賛否両論!?ゲイのカミングアウトを描くマクドナルドCMから見る台湾LGBTの今。

マクドナルドの人気カフェメニュー「McCafe手作咖啡專櫃」カップデザインのリニューアルに合わせて公開されたCMが、今台湾で大注目を集めています。
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台湾マクドナルドのCMに話題沸騰!みんなの反応は?

マクドナルドの人気カフェメニュー「McCafe手作咖啡專櫃」カップデザインのリニューアルに合わせて公開されたCMが、今台湾で大注目を集めています!「息子と父親の対話」をテーマに制作された90秒のムービーが、一体なぜ話題となっているのでしょうか?

CMへの反応を突き詰めていくと、台湾社会における「LGBTの置かれている状況」がどのようなものなのかが見えてきます。

「対話にもっと温もりを。」

McCafeの新デザインカップ「對話杯(コミュニケーション・カップ)」のプロモーション活動の一環として制作されたムービーは全3種類。意中の男性との曖昧な関係にやきもきする女性を主人公にした「告白篇」、アルバイトの娘とその父親の親子関係にスポットを当てた「等待篇」。そして、今話題沸騰中なのが、ある父親とその息子のカミングアウトストーリーを描いた「接納篇」です。

「我喜歡男生(僕は男性が好きです)」

と書かれたカップを父親に向ける主人公の男の子。そのメッセージに苦悩しながら席を立つ父親は、どうにも煮え切らない様子。父親の否定的な態度にショックを隠せない主人公は、涙を浮かべながら一人、テーブルに座ったまま打ちひしがれてしまいます。

その後、コーヒーを持って戻ってきた父親は、深いため息の後、息子のカップとペンをおもむろに手に取り、何かを書き入れ始めます。

心配そうに見つめる主人公の視線に飛び込んできたのは、

「我接受你喜歡男生(おまえが男性を好きだということを、俺は受け入れる)」

のメッセージ。理解を示してくれた嬉しさで泣き崩れる主人公に、父親はただ、やさしく微笑みかけます。

そして、「讓對話更有溫度(対話にもっと温もりを)」のコピーとともに、ムービーは締めくくられています。

台湾マクドナルドは、今回の作品について次のように述べています。

當初拍攝微電影的主軸是扣準對話,希望能將生活中難以啟齒、不好開口、需要溝通的話語,透過杯子來傳達,「主軸是人跟人之間的對話」

(中略)

「對話的本意就是表達觀點,觀點可以不同,最重要的是彼此尊重與接納」

Via:三立新聞網

今回のショートムービー制作にあたって、主軸としたのは「対話」。生活の中で口を開きづらい、口に出すのが容易ではない、けれどコミュニケーションが必要なそんな言葉たち。それらをカップを通して伝えてみたら... 「人と人との対話」これこそがメインテーマです。

(中略)

「対話の本質は観点を伝えること。観点は必ずしも同じである必要はありません。最も大切なのは、互いに尊重しあい、認めあうことなのです。」

訳:Kazuki Mae

「感動」の声、多数!

ムービーの公開から2週間でYouTubeでの再生回数は200万回を突破!親子のカミングアウトストーリーに、公式ページには感動のコメントが多数投稿されています。

・我身邊很多朋友們都努力追求自己的幸福,他們熱情、大方、自信、堅強又美麗,沒有任何人可以剝奪他人的幸福快樂。

(私の周りの友人たちも幸せを追い求めて頑張っています!みんな情熱的で、おおらかで、自信に溢れ、強くて、美しい。誰にも他人の幸せや喜びを奪う権利はないはずです。

支持同性婚姻!!!!!

(同性婚支持するよ!!!!!)

我不是同志 但我也差點哭了 我支持~

僕はゲイじゃないけれど、でも泣きそうになった。僕も応援してるよ!)

・想不到最後幾秒瞬間讓我飆淚

(まさか最後の数秒で、こんなに涙があふれてくるとは思わなかった...

