娯楽とリゾートの街、マカオ。この地に、故ザハ・ハディド氏の設計による巨大リゾートホテル「モーフィアス」が存在する。
このモーフィアスを含むリゾート施設、「シティ・オブ・ドリームス」はIR(Integrated Resort)とよばれるもので、カジノ面積は全体の5%(日本のIR実施法案では3%以下)にとどまる。では残りの95%になにがあるのかといえば、すべてテクノロジーとエンターテイメントが詰まった“統合型リゾート”なのだそう。マカオといえばカジノというイメージが、徐々にうつり変わってきている。
そこには、どんな世界が広がっているのか? 実際にマカオに足をはこび、IRの「いま」をこの目で確かめた。
「未来」に泊まる、という感覚
まず驚いたのが、吹きぬけのエントランス。35mの高さを誇るフロントロビーは、岩石をモチーフにしたデザインが施されており、そこからやわらかな光がもれている。ひんやりとした空気感や、フロアを満たす柑橘系のフレッシュな香りもあいまって、 “南国リゾート”の気分を味わえる。
このホテルの斬新さは外観だけにとどまらない。ゲストルームでは、テーブルにタッチパネルが置かれており、カーテン・空調・照明・テレビ・ルームサービスにいたるまで、すべてワンタッチで操作できる。テクノロジーでくつろぎをコントロールできる感覚は、まさに「未来」のホテルという印象だ。
これだけのクオリティを誇るホテルであれば、入っているレストランももちろん一流だ。モーフィアス内のレストランのひとつ「アラン・デュカス アット モーフィアス」は2018年12月、マカオで開催された「ミシュランガイド香港マカオ2019」の表彰式で、開業から6カ月未満ながらも二つ星を獲得した。同じフロアにある「ボヤージュ・バイ・アランデュカス」とあわせ、昼夜とわずラグジュアリーな時間をすごすことができる。
レストランだけでなく、建物の中間層にあるラウンジでも食事をとることができる。このラウンジは会議スペースもそなえており、ミーティングもできる。それだけでなく、マッサージを頼んだりスパを予約したりなど、すべてワンストップの手配が可能だ。
客の多くは、ファミリー層。忙しいビジネスパーソンにとって、家族との時間を全力で楽しみながらもその合間にサクッと仕事ができるスペースも備わっているのは心強い。
また、通りかかるホテルスタッフに何をたずねても、みな自分の仕事の手をとめて親身になって答えてくれる。ホコリひとつおちていない室内。なぜ全ての従業員が、ここまで手のゆきとどいたサービスを提供できるのか? その答えは、巨大IRを支える「スタッフへの愛」にあった。
「お客様は神様」だからこそ、「社員は神様」という精神
モーフィアスの隣の建物、エンターテイメントに注力したもうひとつのIR「スタジオ・シティ」を訪れ、メルコリゾーツ従業員のバックヤードも見せてもらった。
スタジオ・シティ従業員のバックヤードは、「バックヤード」ではなく、通称「ハートオブハウス」とよばれる。企業はスタッフありきでまわっている、なにより大切なのは従業員だ、という考え方から付けられた呼び名だ。
「ハートオブハウス」は非常に広い。通路だけでなく、食堂からフリースペースにいたるまで、5000人弱の従業員を収容してあまりある空間が確保されている。
他にも、シフトのあいだに音楽をききながらくつろげる「EPIC JUKE BOX」という部屋やシアタールームなど、あらゆるところに従業員の労働環境への配慮がみられる。
それだけでなくメルコリゾーツは、従業員こそが「将来の成功を決定する最も重要な要素」であると考えており、多くの人材育成の取組みを実施している。
その背景には、創業者・ローレンス・ホーをはじめとする経営陣の、「スタッフの労働環境を整えることが、よりよい仕事につながる」という深い信念があるのだ、とスタッフたちは語る。
日本の社会では、とかく「お客様は神様」と語られることが多い。しかし、メルコリゾーツのように、従業員のワークライフバランスを充実させることこそが最高のホスピタリティを産むという考えは、サステナブルなビジネススキームにつながって行くに違いない。
日本でも、政府がIR法の施行令を決定したというニュースが報道されたばかり。マカオの地で育ったIRという文化は、どのように日本に受け入れられ、移住してくるのか。IRと日本のこれからに、目が離せない。