いちばんやさしい「マストドン」(Mastodon)の話

世界的でもヒットしているけど、日本の伸びがハンパではない。

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マストドンに注目しているのは誰か?

4月10日に書いた「Twitterのライバル? 実は、新しい「マストドン」(Mastodon)とは!」(http://ascii.jp/elem/000/001/465/1465842/)が、最初の日本語によるマストドンの解説記事らしい(ブログも含めてだそうだ)。あれから、まだ1カ月も経過していないのに、ネットの世界ではマストドン騒ぎという状況となった。

といっても、一般の人にとっては、ニュースで名前は知っていたとしてもまだ遠くの出来事という感じだろう。

いまのところ興味を持っているのは、ツイッターに嫌気がさしてきたツイッターユーザー、コミュニティに興味のあるエンジニア、自社サービスに使えると知ったネット企業、オープンソースや分散の価値を知る人々だという話もある。「ツイッター老人会」なんて表現も使われている。しかし、角川アスキー総研の分析データでは、「マストドン」に反応しているのは、20~30代だった。女性はやや少ないが、いわゆる有名人アカウントも増えている。

そこで、今後、より一般の方々にマストドンが広がってくることを期待して、ここでは「マスンドンとはどんなものか?」について書いてみたいと思う(背景等は前の記事を参照)。

ちょうど、先日、あるところで実際に交わされた典型的な「マストドン談義」を記憶をたよりに再現しながら、一問一答のような形でまとめてみたい(最後のほうはこの時の会話でないものも入っているが)。すでにマストドンをご存じの方は退屈だと思うが、私の意見も入っているのでよろしければお付き合いいただきたい。

ツイッターのライバルの出現なのか? やはり、このサービスには見過ごしておくべきではない新しさがあると思う。

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角川アスキー総研のリアルタイムトレンド解析による「マストドン」に関するつぶやきの年代分布。4月14日〜26日の間に「マストドン」についてつぶやいた人の推定年齢。

マストドンについての「一問一答」

―― マストドンって何なんですか?

遠藤 ツイッターによく似た新サービス。ツイッターは140字だけど500字までつぶやけます。フォロー、リツイートなんかのしかけも同じ。ツイートは「トゥート」、リツイートは「ブースト」など用語は少し異なります。会社でそのまま表示するとまずい画像は1クッションおいて開くしくみもある(NSFW=職場閲覧不適切:Not suitable for work)。

―― どこが注目なんですか?

遠藤 ツイッターは、いまもとても強力なメディアです。オバマ元大統領も使ったし、トランプ大統領も使っている。米国でミュージシャンが亡くなれば、ニュースは関係者のツイートからですよね。「ジェネレーション Z」と呼ばれる95年以降に生まれた世代も、意外に使っているという話題もありました。

―― それじゃ、ツイッターでいいんではないですか?

遠藤 ところが、ここのところツイッターを提供するツイッター社の経営面での不安が指摘されていたんですね(セールスフォースやグーグルが買収するという噂が流れたけど成立しなかった=4月にグーグルが技術部門の一部のみ買収)。それから、ツイートを分析されて出てくる広告ツイートがウザいという声も聞きます。1時間以内に「×××」とつぶやいた人のタイムラインに表示されたりするけわですからね(これはツイッターだけの傾向ではないですが)。

―― マストドンは、日本だけがヒットしていると聞きました。

遠藤 人気が急上昇したのが今年4月上旬。その段階では約10万人のユーザー数でした。それが、いま(この原稿を書いている5月上旬)約60万人のユーザー数ですが、その半分は日本人ではないかなんて意見もあります。世界的でもヒットしているけど、日本の伸びがハンパではない。

―― なぜ日本でそんなに?

遠藤 ひとつ考えられるのは、日本人にツイッターのようなサービスが向いているからではないでしょうか? 世界のツイッター利用者の10分の1が日本人だと言われています。

―― ユーザー数的には、まだツイッターとの間で100倍近い差があります。それで、ツイッターの代わりになるんでしょうか?

