サイボウズ式:やりたいことを諦めかけているあなたに伝えたい──自分の中に眠るミッションの掘り起こし方

念願の会社に入った。でも、「あれ?こんなはずじゃ、なかった」「何か違う......」と戸惑いを感じている方もいるのでは。そこには理想と現実の乖離があります。
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念願の会社に入った。希望していたプロジェクトに参加できた。でも、「あれ? こんなはずじゃ、なかった」「何か違う......」と戸惑いを感じている方もいるのでは。そこには理想と現実の乖離があります。でも、大きな組織の中で、自分が本当にやりたいことを実現するなんて無理!?

そんなことはありません。「やりたいこと、自分が大切にしていることを仕事にして生きている」。こう話すのは『一生を賭ける仕事の見つけ方』著者で、トーマツベンチャーサポート株式会社 事業統括本部長/公認会計士の斎藤祐馬さん。サイボウズ式インターン生の中川が聞きました。

人生における山と谷に「やりたいこと」のヒントが隠されている

先日まで就活をしていて、ずっと同じ会社に勤め続けるって、どうなんだろう......と考えて、モヤモヤした時期があったんです。

中川:そんなときに偶然、斎藤さんの『一生を賭ける仕事の見つけ方』を読んで、キャリア志向からミッション志向へというメッセージが、すごく響きました。

斎藤:ありがとうございます。そもそも幸せの定義って人それぞれじゃないですか。大変なことをなるべくやらないで生きるのが幸せだという人もいれば、大変なことに挑戦してやりがいを感じて幸せだという人もいる。

ぼくが提唱するのは、たとえ大変でも、生きている実感や手応えを得られる生き方です。そのためには自分のミッションを大事にして、人生のビフォーアフターで自分にしか成し得ないものを残すことが重要になります。

中川:ミッション志向とキャリア志向には大きな違いがありますよね。

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斎藤祐馬さん。1983年、埼玉県出身。慶應義塾大学経済学部を卒業後、2006年に監査法人「トーマツ」(現・有限責任監査法人トーマツ)に入社。公認会計士としての業務の傍らでベンチャー支援に注力し、2010年にベンチャー支援を行う「トーマツベンチャーサポート」の再立ち上げを主導した。「日経ビジネスオンライン」において「ローカルベンチャーの旗手たち」を連載中。「週刊ニュース深読み」(NHK)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。

斎藤:Will(自分がやりたいこと)とCan(自分ができること、スキル)で生きていくのがミッション志向、Must(自分が会社でやらなければならないこと)とCanで生きていくのがキャリア志向です。

おそらく就活中はWillの割合が大きいのですが、働き始めて現実を知るうちにMustの割合が大きくなり、キャリア志向になっていく人が増えるのは問題だと思います。

今でも十分すごいのに、個人のスキルやキャリアを上げ続けて、あなたは一体どこへ向かうつもりなの? と聞きたくなる人もいます(笑)。

むしろ自分のCanを使って、何を変えていくのか、何を成し遂げるかが大事なのに。ぼくは自分のCanを生かしつつ、周りを巻き込みながら、ミッションベースで生きていく人生を提案したいんです。

中川:私個人もミッション志向の人生を歩みたいと思っています。ただ、自分が人生を賭けるべきものが何かを見いだすのは、そう簡単なことではないような気も。どうすればミッションが見つかるのでしょうか。

斎藤:そんな方には感情曲線を描こう、と勧めています。横軸に年齢、縦軸に感情のアップダウン(楽しい・悲しい)を設定し、これまでの人生を棚卸ししながら、線でつないでいくんです。そうすれば必ず、よいときと悪い(つらい)とき、つまり人生の「山」と「谷」がひと目でわかります。

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「感情曲線」は、横軸に年齢、縦軸に嬉しい・悲しいを書き、曲線が上がったり下がったりした理由を洗い出していく

中川:人生、山あり谷ありと聞くと、普通の人が遭遇しないような壮絶な経験をしている印象ですが、どんな人にも山と谷があるんですね。

斎藤:ありますよ。すべての人はストーリーを持っていて、その主役でもありますから。ストーリーを振り返ると、山と谷があって、それがその人の個性です。感情曲線の上下を見ながら考えると、2つくらいのキーワードが出てきますから、自分が何をやっていくべきか見えてきます。

