4月1日に改正入管法が施行される。
「日本の優れた技術を学んでもらう」という技能実習制度の建前とは違い、単純労働を担う外国人、最大34万5000人に門扉を開く。政策上の転換点だ。
しかし、日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長を務める望月優大さんは「日本にはすでに多くの移民が暮らしている」と指摘する。
すでに日本に暮らしている外国人はなぜ「見えない存在」になってしまったのか。これからさらに多くの外国人を受け入れる日本人に必要な変化とはー。
著書「ふたつの日本」を刊行し、問題提起を続けている望月さんに話を聞いた。
■日本にも移民はいる
国連広報センターによると、「国際移民」に正式な定義はない。
「1年以上国内に居住している」ことや「永住資格」などの要件を満たす人を「移民」と呼ぶケースもあるが、日本では自民党の政務調査会が「入国の時点で永住権を有するもの」としている。
この定義に当てはめると、新しく入ってくる単純労働の外国人は「移民」には該当しない事になる。
望月さんは、この論理は現実に即していないと指摘する。
<<移民の定義をわざと狭くすることで、実際にそこにある問題や、この国に暮らしている外国人たちが認知されず、社会の中で見えづらい存在になっています。
100万人を超える在留外国人が永住資格を持っているという現実もあるように、かなり長期にわたって日本で暮らしている人はすでにいることを前提にして話していかないと。政策や社会を作り変える必要もあるわけです。
例えば、工場で働いている外国人労働者も仕事が終われば自分で買い物をしないといけないし、役所や病院では日本語ができないと困る。子供を学校に通わせるときの手続きもわかりません。>>
日本には2018年6月末時点で約263万7000人もの外国人が暮らしている。
望月さんは「(法改正を機に)受け入れの議論が注目されるもっと前から、色んな外国人が居たんだと伝えたい」と話す。
■「嫌なら帰れ」
日本で働く外国人の労働環境などが問題になるたび、ネットでよく見かけるのが「日本が嫌なら国へ帰れ」という投稿だ。
望月さんは、「日本で働けば稼げる」という甘い誘い文句に乗せられ、高額な借金を背負わされて来日する技能実習生たちが存在することなど、外国人労働者を取り巻く現状を、まずは知ってほしいと呼びかけている。
<<来るときに半分騙されて借金を背負ってしまい、日本で働いて返そうと思っていたが、仕事が過酷だったり、パワハラやセクハラがあったりしてもう働いていられない、という状況に陥った人もいます。
自由意志で来日したので日本で起きたことの責任もすべて自分自身で取るべきだ、とは到底言えないことがわかると思います。
その背景を理解した上で、「嫌なら帰ればいい」という人はあまりに共感ができていませんし、自分がそういう状況に陥ったときにそう言われてどう思うかに対して、想像が及んでいないと思います。
外国人が、どのような環境下で働いているかという客観的な見取り図を理解してもらって、その上で『どう思いますか』と問いかけたいです。>>
さらに望月さんは、「社会全体として外国人労働者をサポートする覚悟が持てなければ、既存の在留外国人へのサポートは責任を持って行う前提で、新規の受け入れを縮小する選択もある」と指摘する。
<<なぜ今、こんなに外国人の受け入れが進んでいるのかというと、様々な産業や企業が必要だと言っているからです。
例えば、コンビニや居酒屋で働いている留学生がいる。コンビニは日本人より留学生の方が給料が安いから雇っているわけではなくて、日本人を雇いたくても応募してこないから外国人を雇っているわけです。
『コンビニの24時間営業を続けるか』が議論になっていますが、今まで自分たちが前提にしてきた『いつ行ってもコンビニが開いている』というようなことを実現するためには、外国人労働者の存在が不可欠になっています。
介護もそうです。必ずしも高い賃金ではないなかで、先進的な福祉国家というお題目を達成するためには誰かがケアワークをする必要がありますよね。
それをどう実現するか、あるいはコンビニの24時間営業のようにそもそも維持すべきかどうかについても議論があっていい。
日本をどんな国にするかということに大きく関わるテーマばかりです。>>
■新しい法律に思うこと
4月1日から始まる新しい制度では、「特定技能」という在留資格のもと、介護や宿泊・飲食、それに建設業など、人手不足が著しいとされる14の分野で技能実習生の滞在期間を事実上延長したり、新たな人材を受け入れたりすることになる。
その数、5年間で最大34万5000人。このうち、建設・それに船舶・造船のカテゴリーでは、特定の条件を満たした場合、将来的に家族を日本に呼ぶことができるうえ、永住への道も開けている。
それ以外の特定技能の外国人は日本で働ける期間に制限があり、最長5年で帰国しなければいけない。
外国人を帰国させ、代わりに新しい人を迎え入れるため「ローテーション政策」と呼ばれる。政府が「移民政策ではない」と主張する最大の理由でもある。
しかし望月さんは、元々は母国へ帰るつもりだったのが、結婚や出産を経て日本へ根をおろすことを決めた外国人と出会ってきた。「いつかは帰らせるから移民ではない」という政府の説明は現実的ではないという。
<<移民政策ではないと言いながら、実際にこれまで永住者はどんどん増えています。人生の中で定住する決断をするというのはあり得ることです。
自民党は保守的な支持基盤を持ちますが、「移民政策じゃない」「いつか帰ります」と建前を並べるのは自らの支持基盤に嘘をついていることにもなるし、何より不誠実ではないでしょうか。>>
■「ピュアな日本であり続ける」という幻想
外国人労働者の受け皿を広げる今回の法律は、日本で暮らし、働く外国人が今後も増え続けることを意味している。
望月さんの著書「ふたつの日本」では、日本の人口のうち2%あまりの外国人が、近い将来に5%を超える可能性があることを紹介している。これはアメリカやフランスに近い水準だ。
外国人労働者の受け入れを加速度的に進めていく日本。
望月さんは、受け入れ態勢を整えるために、まず日本の「単一民族国家」というイメージを捨て、多様な人々が暮らす国だという現実を受け止めてほしいと話す。
<<ピュアで、統一的で、一体的で、みんなが血が繋がっていて、家族的な繋がりがあって、同じ言語でみたいな...こういう日本のイメージをそろそろ変えないといけない。
こうした認識があるから、263万人以上外国人がいるのに、異質な存在とか、会ったらびっくりする存在というような感覚が抜けないのではないでしょうか。
単一的で複雑性のない集合体という概念を捨てて、(日本自体を)色々な複雑性を孕んでいる流動的な存在と捉えていくべきだと思います。>>
望月さんが見据えるのは、外国人の労働環境を、日本人の非正規雇用者などと同じ問題と捉え、改善していく社会だ。
<<外国人労働者を社会的にサポートしないままに受け入れてきたということは、外国人を労働者としてのみ見て「必要がなくなったら帰ってもらいたい」と考えてきたことの現れです。
こうした「人間」や「生活者」の視点の欠落は必ずしも外国人労働者に対してだけではなく、日本人の労働者に対しても通じるところがあると思っています。
その表れとして、この30年間で外国人労働者だけでなく日本人の非正規労働者も大幅に増えてきました。
外国人の多くも非正規労働者ですし、同じ利害を持ち、連帯すべき対象と捉えて欲しいんです。
そこに楔を打ち込んで、欧米など海外では『外国人と自国民で仕事を奪い合っている』と選挙で主張する人もいます。ですが、現実的には共有している利害が多いことを理解して、手をつないでいく必要があると思っています。>>