遠藤 マストドンは、ドイツの24歳のオイゲン・ロッコさんというエンジニアが開発したんですが、彼は、マストドンのプログラムを「オープンソース」という形で公開しました。それによって、誰でもそのプログラムを使って自分でマストドンのサーバーを立てることができるんです。オイゲンさんと同じようなサービスを始められる。しかも、ルールに基づいて誰でもプログラムを書き換えることができ、機能を拡張することもできるのです。

―― マストドンは、1つじゃないんだ。

遠藤 いま世界中で1700個以上のマストドンがあるようです。1つ1つのマストドンのことを「インスタンス」と呼んでいます。ポイントは、バラバラにあるインスタンスが、それぞれ自治権は与えられているけど連携して動くことです。開発者のオイゲン氏は、それを「フェデレーション」(連合)と呼んでいて、まさに、EU(欧州共同体)やNATO(北大西洋条約機構)にたとえていますね。

―― 具体的にはどういうことですか?

遠藤 たとえば、mastodon.socialというインスタンスにオイゲンさんがいます。私は、日本のmstdn.jpというインスタンスにいる。私が、オイゲンさんをフォローすると、私のタイムラインに彼のつぶやきが流れるようになります。このように、ユーザーがインスタンスをまたがってフォローすることで、連合は自然発生するのです。

―― なぜそのようにしたのでしょう?

遠藤 ネットでは、いまフェイスブックにしろ、ツイッターにしろ、巨大サービスにユーザーが集中しています。開発者のオイゲンさんは、そういうふうに1つの企業がみんなのやりとりを独占することに疑問を感じているようです。たとえると、世界中の人が1個の巨大なアパートに住んで管理されているのはおかしいだろうと。それぞれ個性的なアパートがあちこちにあっていいし、一戸建てだってあっていいということですね。実際に1人で自分専用のインスタンスを立てている人もいます。ちなみに、マストドンのように、たくさんのサーバーに分かれているしくみをコンピューターの世界では「分散」と呼びます。インターネットも、本来、分散ネットワークなんですね。自然界のものがそうであるように文字どおり自然に繋がっていく感じです。

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マストドンの説明ページには、その理念がキッチリと語られている(mastodon.social)。

―― インスタンスを立てるにはお金がかかります。どんな目的とメリットがあるのでしょうか?

遠藤 画像共有サイトのピクシブが「Pawoo」、ニコニコ動画のドワンゴが「friends.nico」というインスタンスを立ち上げました。これは、自社サービスの外側にソーシャルメディアを持つことで、自社のサービスを活性化できるからだと思います。マストドンでは、これらサービス間での「相互送客的」な効果も出てくるかもしれません。こうした企業以外には、地域や趣味のサークルや特定テーマごとにインスタンスができはじめています。

―― 地域というのは?

遠藤 たとえば、私の場合は、東京都文京区に住んでいるんで、東京の東側の人たちのためのインスタンスがあったら会員になりたいです。マストドンの画面には、「ローカル」というカラム(欄)があって、そのインスタンスのメンバーのつぶやきが掲示板のようにすべて表示されていきます。もちろん、会員にならなくても読めるのですが、ローカルに、地元のよりきめ細かな情報が表示されるのは楽しそうです。東京の東側の「今日はこれが安いよ」なんて、地元の情報だけがローカルに流れてくるのも便利ですよね。ここでは、そのインスタンスに「住む」ような愛着みたいなものも関係するでしょう。インスタンスを立てることも、なにか「国」や「家」を作るようなかなりの楽しさがあると思います。そこに、みんなが参加してくれたらサイコーですよね。

―― そういうときにマストドンを使うことで有利なことはあるでしょうか?

遠藤 いきなり「東京の東側の人たちのためのサイト」を立ち上げたとしてもヒットさせるのは至難のワザだと思います。ところが、マストドンならつぶやきを元にユーザーが流入することが考えられますよね。なにより使い勝手が、マストドンならどこへ行っても同じのが便利でしょう。

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マストドンの画面では、左からツイッターのタイムラインに似た「ホーム」、同じツイッターの「通知」、いちばん右のカラムには、インスタンス内のつぶやきが表示される「ローカル」やインスタンスの誰かがフォローした別インスタンスのユーザーのつぶやきも表示される「連合」を表示できる。By Mastodon.social - Own work, AGPL, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=57834779

―― テーマごとの集まりならフェイスブックのグループでもいいんじゃないですか?

