「会社に行けない」原因を作っているのは、「自分は関係ない」と思っているあなたかもしれない

「職場などの環境」や「ストレス」を生む環境を作り出しているのは誰だろうか。ひょっとしたらあなたも、このような環境を作り出すことに、無意識のうちに加担してはいないだろうか。
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HuffPost Japan

6割の人が、友人や職場の人などが「こころの病気」の病気にかかると思っている−−。

東京都が発表した「こころの病気に関する世論調査」によると、自分の家族や友人・同僚などが「こころの病気」にかかる可能性があると答えた人が、30代は60.8%、40代は61.1%と、ともに6割を超えていることがわかった。また、自分自身が今後「こころの病気」にかかると思う人は、30代で25.4%、40代で33.2%となった。

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こころの病気の原因は何か。こころの病気として認知度が高い「うつ」について、その要因としてイメージするものを30代・40代に聞いたところ、「ストレス」をあげた人が90%以上となり、また「職場などの周囲の環境」をあげた人は65%を超えた。

では、この「職場などの環境」や「ストレス」を生む環境を作り出しているのは誰だろうか。ひょっとしたらあなたも、このような環境を作り出すことに、無意識のうちに加担してはいないだろうか。

■一番良くないのは「無意識に孤立させている」という状況

会社に行けなくなってしまう一番良くない環境について、「精神的にも、肉体的にも、その人を追い込んでしまうこと」と分析するのは宮澤保夫さん。全国規模で教育事業を展開する星槎グループ会長だ。ただし、宮澤さんは教育者ではない。「教育者ではなく、教育的環境創造者である」と自らを表現する。

「追い込むというのは、孤立させることね。

日本でよくある『いじめの構造』というのは、“無意識に”追い込むってことなんだよ」

宮澤さんがこう言い切ることが出来るのは、居場所をなくした子供たちのために、学ぶ場所を作り、社会に送り出すという取り組みを、30年以上も前から続けてきたからだ。

「教える側も子供も一生懸命取り組んでいるのにもかかわらず、なかなか成績が上がらない」、「コミュニケーションや空気を読むことが苦手」。いまでこそ理解が広まりつつある発達障害学習障害は、宮澤さんが塾を始めた1972年当時は、まだまだ社会的認知が進んでいない状況。それどころか、その存在さえも知られていなかった。

人間的にとても豊かであるにもかかわらず、普通学級の中で特異な存在として扱われていた子供たち。しかし、どの子も本当は勉強が出来るようになりたい、社会に貢献したいと思っている。ところが、自分ではどうすることもできず、学校からも疎まれる。そんな状況では当然、不登校児もうまれる。そんな時代だった。

「だったら、そんな状況にいる子供が楽しめる場所を、学校を、俺がつくってやろう」

宮澤さんがたった2人の生徒のために始めた学習塾は、今では不登校児の通う学校や、幼稚園、大学、福祉専門学校などに広がり、グループ全体で約1万7千人が通う学校に成長した。これまでに送り出した学生たちは、累計で約2万7000人にのぼる(大学関係は約700人。在籍する約半数の学生は単位が取れていても卒業しないで、好きな科目を勉強し続けている)。卒業後に教師となり、今では子供を教える立場になった人もいる。

障害を持たない人よりも、コミュニケーションが苦手。そんな子供たちであっても、元気に学校に通い、仲間を作り、自信を持って社会に羽ばたくことができるのは、星槎グループが全体で掲げる「3つの約束」に秘密がある。

■人を孤立させない「3つの約束」の秘密

「人を認める」

「人を排除しない」

「仲間を作る」

星槎グループ内の各校では、徹底してこの「3つの約束」が繰り返し指導される。「僕はこれまで友だちがいませんでした。僕には話しかけないでください」と入学時に挨拶した子も、1、2週間も経てばクラスメートの家に泊まりに行くほどになる。このしかけについて、宮澤さんは次のように話す。

「この3つの“順番”が大事なんだ。人を認めて、排除しないではじめて、仲間になることができる。順番をふまずに、いきなり『仲間をつくろう』なんていうのは無理だよ。インチキだ」

口では「仲間だ」と言いながらも、人は誰しも「自分が優位に立ちたい」という願望が心のどこかにある。「自分のほうが偉い」と、心のなかでは思っている。自分を有利に立たせたいので、ついつい、人を否定して無意識に排除してしまうと、宮澤さんは言う。

「若い先生にもよくあるのだけど、子供を押さえつけるために認めなくなることもがあるんだ。私のほうが偉いとか思っちゃうんだろうね。そうすると、クラスが荒れてくる。

 

そういうときに先生たちに言うんだ。君たちは何を考えている?生徒を認めていないよねって。

 

学校の先生は、信頼されることはできる。

だけど、子供たちを信頼できる先生は少ないんだよ。

 

仕事でも同じ。

 

俺はお前を信頼していないよなんていう上司はアホだね。

部下を信頼することだ。育てることなんだ。なかなかはじめは信頼なんてできないけれど。

 

『できるだけ、信頼しようと思っている。それは、俺の努力だ』

 

そう言えばいいんだよ。」

■大人には難しい「人を認めること」「人を排除しないこと」

しかし、「人を認める」ということは、子供には“ルール”として教えることができても、大人が実行するのは難しいと宮澤さんは指摘する。

「大人は自分の価値観、価値基準があって、なかなかできない。

性格は簡単に変えられるものではないからね。

だから見方を変えるっているのも一つの方法。俺達には気づきが大切で、必要なんだよ。

 

子供たちにはよく恋愛の話で例えるんだけどね。『相手に好きになってもらいたいときどうする?』って。自分のことを好きだと思ってもらうためには、何をしなくてはいけないのか。相手が喜ぶことをするだろう?

