2020年、初めての緊急事態宣言下でテレワークの導入率が大きく増えた*が、「あれはテレワークというより強制在宅勤務です」と常見陽平さんは語る。テレワークとは本来、在宅勤務だけでなく、直行直帰型など外で働くモバイルワーク、外部の拠点で働くサテライトオフィスワークなど多様である。
三井不動産では「COLORFUL WORK PROJECT」をスローガンに、十人十色、自分のライフスタイルに合わせて自由に柔軟に働き方を選択できるオフィスを目指し、健康管理サービスやサテライトオフィスの提供などさまざまなサービスを展開している。
仕事の目的や、ライフステージに合わせて柔軟に働くためにはどうしたらいいのか? そのために、オフィスが果たす役割とは? 常に新しい時代のオフィスにチャレンジしてきた三井不動産による連載の第2回。
テレワークが家だけではダメな理由
──常見さんは大学に勤めていらっしゃいますが、現在、出勤と在宅のバランスはどんな感じなのでしょうか。
常見:基本的には家と大学、およびその間のどこかで仕事をしています。講義や会議はしっかり枠が決まっていますが、その準備や、レポートの採点、研究や、執筆のためのまとまった時間は自分で捻出しないといけません。
加えて僕は今、主夫として子育てと家事を主に担っています。今日も家族の朝ごはんと妻のお昼ご飯をつくってからここに来ました。終わったら買い出しをして帰ります(笑)。
比較的自由ではあるものの、家族のための時間と、自分のための時間を調整しなければならないのはかなり大変ですね。
──作業に集中するためには、どこで働くのかも大切になってきそうです。
常見:そう、たまに「執筆合宿」「戦略的家出」と称して都内のホテルに泊まったりしています。コロナ禍でテレワークが普及したものの、家に密着しすぎると不調をきたします。東京の住宅事情は必ずしも良くないですから、ウォークインクローゼットを改築して仕事場に、とか、押し入れの部分を机にして、とか、一時期SNSで見かけましたけど……やっぱり体に悪いです。
会社員である僕の妻は、コロナ禍で体調を崩してしまって。メリハリをつけられず働きすぎてしまったという理由もあるけど、何よりも運動不足。これまで通勤は面倒だと言われていましたが、移動は運動や気分転換になっていた側面もあった。外出しないので、日光を浴びる機会も少なく、鬱っぽくなりました。
だから、テレワーク普及のためには、本当は、家だけではない最適な第三の場所を提示する必要があるんです。
今、改めて見直されているオフィスの価値
──今回は三井不動産で「COLORFUL WORK PROJECT」を推進されている木村庄佐さんにお越しいただいています。木村さんは日本橋室町三井タワーの11階のオフィスで働いていらっしゃるそうですね。
木村:はい、実際に「COLORFUL WORK PROJECT」のサービスを使いながら、多様な働き方を実践するオフィスになっています。
「情報収集」や「雑談」、「リフレッシュ」など10の目的に特化した席(*1)があり、その日の業務内容に応じて働く場所を選べます。心理的に安らぎを得られるよう緑視率を計算してグリーンを配置しているのもポイントです。
また、コミュニケーション構築のためのコミュニティビルダーさんが専門で入っていて、仕事に役立つセミナーから、異なる部署の社員が繋がれる多彩なイベントを企画をしていただいています。
「&well」(*2) のコーナーでは運動ができるので、たまにそこで懸垂をしたりします。
*2 &well:三井不動産が提供する健康経営支援サービス。健康に関する様々な情報の提供、イベント・各種プログラムを案内をするアプリの提供などをおこなう。
木村:今、僕の働き方は、感染状況に応じた会社の出社率を守りつつ、在宅勤務とワークスタイリング(COLORFUL WORK PROJECTのサテライトオフィス提供サービス)での勤務、出社の3つを使い分けています。
