日本の企業の皆さまにも注目されはじめたマインドフルネス。
そのいわば発信源ともなっているカリフォルニア・シリコンバレー近くに住む私は、禅僧の藤田一照氏や、禅僧でかつ仏教学博士である松原正樹氏らとともに、瞑想のトレーニングや日本的な茶道をシリコンバレーにお届けする機会も増えてきた。
「シリコンバレーだからでしょ?」
「ざくざく利益が上がってるからでしょ?」
という浅い解釈を超えて、実際にマインドフルネスがなぜ、どのように発展しているか現場の目線で以下ご紹介する。
自分の成長のための仕事であり、仕事のために自分をささげるのではない
毎回予想を超える参加者の数が、関心の高さを物語るが、参加者の意欲には驚かされる。
その根底には、自分の成長のために仕事に取り組むという根本的な姿勢がはっきりと見える。
だからこそ、自分の成長につながるチャンスは優先順が高く、忙しい仕事をやり繰りして多くの参加者が集うことになる。
Google本社では「マインドフルネスと思いやりの実践としての茶道体験」ということで昨年から松原氏と実施している。今年訪問したところ、参加者の一人が自分一人で抹茶を点てて楽しんでいるという。
「道具はどこで手に入れたの?」と聞くと、「アマゾンやネットで全部見つかったよ」とのこと!
Facebook本社で藤田氏とWSを行った後は、「どこでどうやって実践を続ければよいか」、「ストレスフルな職場でゆとりのない時こそマインドフルになりたい。どのような方法があるか?」など質問攻めだ。社内でのメディテーショングループという受け皿もあり、ただ研修に参加して終わりではなく、これをきっかけに自分のためのよりよい習慣を創ろうという自主性が、どこかしこで伺われる。
自分の成長に対し責任を持ち、自主性を養う風土こそ、優秀な社員を惹きつけ、切磋琢磨をうながし、業績に繋がっているのではないか。
「トップの意向」vs. 「草の根で社員が主催」――どちらもOK
Salesforce本社では、CEOのマーク・ベニオフ氏がウェルネス&マインドフルネスを、世界2万人の従業員に対して提唱している。サンフランシスコに建設中の本社タワーでも各界に瞑想ルームが設けられる予定で、トップがけん引している例だ。
私たちが行った1時間の研修も、Employee Engagement Programs(従業員やる気プログラム)という社内組織が主催で、150名の座席も満席。プロのビデオ撮影チームが撮影し、後で世界中の従業員が見られるシステムが整っている。
それに対してFacebook本社では、誰でもいつでも、自由にイベントや研修を主催してよいことになっていて、まったくの草の根活動だ。今回主催してくれたのは、社内メディテーショングループ800人のメンバーの一人、入社6か月目のジェシカさん。
社員だけが見られるFacebookページ(もちろん!)で告知をし、ランチタイムに自由参加。60席ならべた椅子では足りず、約100名が来てくれた。
Salesforce社の場合は、CEO自らメディテーションとマインドフルネスへのサポートがあり、Facebookでは、更にオープンに自由に社員が自己啓発やトレーニングを選択し、自分たちでプロデュースできる仕組みがある。対照的ではあるが、参加者の熱意は同様の高いものだった。
「手挙げ式」参加したい人だけが参加――「やらされ感」のない学びの場に
社内研修といえば、忙しい仕事も山積みのままなのに時間を取られて、やらされ感満載な場合が多いだろう。しかし、Google、Facebook、Salesforce、Starbucks全て行きたい人だけが申込みをする「手挙げ式」だ。そうすることによって、場の雰囲気はまったく異なってくる。
そのおかげで、どの会社でも短時間で濃い集中の場が創られ、また質疑応答も活発だ。
余裕があるからマインドフルネスをやっているのではなく、必要にかられているから
「Googleやフェイスブックがやっているといっても、利益が上がって余裕があるからでしょ。うちはそんなソフトスキルに投資する余裕はない」と思われる方がまだたくさんおられる。しかし、草の根で社員が自主的に運営しているグループが多く、この場合予算はほとんどかかっていないし、特別な場所がなくとも、普通の会議室をランチタイムなどに使って集っている。
もちろん、個人的に家で瞑想したり、瞑想リトリート(宿泊式の瞑想三昧ワークショップ)に参加するという人もとても多い。
それはなぜか?
アウトプットで査定されるアメリカでは、優秀な人材が集まると、皆がしのぎを削って高い結果を目指す。それに加えて、ネットやSNSで世の中とつながる時間も必要、、、そんな中で、頭は1日24時間高速回転を続けるくせがついてしまって、自分では止められなくなっている人が増えているのだ。
こうなると、効率もアウトプットの質も下がっていく。それどころか心身の健康を損なう。つまりウェルビーング(心身の健康)・クオリティオブライフとビジネスの成果が二律背反となっていることに、風穴を開ける必要があるのだ。
そこで、マインドフルネスの効果に、多くの人が希望と見出し、近年の学術的調査や脳科学でも明らかにされつつある。
タイム誌が「マインドフル革命」(2014年2月4日号)と呼んだ流れが高まり、その取り組みはどんどん深まっているといえる。多くの参加者が、「行(ぎょう)」「三昧(ざんまい)」といった深いコンセプトを、日本で見られる以上のものすごい真剣さで学んでいるのを目の当たりにすると、日本人として大変謙虚な気持ちになる。
以上、日本の皆様にもご自分なりのウェルビーングや成長の方策を自主的に実践していただけるよう、参考にしていただけば、と願ってやまない。
(一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート 木蔵シャフェ君子)