 

でも、人間というのは、自分がこれだけ思っているのだから、相手にも思って欲しいという『期待』がある。

 

しかし昔から僕は子供たちに言うんだ。『期待はするなよ。裏切られるから』って。

 

相手が裏切るんじゃないんだよ。多くは自分が裏切るんだよ。

相手がこうなってほしいと勝手に思ってるのは自分だろ?自分が思ってるだけなんだよ。見返りを求めるな見返りを。無償で相手のためになることをするんだよって。

仕事でもあるでしょう?『なんでこれをやってくれないんだろう』って。

それは、お前の説明が悪いんだよ。うまく伝わってないんだよ。

会社に来なくなる人も同じ。

会社に来なくなる原因はいろいろあるだろうが、一つには、『人にわかってもらえない』というあきらめのようなものがあると思う。

 

自己を否定してしまうと、自殺してしまう。

しかし、会社に出てこなくても、生きているということは、自己否定はしていない。場合によっては、自分を納得するために、会社に行かなくなる人もいるだろうし。

自分をわかってもらおうとするなら、まずは相手を理解することが必要。

学校だと「人を理解する」というルールを作れるけれど、社会に出てしまうとなかなか難しくてできないよね、大人は。

 

だから大人は、自分で自分のためのルールを作らなくちゃいけない。

人間性を高めるとか、自分の価値を高めるとか。そういった理由で自分の中にルールを作るなどをしないと、大人だからって、そんな簡単にできっこない」

しかし、聖人君子でもない限り、全ての人を嫌いにならないというのは難しいのではないか。気にいらない相手に対して、接するコツなどはあるのか。

「嫌いであっても、排除するな。

嫌いな人であるなら、距離感をとればいいんだ。

 

人はみな、自分を有利に立たせたいから、人を否定したいという思いが無意識にある。人を否定する必要はない。否定すれば否定されるんだよ。

 

立場が違っても話し合えばわかるし。

話し合わないで、人を非難したり、あいつはこうだと決めつけるのは逃げでしかないんだ。

 

仕事でも同じ。

部下などに対して『この人の良いところは何か、悪いところは何か』を説明せず、『お前はダメだ』で切り抜けようとする。話をして少しずつ理解ををすれば良いんだよ。

 

相手の状態が良くなければ、見ていればいい。待てばいいんだ。

待つということも、大人はなかなかできないんだけれど(笑)」

■資本主義社会で「かかわりあう」ことはできるのか

人を認めて、排除しないことで「無意識に孤立させてしまう」状況はなくせるのだろうか。人を孤立させないためには、「関わり合うこと」が必要だと、宮澤さんは話す。

「生きていく上で最も大切なことは、人と関わり合うということ。

人との関わり合いの中で、他人を認めて、信頼することが、大事なの。

 

そのためには、関わり合いというものを、みんなが意識して作らなくてはいけない。会話ができる仕組みを、意図的に作ることだ。

 

誰かが会社に来れなくなる前に、そういう環境になっているかを、一人一人が認識していなくてはいけない。

 

もし、誰かが来られなくなったら、学校であれば、ほんの小さいところから始める。来れなくなった人がいたら、生徒たちは会ったこともないクラスメートであっても、今日はこんなことがあったよってメールする。

 

担任が家に行って、出席だけとって帰ってくることもある。そしてぽろっと学校に出てきたら、ただそれだけで、生徒たちが『がんばったね。すごいね』ってほめる。

 

その子の良いところをみつけるようにと、生徒たちには話す。

全て良い方に解釈する。家から出れてよかったね。なんてね。

 

「ありがとう」と言われる場面をたくさんつくる。その中で子供たちは「じゃあ僕はこうやって生きていこう、こんな役割を果たしていこう」という自信をつけていく。

 

しかし、それは教育の場である学校だからできることだ。学校の中でも先生が来れなくなったりすることがあるけれど、星槎では教育資本主義の思想でやっていないから、「待つ」ということができる。

 

仕事ではなかなかそんな悠長なことはいっていられないよね。一人のために構ってられないよというのが現状だ。

 

だから、会社に行きたくないと考える人も、分かってもらえないとただ嘆くだけではなく、自分が自立するのかどうかを考えることが必要になる。

 

まわりの人も、一人一人が、他の人を思いやるとか、共生するという考え方を、身に付けるべきだよね。

 

人との関わりから離れては、人は人ではいられない。

人は人によって生まれ、人との関わり合いの中で成長するものだ。

違いを知り、認める生き方に気づき、人から学ぶことが大切だ。

そうすれば、自らの生きる幅や、深みが増し、心の箱に豊かさが貯まる。

あなたもそうやって、人に支えられてきたということを、知るべきだよね。

 

生活環境がどんなに豊かになっても、心の豊かさが必ずしも手に入るものではない。ただ、まわりの人も、人を認めて、社員同士が会社や仕事の内容、そして同僚を誇りに思うような関係になったら、おのずと会話量は増えてくる」

「会社にいけなくなる原因」を生む環境について、あなたはどう考えますか?ご意見をお寄せください。