中川:感情曲線を描くワークショップもやっているそうですね。

斎藤:はい。自分の感情曲線を描いた後、周囲の人と共有し合うんです。持ち時間は1人5分ほど。数人に話すうちに自分はこれが好きだ、何をやりたいのかなど、見えてきます。

ベンチャー起業家の間では、100人くらいに事業案を話すとブラッシュアップされ、事業化すると言われますが、それと同様で100人くらいに話してみると、自分自身をとらえ直すことができ、未来を語れるようになると思いますよ。

谷の乗り越え方がわかった人は強い

中川:谷の時期は基本的につらく、苦しいものだと思いますが、ミッション志向の人は谷をどうとらえているのでしょうか。

斎藤:ぼくが支援しているベンチャー起業家で、挑戦し続ける方の多くは「谷こそエネルギーの充電期間」と考えているようです。つらい状況のなかで、跳ね上がるための材料を見つけようとする。

以前、田原総一朗さんと対談させていただいたとき、松下幸之助さんから聞いた「成功する人としない人との違い」を話してくださったんです。それはシンプルで「すごくつらいときに明るくいられるかどうか」だそうです。

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中川:成功する人は谷をエネルギーに変えて飛躍して、成功しない人は谷からさらに落ちていってしまうのかな、と思いました。

斎藤:「あのときよりつらいことはないはずだ!」と信じられる人は、谷からはい上がれますよね。「早いうちに苦労しておこう」とはよく言ったものです。大器晩成の人がわかりやすい例じゃないですか。

中川:若いときに苦労している間に、充電されるんでしょうね。

斎藤:いい意味で、尋常じゃなくがんばれる人ってみんな、過去に普通じゃない経験をしているんですよ(笑)。熱量の高い人に話を聞くと、必ず大きな山と谷があります。

中川:感情曲線を描いてみて、山と谷はなくてけっこう平坦な人生を送ってきたかも......と気づく方もいるかもしれません。そんなときはどうすれば。

斎藤:好きなこと、興味のあることでいいので、何かチャレンジしてみてください。挑戦すると、必ず山と谷が生まれますから。そのうち谷の乗り越え方がわかってきて、どんな谷でも越えていける自信がつき、未知のことにも挑戦できるようになります。

「自分が〜したいから」では人を動かせない

中川:Will・Can・Mustの話で、Willで生きていくのはときに苦しく、Mustで生きるほうが楽だと思います。どうすればWillを掲げて前進し続けられるのでしょうか。

斎藤:誰の笑顔が見たくて、自分のWillを実現しようとしているのか、きちんとイメージできれば続けられると思いますよ。「◯◯で困っている人を助けたい」といった明確なモチベーションがあれば、「つら楽しい(つらいけれど楽しい)」のような感覚になるんです

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中川:Willを「自分が〜したいから」ではなく「誰かに〜になってほしいから」みたいに、自分以外の他者に向けたほうが、成功しやすいのかもしれませんね。

斎藤:ええ。Willを実行しようとするなら、周りを巻き込んでいくのが必須です。

1人でできることには限界があります。自分1人だけでスキルを高めようとするのではなく、多くの「Can(スキル、できること)」が集まれば、多様性が生まれてチームも強くなります。人を集めてたくさんのCanを借りる、と考えればいいと思うんです。

中川:なるほど。

斎藤:そのためにはMy・Our・Nowの3つの要素にもとづき、周囲にミッションを伝えていく必要があります

まず、なぜそれをやりたいと思っているのか、自分の人生にひもづいた「My Story」を話すことで、単なる思いつきで動いているのではなく、必然性を持って本気でやっているのだな、と聞き手から信頼されますよね。

次に、聞き手が自分ごとだと思えるような形で「Our Story」を話すこと。目線を個人、会社、業界、社会......と上げて話すんです。できるだけ高い目線を持っておいたほうが、共感する人、巻き込める人は増えていきますから。

「自分が〜になりたい」というレイヤーから「人のため」「世のため」へと昇華させていくのが重要です。最後にNow、なぜ今取り組まなければならないのかを話すこと。今じゃなくていいことに、人はなかなか動いてくれません。

中川:目線を上げていかないと、独りよがりになってしまいそうですよね。誰かのために、がキモになるのだと改めてわかりました。

ビジョンに共感し、最初の仲間になりやすいのは、会社を辞めそうな人と出世欲のない人

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中川:人を巻き込むためには、どうアプローチするとよいのでしょうか。最初の1〜2人にジョインしてもらうのが、一番大変そうな気がします。

