難民キャンプでの「殴り合い」から「シェア」へ。ギタリストMIYAVIが見つけた新たな"役割"

「僕は5年後10年後、何年後になるかはわからないけれど、いつか教育をやりたいと思っています」
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「サムライ・ギタリスト」として世界から注目を集めるアーティスト、MIYAVI。彼が音楽活動と並行して取り組むのが、難民問題だ。すでにレバノンの難民キャンプを2度訪れており、8月には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とコラボレーションした動画も公開した。

MIYAVIが難民問題に目覚めた理由、そして1回目の難民キャンプ訪問について語った前編に続き、2016年8月に行われた2回目のキャンプ訪問で目にしたもの、そして過酷な現実を目にした彼がいま抱く「日本」や「教育」への思いをハフィントンポスト日本版の編集主幹・長野智子が聞いた。

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■2回目の難民キャンプ訪問で感じた変化

2015年の5月にはじめてキャンプを訪れたとき、現地のUNHCR職員に「あそこにもともと学校があったんですけど、焼けてしまい、学校がなくなったんです」って言われて。僕、てっきりシリアとの国境の麓らへんにあるビルの方を見てアレかなと思ってたら、目の前のテントで。大きさは普通の会議室ぐらいかな。先生も教えに来られなくなって、子どもたちは学ぶことができず、代わりに毎日働いていた。

それが、2016年の8月に戻ってみると、キャンプに到着したときちょうど、何人かの子どもたちが学校に出発する瞬間だったんです。数カ月前から、みんな学校に行けるようになったって。目がキラキラしているんですね。学校に行きたくて、学びたくて。もちろん、それぞれの状況もあるし学校の定員もあるから、行けるのは子ども全員ではなかったんですけど。

僕がはじめてキャンプに行ったときに、強いものを感じた男の子。ウサマは、学校に行けなかった。でも、独学で英語を学びはじめていました。はじめて行った時は全く会話できなかったんだけど、今回は少し英語を学んでいたから、片言ですけど会話をして。

—なんて話したんですか。

本当に片言で、「また会えて嬉しいです」とか。

―再び会える、というのがすごくいいですよね。

最初の訪問のときに、国の象徴でもあり、レバノンの国旗にも描いてあるアルズっていう木を現地の子供達と一緒に植えたので、今回はそれがちゃんと育っているかを見に行きました。

—育っていましたか。

育っていましたね。子どもたちと一緒に。本当に少しずつですけど、大きくなっているなって。

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©UNHCR

■教育こそが、人類最大のクリエイション

—難民キャンプに行って気付かされるのは、たとえば数字がわかればお買い物ができるとか、勉強すれば学校の先生になれるかもしれないとか、勉強がイコール夢なんですよね。夢とつながってる。

そうですね。本当に、ある意味で教育こそが、人類最大のクリエイションだと思うんですよ。映画作る、音楽作る、メディア作る、プロダクト作る、それ以上に、「人を創る」ということ。

—レバノンにはじめて行く時には「僕なんかに何かできることがあるのかな」っておっしゃったけれども、お話していると、実際に足を運んで見えてきたものがあるんですね。

はい。僕は5年後10年後、何年後になるかはわからないけれど、いつか教育をやりたいと思っています。どういう形になるかはわからないですけど、教育以外に、何もないと思います、僕は。偉そうなことは言えないですけど、僕の音楽を必要としてくれている人たちにとっては、僕の活動もある種の教育なんですよね。活動を伝えることもそうだし、自分の音に乗せて哲学やメッセージを伝えることも、一つの教育。

難民キャンプで、ギターを弾かせてあげるでしょ。みんな順番を守らない。ケンカするんです、本気で。ギターを弾きたいから。次の子がいても、自分が弾きたいから。ケンカと言っても、言い合いじゃないんです。殴り合い。

そこで、ちゃんと教えてあげること。なぜ、順序を守ることが大事なことなのか。なぜ譲り合うことが尊いことなのか。

—その場でも教えてあげたんですか。

はい。

■「僕が、このボールを、みんなとシェアする」「信じるよ。君がリーダーになってくれ」

1つ、エピソードがあるんです。

今回、楽器メーカーのテイラーからギターを、アディダスからはサッカーボールを、オーディオテクニカからは学習用にヘッドホンをと、色んな所から寄付してもらってキャンプに行って。ギターを弾き終わったところでサンタクロースのおじさん気分で「もっとあるぜ」って、サッカーボールを出したときの、子どもたちのあの反応。ギターよりも盛り上がりましたね(笑)。で、「サッカーしよう」と。

―サッカー、ずっとやっていましたからね。

そうそう。で、みんなで一緒にボールを蹴って。グラウンドみたいなものはないんです。でも、みんな「MIYAVI、こっちこっち!」って走っていくから、「いや、グラウンドないやろ」と思っていたら、無限に広がる畑があった。インスタグラムに上げていますが、畑でサッカーをして。