・我以為他爸加個 "也 " 字

(パパは「也(〜も)」と書くのかと思ったよ 笑)

Via:麥當勞YouTube官方頻道

訳:Kazuki Mae

「マクドナルド」という、台湾でも名を知らぬ人はいないほどの超有名飲食チェーンが、CMを通してLGBT支持を表明。この出来事によって励まされたLGBT当事者や支持者たち、あるいは支持層のさらなる増加にもたらした貢献は少なくないはずです。Facebookでも10万近い「いいね!」を獲得していることが、その事実を如実に物語っています。

「接受」してもらう必要があるか?

しかし、全面的にこのCMを支持する人ばかりかと言えば、そうではありません。CM中で父親がカップに書いた「接受」という言葉に、疑問を投げかける意見も出ています。

中国語の「接受」は、直訳すれば「受け入れる」という意味です。「受け入れてくれるのならどこに問題が?」と思われるかもしれませんが、ここに中国語ならではの「微妙なニュアンス」が絡んできます。

我承認接受是一種歧視,但也是多數家庭的現況。因為它處在相對弱勢位置,我們只需要「接受」做不好、做錯了的事。可是同志為什麼需要被接受?

Via:女人迷

「接受」というのは一種の偏見でありながら、多くの家庭においてはそれが現況です。なぜなら対象を自分と相対的に弱い立場に置き、うまくできなかったこと、間違ってしまったことを受け入れるのが「接受」という動作だからです。ならば、LGBTはなぜ「接受」される必要があるのでしょうか?

訳:Kazuki Mae

そう、「接受」という言葉には、どちらかと言えば「後ろ向き」なニュアンスを感じてしまう人も少なくないのです。「(好きにはなれないけれど)受け入れる」、「(ちょっとおかしいとは思うけれど)受け入れる」、日本語で表現するならば、カッコ書きでマイナスな本音が込められているようなニュアンスでしょうか。

そのような受け取り方をされた場合、「伝えたいことは分かるけれど、手放しには感激できない」複雑な心境を抱えてしまうことになります。

我們很難忽視「接受」兩個字,因為我們希望牽著父母一起走向未來,而非與過去世代切割。

不要讓憤怒阻止對話,我們很慶幸廣告上開始出現了同志形象,我們樂見更多對同性議題的討論曝光,甚至看見企業「願意」消費同志⋯⋯。

Via : 女人迷

けれど、「接受」二字の重要さを無視することはできません。なぜなら、私たちはみんな父母の手を引いて未来へと向かおうと願っているのであり、世代間の断絶を望んでいるのではありません。

怒りや憤りのために対話を止めてしまってはいけないのです。広告にLGBTの姿が見られるようになったこと、LGBTに関する討論が様々な場面で聴かれるようになったこと。そして企業がLGBTも消費者であるとみなすことに「同意」したことをも、まずは喜び、楽観すべきではないでしょうか。

訳:Kazuki Mae

企業のPR活動で公式にLGBTをテーマとすることは、ゲイフレンドリーとして知られている台湾と言えど、やはりまだまだ事例としては稀。しかし、そんな環境の中で先陣を切って「社会の変化に対応して行こう!」という姿勢を示す企業も現れ始めているのは確かです。

表現の仕方に多少荒削りなところがあったとしても、台湾社会が「新たな一歩」を踏み出した証として、評価されるべきでしょう。

台湾における「同性婚反対勢力」とは?

