学校で月1回の「ミートレス給食」を訴える18歳。大切にしてきた父の言葉

日常で何気なく食べている「お肉」の背景を考えるきっかけに。肉や魚、乳製品を控えた「ミートレス給食」の導入を求める署名活動を立ち上げた学生がいます。
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「2023年4月までに兵庫県内にある小中高等学校の給食・食堂でミートレスフードを取り入れてください!」

肉や魚、乳製品を控えた「ミートレス給食」を月1回提供するように兵庫県知事らに求めるネット署名が行われている。立ち上げたのは、神戸市在住の金澤優花さん(18歳)だ。

しかし、一体なぜ「ミートレス給食」なのだろうか。  

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家の近くに牧場があり、幼い頃から家畜と触れ合ってきたという
金澤優花さん提供

過酷な家畜の飼育環境、そして環境負荷… 

きっかけは、小学6年のときに動物保護団体から小型犬ミニチュアシュナウザーの「カルロ」を引き取ったことだった。前の飼い主によるものだろうか、カルロの右目には痛々しい傷の跡があり、家にやってきた当初はずっと震えながら身体を小さくしていた。 

そこから動物虐待について調べるようになると、たまたま読んだネット記事で、思いがけず家畜を取り巻く問題を知る。

生産性や効率性を追及し、鶏を狭い檻に閉じ込めて飼育する「ケージ飼育」、妊娠した母豚を身動きが取れない檻に拘束して出産させる「妊娠ストール飼育」など、劣悪な環境でストレスや痛みを感じながら飼育されている家畜がいることに衝撃を受けた。

「スーパーに行くと、加工されたお肉が当たり前に陳列されている。それまでの経緯なんて考えたこともなかった」

さらに調べていくと、畜産は、大量の水や飼料となる穀物を必要とするほか、世界の温室効果ガス排出量の約15%を占めるなど、環境にも大きな負荷をかけていることを知った。

いずれも、学校の授業では習ったことのない内容。

 「学校教育のなかで、命を頂くことの大切さや環境や畜産の問題を楽しく学ぶことができないか」。そう考えるようになっていった。

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イメージ写真
Drs Producoes via Getty Images

日常で何気なく食べている「お肉」の背景、考えるきっかけに

そんな時、思いついたのが「ミートレス給食」のアイデアだ。

自身は幼稚園から高校までお弁当だったため給食を食べた経験はないが、友人たちが給食の思い出話に花を咲かせているのをよく耳にしていた。

「給食は、親近感を抱きやすく、大人になってもずっと記憶に残るもの」。そんな風に感じていた。

さらに、欧米では、毎週月曜日の給食に菜食中心のメニューを出す「ミートフリーマンデー」という運動も広がっている。

「ミートレス給食を食べて社会問題に興味を持った子どもたちが、大人になって、ルールや法律を変え、持続可能な社会作りを担ってくれるかもしれない」

明るい未来が見えてくるような気がした。

「声をあげるのはすごく勇気のいることだった」

ミートレス給食の署名プロジェクトは、署名サイトを運営するChange.orgが若者の署名立ち上げを支援するプログラム「Change Makers’ Lab for Youth」に参加したことをきっかけに、2021年8月に開始したものだ。

しかし、署名の内容を決めてからも「本当に始めて大丈夫だろうか」と幾度も悩んだ。

ミートレス給食はあくまでも「食育」が目的だが「肉を減らす」という印象だけが一人歩きして過激な主張に捉えられないだろうか、専門的な知識を持たない子どもが声をあげることに否定的な声はないだろうかーー。

「日本は“出る杭は打たれる”社会。社会問題に対して行動を起こしているような人は周りにいなかったし、声を上げるのはすごく勇気のいることだった」

しかし、プログラムのスタッフや参加者たちが背中を押してくれた。

「私の意見を批判することなく、まずは意見を受け入れてくれた。発言しても『子どもが言うことだから』と軽んじることなく、対等に話してくれたことがすごく嬉しかった」

署名を始めた当初は周りの反応も気になったが、SNSで署名活動を知った友人が「家で代替肉を食べてみたよ」と報告してくれるなど、予想以上に好意的な反応が多かった。

ミートレス給食のアイデアを話した当初は「サラダしか食べないの?」とネガティブな反応だった家族も、今では理解してくれるようになり、食卓の風景も少しずつ変わってきた。牛乳を植物性ミルクに置き換えるなど、肉や魚、乳製品の量をできるだけ控えて、植物性食品を中心とした生活をしている。

集まった署名は3月頃に兵庫県知事に提出する予定だ。現在の署名数は300ほどだが、1000まで伸ばしていきたいという。その後は、全国にミートレス給食の導入を呼びかけていくことも考えている。

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金澤さんはオンラインで取材に応じてくれた=2021年1月
Huffpost Japan

金澤さんには、歯科医師として働く父から、幼い頃から繰り返し教わってきた言葉があるという。

『生きることは食べること』

将来は、自分も歯科医師として父の背中を追いかけたいと思っている。

「食と生きることのつながりを伝えながら、私自身も学び続けていきたいです」