木村:クライアントさんとお話すると、対面での偶発的な出会いからイノベーションが生まれることや心の健康を保てる等、オフィスの価値が見直されているのを感じます。有事・平時に関わらず、業種や職種、ライフステージ等によって、各々が最適な働く場所の組み合わせとなる「ベストミックス」を見つけていくことが大事だと思っています。
内定辞退が減る?オフィスがもつ意外な効果
常見:まさに今、木村さんのお話を聞いていて改めて思ったのが、「オフィスオワコン論」や「テレワーク万能論」は、雑だからやめたほうがいいということです。
常見:例えば、どこかの会社が出社を再開した、というニュースが流れたら、「やっぱり古い体質だね」みたいな話になってしまいがち。もちろん、上司の顔色を窺うために感染のリスクを冒してまで出社するのは変な話ですが、極端な答えに凝り固まってしまうと議論が進まない。
──確かに、「古い体質の会社でもやってみたらテレワークができた」という文脈は大事でしたが、重要なのはベストミックスということですね。
常見:その通りです。例えばロックミュージシャンがどこでレコーディングするかにこだわるのは、その場でしか録れない音があるから。ビジネスパーソンも「この企画書は奄美大島で書きたいな」という発想があっても良いはず(笑)。
木村:自分にとって最適な場所で働くっていうのはすごく大事なことだなと思います。
我々はアンケート調査も行なって、働く場所の価値についてとことん見つめ直しました。オフィスの持つ価値は、経営のビジョンの共有や社員のエンゲージメント、偶発的な出会いでイノベーションを起こす、コミュニケーション、企業ブランディング、優秀な人材の確保、BCP(事業継続計画)……などさまざまです。
新入社員や中途社員はやはり聞きたいことも多いですし、出社を希望したいという声がアンケート結果も出ています。
常見:いわゆる帰属意識ですよね。実は、新型コロナウイルスショック以降、内定辞退が問題となっています。これはオンライン選考も一因だと言われています。従来だと、選考のために何度もオフィスに行くので「自分はここで働くんだ」という期待感、高揚感が醸成される。オシャレなビルに憧れるってミーハーかもしれないけど、意外と大事だったということです。すれ違う社員からも組織風土が伝わってきます。
営業力強化も、離職率低下も、オフィスが解決
──働く場所についての議論がもっと必要ということがわかりました。今後の「COLORFUL WORK PROJECT」の目標は?
木村:今後もトライアルを重ねて、サービスを改善させ、いろんな企業さんの社員が働きやすい環境を提案していきます。僕自身も提案のために多様な働き方を実践し続けます。
常見:試行錯誤の積み重ねですよね。
以前、ある外資系企業の働き方改革の責任者と対談した時、「社員の幸福を最大化すれば、会社のあらゆるバリューが最大化する」と言っていました。
だから、会社はもっと社員の声を拾って生かさないといけないし、社員は「こんなことができないか」と提起して、議論を重ねていくべきだと思います。
常見:働くということは個人的な行為であり、組織的な行為であり、社会的な行為です。働き方改革は「働かせ方改革」じゃなくて、ボトムから湧き上がるものであってほしい。
オフィスは「働く場所」であるだけでなく、いろんな課題を解決してくれる可能性を秘めています。営業力が弱い、離職率が高い、新卒採用が集まらない、といった問題もオフィスが解決するかもしれないということに気づいてほしい。
これからも三井不動産さんがリードして、ソリューションを見つけるために成功も失敗も積み重ねてほしいなと多います。
◇◇◇
二人の対談から、2022年の働き方の現在地、そして私たちのこれからの働き方のヒントを知ることができた。
家やオフィスという選択肢だけなく、これからは一人一人が働く場所のベストミックスを試行錯誤して探していく。そんな時、新しい時代の働き方に寄り添う「COLORFUL WORK PROJECT」が力になるかもしれない。
次回は、「新しい時代のイノベーション」について、日本橋を中心に展開するライフサイエンス事業「LINK-J」から考える。
(文:清藤千秋 写真:野村雄冶)