をどうやって使うかも一から学ばないといけません。算数を学ぶにしても、椅子に座っているのではなく、公園に行って自分の体を動かしながら、楽しく数を数えてみます。
「ムーミン幼稚園」の庭は狭いのですが、ここから5分も歩けば4つの公園がありますので、子供たちは毎日、出かけていくことになります。スカンジナビアの人たちは、「天気が悪い日はない。雨具や防寒具などをちゃんと着れば、どんな日でも天気を楽しめる」と言います。ですから、雨の日も子供たちは濡れないような雨具を着て、公園へ遊びに行きます。スカンジナビアの親は子供たちに毎日、外で遊んでほしいと考えています。これも、教育にとって大事なことなのです。そんなフィンランドの教育を取り入れたいと思いました。
■楽しみながら学べば、子供の「長期記憶」となる
−−「ムーミン幼稚園」の教師はどのようなバックグラウンドの人材なのでしょうか?
教師たちは、子供の教育についてのエキスパートです。今は2人の教師がいます。1人はフィンランド、1人はコロンビアの出身で、今後は6人に増えます。メインの言語は英語です。将来、ここで学んだ子供たちが英語を使えれば、世界のどこでもつながることができます。子供は大人と違って、脳がとても柔軟なので、小さい時に英語に慣れておくと成長してからも学びやすいです。英語以外にも、もちろんフィンランド語とスウェーデン語、スペイン語、それから日本語も使用します。
−−スペイン語はバーバラさんの母語でもありますが、スウェーデン語もですか?
スウェーデン語を話せる先生がいますので、彼女の語学力を活かして子供たちに教えるつもりです。実際、フィンランドでは人口の約6%がスウェーデン語を話す人たちです。さまざまな言語を学ぶことで、子供たちはよりよいコミュニケーションをとることができるようになりますし、同時に新しい考え方を知って、人生をより楽しむことに役立ちます。
また、これもとても大事なことですが、言語を学ぶということは、クリエイティビティが磨かれます。それにフィンランド式教育の考え方を取り入れることで、知性や身体などさまざまな面での子供の成長を促進させるのです。
スカンジナビアでは、子供時代を十分に楽しんで過ごすことがとても大事だと考えられています。子供時代を楽しんで過ごすと、子供たちは四六時中、学ぶことをやめません。楽しみを知っている子供たちはいつでも学び、全ての分野で能力を向上させます。
これは、科学的な観点、脳の発達の面からみても、楽しんで学ぶことはとても好ましいと証明されています。楽しみながら学んだことは、脳の「長期記憶」部分に記憶されます。反対に、学ばなければいけないというプレッシャーとともに学んだことは、「短期記憶」部分に記憶されます。学んだことをしっかりと「長期記憶」部分に記憶させることは、私たちがこの幼稚園で目指すところでもあります。
−−言語を学ぶことも「楽しく」なのですね。
子供たちには、新しい言語を学ぶ能力があります。また、さまざま言語を幼稚園で使うことで、それだけ多くのバックグラウンドを持つ子供たちが相互に理解もできます。多様な言語を話す教師がいることの強みは、子どもたちに言葉を教えることができるだけではなく、彼らを通して子供たちが、自分たちもいくつもの言葉を話すことができるんだという可能性を学ぶことです。
そして、言葉を学ぶ時にはテキストを使って学ぶのではなく、歌ったり、踊ったり、料理をしたり、と色々なアクティビティをしながら学びます。時には、子供たちが先生となって言葉を教えることもあります。スウェーデン語やフランス語などさまざまな言葉を話す子供たちがいますから、その日の言語を選び、その言葉を話す子供がその日の「先生」となって、他の子供たちに教えることもできます。先生役を務めることは子供たちにとって楽しみになります。
■親と協力して子供一人ひとりに合ったカリキュラムを
−−とてもフレキシブルな教育方法なのですね。そこがフィンランド式では重要なのでしょうか?
