伝える仕事の楽しさと難しさ、託された「想い」をどう表現するか

「伝わった」という瞬間のために、自分も関わっているのだなと改めて感じました。
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ゼミ主催で「"この人だから"できる メディアの仕事 やりたいことを貫く方法・アイデア」というイベントを行いました。いま注目されている石戸諭さん、神原一光さん、野上英文さん、 與那覇里子さんに、大学生が質問するという企画でした。

「メディア業界に進むにあたり身につけておいたほうがいい技術は?」や「大学院進学や転職に至った経緯は?」といった質問にそれぞれが答えていきます。「取材相手との関係の築き方」という質問がきっかけとなり、託された「想い」をどう表現するかという話になっていきました。

なぜ託されたのかはわからない

イベント前日3月11日に公開された東日本大震災の記事は、事前に準備していたことが「奇跡」や「美談」になっていく保育所長さんの心の内を描いたもの。司会の私は執筆した石戸さんに「なぜ、このような話を託そうとしたのだろう」と問いかけました。石戸さんの答えは「わからない」でした。

以前から交流はあり、取材に行きますねという話をしていた、といいいます。取材はお昼から夜まで続き、「いろんな話を聞いていた。あんまり聞くのは苦じゃないんですよ」。「まるごと書きたい」という石戸さんは、新聞やテレビでは字数や時間の関係でマスメディアは難しいけれど、ネットなら表現が可能だと説明しました。記事は1万字近くあります。

神原さんは、自身が制作したピアニストの辻井伸行さんのドキュメンタリーでの表現について教えてくれました。

「辻井さんは普段ものすごく弾くんですが、ある時、ポーン、ポーンという感じになった。すごく苦しい中で弾いたその音を番組の大事なシーンで流すことにした。番組を見た辻井さんが大切な音を使ってくれたと言ってくれたんです」

このドキュメンタリーは神原さんのはじめての本になりました。

出会いは偶然かもしれませんが、それを大切にするからこそ託されるのかもしれません。野上さんは「仕事はやってくるものだ」と表現していました。

伝えることの難しさ

マスメディアで仕事をしていると、無理なことを取材相手にお願いして傷つけてしまったり、聞いた話がほんの少ししか紹介できなかったり、場合によってはねじ曲がってしまうこともあります。その時の対応は、「会いに行って正直に説明する。遠い人だと手紙を書く」と共通していました。取材は一瞬ではなく、また、どこかで、と言う気持ちが必要です。

「取材相手の関係性のときに、近づきすぎる問題も話しておくべきだったかな...」

イベントが終わった後の打ち上げで、與那覇さんが残念がっていました。いくら取材相手と心が通っていても、お金や物のやり取りなどは問題になることがあり、距離感は重要です。それを聞いた野上さんが「全部伝えるのは難しいじゃないですか。記事もあれ書いたら良かったなと、いつも反省ばかりですよ」とフォローしていました。

表現は簡単ではないし、苦しいし、いつも反省ばかりだけれど、「伝わった」という瞬間のために、自分も関わっているのだなと改めて感じました。

イベント運営はゼミ生の一人がプロジェクトリーダーになって進めて来ました。朝日新聞社ジャーナリスト学校が発行する月刊誌「Journalism(ジャーナリズム)」2018年2月号」の座談会を読んで、質問を考えて申し込んでもらう条件にしていたのですが、Amazonの品切れ状態が長く続きスムーズな動線になっていませんでした。

ゼミ生は、店頭に置いてくれている数少ない大学生協をジャーナリスト学校の方と一緒にまわったり、キャリアセンターにチラシを置いてもらうお願いをしたり、とイベントを知ってもらうために奔走しました。

自分と相手の想いが混じり合う

「イベントは表現の総合格闘技」とゼミ生には伝えました。当日の運営だけでなく、企画立案から広報、関係者との調整など、やるべきことは多岐にわたります。当然一人では難しい。自分の足で動いたら、人の輪が広がっていきます。

登壇者や参加者にとって良い場所をつくるためには、実は「こだわり」が必要です。相手の話ばかり聞いていると蛇行してしまい迷惑がかかります(なんだか話を聞くわりに何がしたいのか良くわからないイベントってありますよね)。表現は自分と相手の想いが混じり合って、いいものになっていきます。

まもなく新年度のゼミ募集が始まります。伝える仕事を目指している学生を待っています。

(2018年3月14日ガ島通信より転載)