LGBT「オランダでは日常的な世界」 映画「孤独のススメ」エビンゲ監督に聞く

オランダ映画「孤独のススメ」が、4月9日から国内で公開される。いくつかのLGBT映画祭でも受賞しているこの作品。ディーデリク・エビンゲ監督がハフポスト日本版とのインタビューに応じた。
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すべてをなくした男が何も持たない男から学んだ幸せとは――? ロッテルダム国際映画祭やモスクワ国際映画祭で観客賞を受賞したオランダ映画「孤独のススメ」が、4月9日から国内で公開される。いくつかのLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)映画祭でも受賞しているこの作品。ディーデリク・エビンゲ監督(46)が3月上旬にハフポスト日本版とスカイプでインタビューに応じ、LGBTについて「将来的には、オランダと同じく世界中で普通なことと思われるようになるのではないか」と語った。

あらすじはこうだ。妻に先立たれ、孤独な生活を送る初老の男フレッド。信仰篤いオランダの田舎町で、毎週日曜日の礼拝以外は周囲との付き合いを避けていたある日、突然言葉も過去も持たない男テオが現れ、なぜかフレッドの家に居ついてしまう。やむなく始まった奇妙な共同生活だったが、そこに奇妙な友情が芽生え、次第にルールに縛られたフレッドの日常が鮮やかに色づいていくのだった。だが、保守的な田舎町に住む近隣の人々は、彼らのことを問題視。少年が「ホモ野郎」と罵声を浴びかけさせたりもする。

フレッドは自分が目をそむけてきた過去と向き合う決意をする――。フレッドが訪れたキャバレーで熱唱される、「This Is My Life(これが私の人生)」。「This Is My Life」はイギリスの人気歌手シャーリー・バッシーの曲で、クラシック音楽が多用されている劇中で特に印象深く響く。鑑賞後に幸福感のある映画だ。

ディーデリク・エビンゲ アムステルダムのスクール・フォー・ドラマ & コンテンプラリー。ミュージック・シアターを卒業。在学中にコメディー・グループを共同創設。その後、俳優として数々のTVシリーズや映画に出演する。監督としては短編「Naakt」(06)、「Succes」(08)があり、本作は長編監督デビュー作となる。

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ディーデリク・エビンゲ監督(C)2013, The Netherlands. Column Film B.V. All rights reserved.

――この作品を作ったきっかけを教えて下さい。

作品中で重要な役を演じたトン・カス(フレッド役)とルネ・ファント・ホフ(テオ役)は前からよく知っていました。これまで私の短編映画などに参加してもらっていましたが、私が初めて撮る長編映画では、彼らに主役を務めてもらうべきだと思っていました。そこで、この映画を作り始めたのです。

――ご自身の体験は影響していないのですか。

ないです。私はオランダ東部の村出身なんですが、ここは保守的ではありませんよ。ただ、母親からは、映画の背景に流れる感じは「まさにあなたのものね」と言われました。

――作品では、舞台の町は保守的な感じの場所ですね。オランダのある場所を参考にしているわけではないのですか。

いや、こんなにキリスト教の厳格な教義が支配するコミュニティーはないですよ。

――作品の設定は現代なんですか。フレッドは携帯電話も持っていないし、自家用車もありません。

作品は「おとぎ話」のようなものなのです。全くのフィクション。50年前、300年前であってもいいし、現代でもいい。ある時代に即しているわけではありません。

――最初は不思議な感じというか、静かに物語が進んでいきます。それが、終盤に向けて劇的に変わります。特に、音信不通の息子の歌を聞き出向いたところがピークですね。

そうですね。フレッドは洞察を得るのです。この映画は私的な悟りの物語です。自分自身について、そして自分を取り巻くものについて、深い洞察を得て自由になるためにはどれほどのエネルギーと葛藤が必要なのかを描いています。

――この作品はLGBT映画祭の賞をいくつか受賞しています。オランダは「自由な国」との印象が強いですが、エビンゲ監督から見て実態はどうですか。

ゲイ、LGBTといったことは、オランダでは普通に受け入られています。もともと、僕はそういうテーマを意図して作ったわけではないのですが、それを強調するのはオランダの人ではないのかもしれませんね。オランダでは日常的な世界です。

オランダは様々な点で先進的だと思います。結論として、他の国はオランダと違う、ということかもしれません。将来的には、世界中でオランダと同じく普通なことと思われるようになるのではないでしょうか。

――主人公フレッドは、見ず知らずの男性を家に受け入れます。LBGTはオランダでは珍しくないのですね。

LGBTのコミュニティーは珍しくありません。男性同士で住む人もいますし、同性同士の結婚も少なくありません。

――フレッドはどうしてそんなに寛容なのでしょうか。

とても孤独なんですよ。近所に住んでいる男性、カンプスも同じく孤独。感情的に、1人ではないということが大事だったんです。そこに1人ではなくなる好機、つまり、テオが訪れてきたんです。そこで、フレッドは抱え込んでいたしがらみを見つめ直したんです。自分を失いかけていたフレッドが、テオから幸せを学んだんです。

――日本の人にはこの作品をどうアピールしますか。

オランダのほか、ロシアや中国など各国で上演してきましたが、どこでも同じように関心を持ってくれました。日本の人も見てくれると嬉しいです。

作品はおかしくて楽しい。笑と涙が詰まっています。そこを見てくれれば嬉しいです。

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監督・脚本:ディーデリク・エビンゲ  出演:トン・カス、ルネ・ファント・ホフ、ポーギー・フランセ、アリアネ・スフルーター

2013年/オランダ/86分/カラー/シネスコ/原題:Matterhorn  

提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム 

(C) 2013, The Netherlands. Column Film B.V. All rights reserved.

4月9日、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

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