一方、今回の台湾マクドナルドのCMに対して、真っ向から反対を表明している団体も見受けられます。「同性婚」の話題がメディアやインターネット上で大きく取り上げられる度、必ず反対勢力として声を上げるのが、台湾の宗教団体「愛護家庭大聯盟(護家盟)」です。

2015年に台北市で行われた「聯合婚禮(合同結婚式)」において、初めて同性カップルが参加を認められたことを受け、「(同性カップルが祝福されるなら)父娘の近親愛も祝福するのか?」などとコメントしたことは、記憶に新しいところです。

今回のマクドナルドのCMに対して、護家盟は次のように態度を表明しています。

護家盟發出聲明,強調雖然尊重同志人格權,但反對任何公開宣揚「同性性行為」的意識形態與宣傳,他們認為麥當勞作為兒童主要消費的地方,尤其應該避免對孩子有不正確行為的教育誘導內容。

護家盟呼籲父母和消費者,對麥當勞發起拒絕購買行動,抵制去麥當勞,他們更表示,連去麥當勞借廁所都感到被污染。

Via : 自由時報

護家盟は声明を出し、「LGBTの人格権を尊重する」と強調しながらも、「同性間の性行為」につながる意識形態や宣伝は、いかなるものであっても反対すると発表しました。護家盟の見解では、マクドナルドは子供達の主要な消費の場であり、特に不正確な行為を促す教育誘導は避けるべきである、としています。

また、護家盟は保護者や消費者に、マクドナルドに対する不買運動や立ち入りの抑制を呼びかけており、「マクドナルドでトイレを借りただけでも穢されたと感じる」などともコメントしています。

訳:Kazuki Mae

また、もう一つの反対勢力としてたびたびメディアに登場するのが、キリスト教系の政治団体「信心希望聯盟(信望盟)」です。

今回のCMに対しての意見は表明されていませんが、2015年の年末から2016年初めにかけて起こった「ある国民投票を求める署名」をめぐっての騒動は、台湾のLGBTコミュニティを震撼させた出来事でした。

有國小老師要學生拿這個「保護家庭公投連署」回家,要家長簽名帶回,還要小學生特別寫在回家功課的其中一項叫做「通知單」

許多家長並不知道這個名為「保護家庭」,真正的涵義是「迫害同志」、剝奪非異性戀者權益的政治行動。很多家長就跟其他通知書一樣簽了名讓孩子帶回去給老師,交「功課」。

Via : BuzzOrange 報橘 

ある小学校の教師たちが児童たちに対し「保護家庭公投連署(家庭保護のための国民投票への署名)」と称した書類を配布、帰宅後保護者に対しサインを求めることを「通知單」題し、宿題の一部として扱っていたことが発覚しました。

多くの保護者が「保護家庭(家庭を保護する)」に込められた真の意味が「LGBTの迫害」、異性愛者以外の権益を略奪する政治行動であることに気づかず、他の一般の通知書同様にサインし児童に持たせ、「宿題」として教師に提出させていたもようです。

訳:Kazuki Mae

「家庭保護」の名目で行われていたのは、小学校の宿題を利用しての「同性婚反対」への署名活動。同様の手法で集めた署名は16万件以上にのぼり、「家庭保護」ための国民投票実施要求は、行政院へと提案されるに至りました。

審議の結果「規定に合致しない」と判断され、今回の提案は撤回に。しかし、信望盟側は「再度署名活動を実施する」可能性も放棄しておらず、再び騒動が起こる懸念も残されたままです。

「LGBTへの理解」が、アジアでもトップクラスに進んでいるイメージのある台湾。しかし、その裏にはこの二つの団体に代表されるような「目的のためなら手段を選ばない」強硬な反対勢力も同時に存在しているということを、覚えておかなくてはなりません。

カミングアウトCMに台湾では賛否両論!あなたはどう感じましたか?

公開から2週間が経った現在も、一般消費者はもちろん、タレントや著名人もコメントを発表して議論が続いている台湾。LGBTの話題を社会全体にまで広げたという意味でも、今回マクドナルドが制作した作品の意義は大きいと言えるのではないでしょうか。

このCMを見て、あなたはどう感じましたか?あるいは、同じCMがもし日本で公開されたら?ぜひ大切な人たちと一緒に意見を交わし合ってみては?

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