で、終わって、ボールにサインをして置いていくんですが、スタッフには「大人にそれを預けてください」と言われていたんです。ケンカになるから。でも、ボールを渡そうとしたときに、片言の英語でずっと会話をしてきたウサマが、僕のところに来て、片言で。

「僕が、このボールを、みんなと、シェアする」。「僕が、それをやる」。

デカかったですね。すげーデカかった。

"I trust you. You'll be a leader"(君を信じるよ。君がリーダーになってくれ)

"You'll share this ball with your friends"(君がこのボールを友達とシェアするんだ)

"I believe you can do this"(君ならできるって信じてる)

と伝えて、ボールを彼に渡しました。

―彼の人生にとっても、すごく大きな影響ですね。

そうですね。

■何もしなくてもいい。ただ...

—MIYAVIくんのように現地に足を運べない人が、何かできることがあるか、と考える人たちに、アドバイスはありますか?

何もないと思います。何もできないのであれば、何もしなくていい。役割分担だと思うんです。

たとえば僕が、10年前に同じことをやれって言われてできたかっていうと、僕はできていないと思う。

学生に「いまから難民キャンプ行って来い」って言っても行けるわけないじゃないですか。「寄付でもしろ」って言ってもお金もなかったりする。それは、やるべき人がやればいい。できるタイミングに来た人がやればいいし、会社で頑張って働いて儲けました、1万円寄付します。それでいいと思うんです。1000円でもいいし100円でもいい。

ただ、知ること。この国に限らないことですけど、特にこの国に言えることは、世界がどうなっているのかを知らなすぎる節がある。まず世界を見る、そして知る。その上で自分たちを肯定する、ないし再定義することが、絶対に必要だと思います。

―いままで知らなかったことを知って夢を持ったレバノンの子どもみたいに、日本人も、知ることによってはじめて考えるってことなのかな。たとえばこの記事を読んで、そうなんだって知る人がいる。でもそうすると、「どうしたらいいんだ私は」って思うと思うんだけれども。

どうもしなくていいと思います。

—どうもしなくていいんだ。

どうもしなくていい。まず知って、そのあとにすることがあるとすれば、何を思うか。どう感じるか。具体的なことは、その思いのあとでいい。そう思います。

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■日本の難民受け入れには時間がかかる

—日本が難民を受け入れることに関しては、抵抗を持っている人もいると思うんですが、その人達に何か伝えたいメッセージはありますか。

ある意味で僕はしょうがないと思うんですよ、ぶっちゃけ。英語を話せなかったら、外国人に話しかけられたら怖いでしょう?ビビるっしょ?無理っすよ。

それはこの国が対話力、世界にコミットする能力を国民に対して教育できてこなかった、国単位の責任なんですよ。だから、受け入れたくないという声が多いのは当たり前だと思います。

誰だって職を奪われたくないでしょう。

日本における難民の受け入れに関しては、時間がかかると思います。いま無理やりやってもうまくいかないと思う。なぜならば、日本という国自体が、それを受け入れる器がないので。寛容ではあると思うんですが、言語含め、コミュニケーション能力が低い。それに尽きます。

でも、じゃあそれが正解かというと、僕は正解だと思わない。本当に時間はかかりますけど、根本的な対話力をつける教育や、世界の中でどういう位置に自分たち=日本がいるのかをきちんと知り、その上で日本人として誇りを持てる環境をつくることが必要だと思います。

■僕がオリコン1位を取らなければならない理由

—今回の活動には、アンジェリーナ・ジョリーさんとの出会いってすごく大きかったと思うんです。出会わなかったら、そのまま何もしなかったと思います?

はい。

—そうすると、MIYAVIくんみたいに、出会って、知って、それを持ち帰って広める、というインフルエンサーのような人を増やしていくしかないのかもしれませんね。

そうですね。だから僕が、オリコン1位を取らなきゃいけない理由はそこにあるんですよ。僕が1位を取ったら、変えますよ。

—取れそうな感じするけどな。

はい。だから、僕はいい作品を作り続ける。そしてそのメッセージを届ける。

昭和の時代はよかったんです。「僕は政治のことは歌わないよ」、それでよかったんですから。でも、いまは違うと思う。いまは、政治だろうが難民問題だろうが、自分の暮らしに直結している。

ブルースだったりヒップホップだったり、ジャズでも、何を歌ってきたのか。「楽しいね、イェーイ」だけじゃない。日々の暮らし、痛み、叫び。それを音に乗せてきた。

―音楽はそういうものですよね。

そうなんですよ。痛みだったり、喜びだったりを分かち合うためのツールだから。一歩ずつですが、僕はいま、それをやろうとしています。

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Fire Bird

MIYAVI

初回盤、通常盤共通 全10曲