斎藤:ぼくも最初はトーマツという大手監査法人で本業の監査業務をやりながら、空き時間で1人でベンチャー支援の業務をすることからスタートしました。現在はトーマツベンチャーサポートで150人のメンバーと働いています。

中川:本業と離れた、はっきりいってみんなにとってなじみのない新規事業に、どうやって人を引っ張ってきたのでしょうか。

斎藤:最初はビジョン、熱い思いを伝えて、仲間になってもらうしかありませんでした。先のわからない真新しい新規事業に、相手を惹きつけられるメリットはありませんから。ビジョンフィットしている、かついっしょに走っていける人を見つけることです。

出世を一番に考えているタイプの人だと、よくわからない事業に加わってもらうメリットを提供できないですから、ぼくは転職や独立を検討している人に声をかけていました。最初に口説いた人には「1年ここで修業して、ダメならやめれば?」と提案しましたね

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中川:ターゲットは会社を辞めそうな人と出世欲のなくなった人、と(笑)。

斎藤:大事ですよ(笑)。ビジョン、スキル両方を満たす人をとりたい、なんて言っても無理ですから。

中川:初期の仲間を得てからは、どんな観点を重要視して採用していますか。

斎藤:ビジョン、カルチャー、スキルの3点がフィットする人か見るようにしています。ビジョンに関しては、その人の原体験や方向性を深掘りし、自分の人生で何を成し遂げたいのか、突き詰めてみるんです。それから登るべき山を探り、その人個人のベクトル、会社の目指す方向性を照らし合わせて考えます。

「自分=起業家、上司=投資家」と考えて動く人は成長していける

中川:1人ひとり全然違うストーリーやエネルギーをもつ方々と、ひとつのミッションを目指していくなかで、どうすり合わせていくのか知りたいです。

斎藤:まずは、自分が引っ張ってきた人がやりたいこと、なぜ入社したのかを深掘りし、本音で話してもらいます。そうすると、その人のストーリーの軸を確認できるんです。

同時に会社の軸と照らし合わせて、その人が個人としてやりたいこともできて、かつ(会社に対しても)成果を出せるのはどこかが正確に見えてくるようになります。その人個人と会社、お互いに守るべきポイントを1〜2個見つけると、すり合わせられると思います。

中川:必ずしも、最初から会社と個人の軸が完全にマッチングしていなくても問題ないと考えてよいでしょうか。

斎藤:同じミッションに向けて走っていけるのであれば構いません。すぐにパフォーマンスを発揮するのは難しいでしょうから、将来のイメージを共有できていればいいと思います。理想は、その人個人もやりたいことができてモチベートでき、会社にも貢献できる、いわゆる「タレント」的なメンバーになってもらうことでしょうか。

中川:会社のビジョンと個人のWillが高い次元ですり合っているパターンですね。

斎藤:はい。そんな「挑戦する人」を社内で増やしていくのが、これからのマネジメントだと思います。

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中川:ちなみに、ミッション志向におけるマネジメントと、従来型のマネジメントにはどんな違いがあるのでしょうか。

斎藤:タレントが最高に輝けるステージを作る前者に対し、圧倒的なリーダーがメンバーにいろいろと指示を出すのが後者です

ぼくはメンバーに指示を出すよりは、気づきを与えたり、方向性を握ってサポートしたり、自発的に動いてもらうような環境を整えています。それがある意味で、社内のインキュベーションといえるのかもしれません。

中川:自分で考え、決めると、責任も持とうとしますよね。

斎藤:会社員であろうと起業家であろうと、自分=起業家、上司=投資家だと思えるかが大事だと思っています。上の人が◯◯と言うからそれを聞く、となると主体性が失われ、うまくいかないときに人のせいにしてしまいますよね。

でも、自分が起業家だとすると、最適な投資家がすぐそばにいるわけで、個人としては自発的にどんどん動いて成長するはずです。そんなふうにビジョンとパッションを持った人をぼくは応援したいし、自分自身もそれらを持って生きていきたいと思っています。

これからは、個人のスキルアップ、キャリアアップに血眼になるのではなく、自分が徹底的にやり抜いてきたことを生かして、ミッションを大事にしながら周りを巻き込み、いろいろな力を結集してやりたいことに取り組んでいく。そうやって優秀な人たちが挑戦できる環境を作っていきたいと願っています。

文:池田 園子/写真:尾木 司