文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」が、本年度の助成金支援を決めていた映画『宮本から君へ』について、7月に交付内定を取り消していたことがわかった。出演者のピエール瀧さんが麻薬取締法違反で有罪判決を受けたことで、「国が薬物使用を容認するようなメッセージを発信することになりかねない」と判断したという。
また、この決定からおよそ3カ月後の9月27日に、助成金の交付要綱を改正。「公益性の観点」から助成金の交付が「不適当と認められる」場合に、交付内定を取り消すことができるようにした。
何が起きたのか?
日本芸術文化振興会(以下、芸文振)は、政府からの出資(541億円)と民間からの寄付金(146億円)を原資とした運用益を使い、舞台や美術、音楽、映画などの文化芸術活動に助成金を充てている。
芸文振は3月、本年度の助成対象を決定。その中には映画『宮本から君へ』が含まれており、助成金1000万円の支援が決まっていた。しかし、同作に出演しているピエール瀧さんが麻薬取締法違反で執行猶予付きの有罪判決を受けたことで、7月に交付内定を取り消したという。
取り消しの理由は何なのか。芸文振の担当者によると、麻薬取締法違反で有罪判決を受けたピエール瀧さんが出演していることで、「国が薬物使用を容認するようなメッセージを発信することになりかねず、公益性の観点から交付内定を不適当と判断した」という。
助成金の交付要綱や募集案内を改正
また、この決定に伴い、芸文振は9月27日付けで助成金の「交付要綱」を改正。
第8条の「交付の決定及び通知並びに不正等による交付内定の取消し」の項目に、「公益性の観点から助成金の交付内定が不適当と認められる場合」という条件が追加された。
また、助成を受けたい人に向けた「募集案内」の内容も変更された。「不正行為等に係る処分」という項目に、以下の説明書きが加えられている。
また、助成対象団体が団体として重大な違法行為を行った場合や、助成対象活動に出演するキャスト又は制作に関わるスタッフ等が犯罪などの重大な違法行為を行った場合には、「公益性の観点」から 助成金の交付内定や交付決定の取消しを行うことがあります。
文化芸術への公的支援をめぐっては、文化庁が国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」への補助金を全額不交付と決めたことで、関係者や有識者から強い抗議の声が上がっている。文化庁が全額不交付を発表したのは、9月26日。芸文振が交付要綱を改正する1日前だ。
芸文振の担当者は、要綱改正は「あいちトリエンナーレとはまったく関係がない」と否定した。
『宮本から君へ』のプロデューサー、「文化芸術にとって由々しき事態」
芸文振の判断に対して、『宮本から君への』のプロデューサー・河村光庸氏は定義が明らかではない「公益性」という基準を元に取り消せるようになると、恣意的な運用が可能になる恐れがあると指摘。「とんでもないことだと考えている」と怒りをあらわにした。
「改正された交付要綱の内容は、映画以外の領域にも影響し、日本の文化芸術にとって由々しき事態だと思います。『公益性』とは何なのか、定義が明記されていない。恣意的で一方的な判断をできるようにもなり、拡大されると検閲になる恐れがあります」
河村氏によると、芸文振側からは、4月に「(ピエール瀧さんの)出演シーンをカットするなど編集できないか」などと打診されたという。
「完成した作品の内容は改変できない」との理由で申し出を拒否したところ、7月10日に口頭で内定取り消しを伝えられ、その後正式な内定取り消しの通知を書面で受け取ったという。
河村氏は、通知書に記載された内定取り消し理由の妥当性を早急に検討し、芸文振に抗議する方針としている。