私たちは、個々の子供に合わせた「パーソナライズド・エデュケーション」を行います。「ムーミン幼稚園」では、フィンランドの早期教育のガイドラインを参考にしていますが、実はガイドラインには具体的にどのように教えるかということは書かれていません。大事なのはガイドラインではなく、教師のクリエイティビティや知識です。
「パーソナライズド・エデュケーション」を実践するためには、教える前に子供のことをよく知らなければいけません。大抵の教育システムでは、「今日はこれを学びましょう」と決めて、全員に同じことを教えるものですが、フィンランド式はそれとは違います。フィンランド式では、まず子供をよく観察して、お友達とどんな風に遊んでいるか、静かな子供なのか、活発な子供なのか、彼らのことを良く知ることが先生のとても大事な仕事です。
また、親とも協力して、その子がどういう子供なのか丁寧にヒアリングをします。「パーソナライズド・エデュケーション」とは、子供をよく知り、子供が色々な物事に対してどのように反応するかを良く観察して、その強みや弱みなどを見極めた上で、その子にあったカリキュラムを作るということです。
日本で初めてフィンランド式幼児教育を取り入れる「ムーミン幼稚園」
−−子供を画一的に扱わないことが大事なのですね。
私たちは、ただフィンランドの手法をそのまま輸入するといったことではなく、ここ日本に合わせた方法も取り入れます。日本には独自の豊かな文化がありますし、日本の子供たちが必要としているものもあります。それを教育に取り入れることもしていきたいです。
それと同時に、ここでは、最終的に子供たちをグローバルな人間に育てたいと思っています。幼児教育に関する様々な研究を取り入れますし、色々な言語を話す教師や子供たちと接することは、その子にとっていい刺激になるでしょう。早期にさまざまな文化に親しみ、幼稚園を終えた後に日本の学校に行ったとしてもここで学んだ世界は広く、世界中で友達を作ることができるという考え方は、彼らの身に付いていることでしょう。
■「ムーミン」から学ぶポジティブな精神
−−「ムーミン幼稚園」では、ムーミンのキャラクターのライセンスエージェントと契約して正式にムーミンを"大使"にしています。なぜ、ムーミンだったのでしょうか?
ムーミンが大好きだからです(笑)。それから、ここは日本で初めてのフィンランド教育を取り入れた幼稚園になります。日本人もとても教育熱心ですが、フィンランド人も同じです。ただ、方法が違っていて、フィンランドではプレッシャーを与えずに楽しみながらのびのびと学ばせます。日本人もフィンランド教育の良さをもちろんご存じだと思いますが、それをもっと伝えるために、日本人も大好きなムーミンに"大使"になってもらいたいと思いました。
それに、ムーミンの本を読むと、いつもムーミンには難しいことがあっても何でも解決できるというポジティブな精神を感じ取れます。実際、ムーミンのキャラクターがそれぞれ違っているように、全ての子供たちはそれぞれ個性的です。
−−「ムーミン幼稚園」では玩具などは北欧のものを使うと聞きました。
そうですね。玩具はスウェーデンの「ブリオ」を使ったり、子供たちの外出着や家具など多くがスカンジナビアのものです。子供とって優しい天然素材のハイクオリティな製品です。私たちは壊したりしないよう大事に使い、壊れたら直して使います。お皿もムーミンの陶器で、プラスティックは使いません。そういったところでも、子供を一人の人間、小さな大人として扱うことがとても大事なんです。
−−「ムーミン幼稚園」は、3階建ての「スカンジナビアセンター」の中にありますが、このセンターはどういう施設なのでしょうか?
スカンジナビアセンターは、子供だけではなく、親と一緒にコミュニケーションが取れるスペースであり、コワーキングスペースも備えています。ここの使い方については、たくさんのアイデアがあります。たとえば、フィンランドの小さい企業は日本でビジネスをするのがなかなか難しいので、最初はここを使ってもらうとか。それ以外にも、日本の人たちにもスカンジナビアのことを知ってもらえるイベントを行う、交流の場にもしたいと思っています。オープンキッチンもあるので、子供たちと一緒にお料理もできるんです。
−−親もスカンジナビアの文化や言語を子供たちと一緒に学べそうですね。フィンランド式の幼児教育についてお話いただき、ありがとうございました。
■ムーミン幼稚園の詳細は以下
ムーミン インターナショナル キンダーガーテン
所在地:〒107-0032 東京都港区赤坂2-18-12
Web: www.scandihub.com
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