8月も残すところあと一週間。夏休みも終盤を迎え、いまだこなせていない宿題の山に絶望する子供もいるかもしれない。
そんな中、ネットのフリーマーケットサービス「メルカリ」で「夏休みの宿題にどうぞ!」などの売り文句で「読書感想文」や「自由研究」の完成品が販売され、物議を醸している。
実際にどんなものが売られているのか、メルカリを覗いてみた。
「夏休み 宿題」「読書感想文」で検索すると...
「夏休み 宿題」「読書感想文」などで検索すると、読書感想文や手作りの工作が商品として表示される。
すでに売れている「宿題」もある
商品ページには、
「受験勉強や家庭の事情で自由研究を手伝う時間がない方へ」
「中学受験頑張っているお子さん、スポーツで忙しいお子さん、夏休みにたっぷり遊びたいお子さんを応援します」
親に向けたこんな甘い言葉が並ぶ。 価格は数百円〜数千円のものもあった。
一方で、
「そのまま学校に提出し先生に怒られても私は責任を持ちません」
こんな表記もある。出品者としては、あくまで「自己責任で買ってくれ」ということのようだ。
メルカリ側も、こうした事態を把握しているようで、春休みにも同様の出品があったという。ただ、朝日新聞デジタルによると、メルカリ広報は「他人の作品を盗用したものなどなら出品を削除するが、それ以外は『コメントする立場にない』としている」という。
実際、どんな「宿題」がメルカリに出品されているのか。
読書感想文は、中島敦から森絵都まで
出品されている読書感想文はさまざま。例えば、2017年の「青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書に選定された本がある。小中学校では、同コンクールの課題図書が夏休みの読書感想文として選ばれることが多い。
『干したから...』
『なにがあってもずっといっしょ』
また、中島敦の『李陵』や梶井基次郎の『檸檬』など中学・高校の教科書に登場する作品や、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、サン・テグジュペリの『星の王子さま』といった定番も。森絵都の『カラフル』など近年の作品もある。出品者が学生時代に書いたものを出品している例もあるようだ。
中島敦『李陵』
梶井基次郎『檸檬』
森絵都『カラフル』
川村元気『世界から猫が消えたなら』
いずれも出品されている読書感想文はワードなどで作成されたもの。購入者が手書きで書き直せば、そのまま提出できるようになっているようだ。
一方で、自由研究に目を向けてみると、蝶の標本、貯金箱、ペン立てなど、工作の「定番」が揃っている。
さらに、パワーポイントにまとめられた「アイスクリームの作り方」もあった。商品説明には「スケッチブック用にレイアウト」「手書きで写していただければ完成」との文言がある。
貯金箱
蝶の標本
鳥の巣箱
うちわ
びっくり箱
アイスクリームの作り方
ネット上で宿題が売り買いされていることについて、現役の教師はどう思うのか。都内の私立学校で教鞭をとる男性教師(50代)はハフポストの取材にこう語る。
「なんともグレーゾーンの話ですよね...。経済的には、たとえ夏休みの宿題でも『需要』と『供給』がある以上、そこには売り買いする人々が出てくるのは仕方ないのでしょう。大学でもレポートや卒業論文のゴーストライターがいますが、求める人がいれば、売る人もいる。ただ、それはもう教育ではない。単なるEconomyです」
「ゴーストライターの作文を生徒が出してきても、語彙力や構成力などで教員は一発で見破れますよ」
一方で、こうも語る。
「今回の話を聞いて、教員としては落胆と反省の気持ちもあります。自分自身でモノを考えて、自分の言葉で書く。その魅力を伝えるのが本来の教育です」
「こういうサービスが出てくるということは、先生も親も、学ぶことの魅力を十分に伝えられていないのかもしれません。自分が将来どういうふうになりたいか、どう変わりたいのか。人というのは変われるものですが、その魅力を伝えきれていない」
さらに、男性教師はこうも指摘する。
「『そもそも長期休暇に宿題なんて出すなよ』という本音がある気もします。英語圏だとたっぷり夏休みがあって、自分で設定したスケジュールで好きなように過ごす。日本の生徒が夏の終わりに宿題で苦しんでるとか聞くと、向こうの人達は驚きますね」
「『倫理的問題がある』という意見はもちろんありますが、『そもそも夏休みの宿題って本当に必要なの?』という段階に入っているのかもしれません」
実際に子を持つ親たちは、ネット上で「宿題が買えてしまう」という現象をどう感じているのだろうか。
小学生の子供を2人持つ30代女性はメルカリについて、ネットを使って何らかの課題や目の前の仕事を「解決する」のは、"時代に合っている"と感じる面もあるという。共働きや残業続きの保護者も多く、なかなか子供の宿題と向き合えないのも現状だ。
「周りの友人夫婦も夏休みの宿題を一緒にする時間がない。パッとネットで手に入れたい気持ちもわかる」
ただ、この女性はこうも話す。
「(メルカリなどで)単純に買い与えるだけなのはダメだと思います。なんでもお金で解決できる。親がどうにかしてくれる、と子供に思わせちゃうのではないでしょうか。さらに、嘘までつかせちゃうというのは、本当の教育とは言えない気がします」
たとえば、賞をとった読書感想文はネットに掲載されている場合もあり、そうした文章を親子で検索して、作文の手法を学び合うのも手だという。
「親がうまいネットの使い方を教えてあげるのも大切なのではないでしょうか。学校の先生たちには、『長期休暇=読書感想文や夏休みの宿題』と何も考えずに宿題を出すのはやめてほしい。もう少し工夫してほしい」
これまで踏襲されてきた「夏休みの宿題」のパターンが、もはや時代にそぐわないものになっているのかもしれない。女性は、子供への「愛情が試されている」として、こう提案する。
「たとえば、夏休みは読書感想文の『メモ』だけを生徒に作ってもらい、その後の感想文の完成は夏休みのあとの授業の中でやってくる、とか。ネットで宿題が買えちゃう時代、親の倫理観と生徒への『本当の愛情』が試されると思った」