遠藤 マストドンでは、気軽に書き込めるツイッター的な便利さがありますよね。リツイートで情報が流れていくスピード感もあります。フェイスブックでは、どちらかというとコミュニティの中にとどまる傾向があると思いますが、ツイッターでは外部の情報に誘導する効果が大きい。それと、サービス提供社に縛られないことも重要です。ある日、フェイスブックが「そういう行為は禁止」といったら、商売も趣味の活動もないですからね。ただし、自分で運営するには、相応の責任と手間もかかります(安易にインスタンスを立てるべきではないという意見は正しい)。

―― 運営が大変なのになんでやるんですか?

遠藤 大手ネット企業やスタートアップじゃなくても、ネットで自分たちも何かできるということを実体験できそうじゃないですか! マストドンの応用分野は広くて、これからみんなでいろんなことを試みていく新天地だと思います。たとえば、「mstdnp #nowplaying」とういアプリがあります(Android用)。これは、現在聴いている音楽の情報を自動的にマストドンでつぶやくものです。ツイッターでも同じような使い方はありましたが、あくまでツイッターの機能の範囲内でしかできませんでした。マストドンでは、これ専用インスタンスや専用サービスに発展することもありうると思います(このアプリ作者の考えはお聞きしていませんが)。私の場合だと、古いガジェットの物々交換や売買ができるインスタスンがあったら楽しいと思います。タイムラインに楽しい写真がいっぱい出てきそうだし、売り手の過去の行動も一目でわかる。それは、どこか実社会をネット上に再現するような感じでもありますよね。

―― それでは、マストドンは定着していくのでしょうか?

遠藤 正直なところそれが見えている人はないと思います。しかし、ネットの世界にまたとない題材が降ってきたという印象があります。日本は、このままいくと、日用品の買い物から恋人紹介まですべて海外のネットサービスにやられる可能性があります。ちょうど、ジェネラルスーパーマーケットが進出して地域にはお金が落ちず貧しくなっていく全世界的な傾向と同じようなことが起きようとしていると思います。マストドンの出現は、ネットが人々の暮らしに対してなにができるかもう一度見直してみることのできるチャンスではないかと思うのです。

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4月14日〜26日の間の「マストドン」についてのつぶやきの共起語=同じつぶやきに含まれていたキーワードの集計結果上位。マストドンに関する認知や興味の傾向の変化がうかがえる。

BOTと人工知能が「旬」だからでもある

さて、ここまでは一般の方々向けに書いたつもりなので技術的なことには踏み込まなかったが、ひとつだけ、テクノロジー的な視点からみてマストドンが注目である理由に触れておきたいと思う。それは、マストドンが「ことば」に関係するプログラムであることだ。ツイッターは、まさに「ことば」という非常に柔軟性の高いインターフェイスを使って、それを比較的自由に外部のサービスやソフトと連携させることができた。

たとえば、ツイッターなどで、ユーザーの代わりに自動的につぶやいたり誰かのつぶやきに反応するプログラムを「BOT」(ボット=ROBOTより)と呼んでいる。迷惑メール的なスパム投稿をするBOTも多く、ツイッター社は、それに悩まされているように見えるが、実は、同社はよいBOTの活用を推奨しているといえる(「自動化ルールと成功事例」(https://support.twitter.com/articles/237504)。また、BOTといえば、LINEでユーザーサポートをする企業が出てきているのもご存知だろう(BOTでは、電話サポートのように待たせないのでユーザーもストレスが少ないとされる)。

しかも、この「ことば」に関するプログラムは、いまや人工知能技術によって日々その精度と質を向上させている。IT業界でも、現在、最も注目されるトレンドの1つである(音声まで使ったIVA=インテリジェント・バーチャルアシスタントなど)。

ただし、マストドンにおいては、インスタンスがBOT作成ルールを決めている場合があるので、それに従う必要がある。日本を代表するインスタンスであるmstdn.jpでは、BOTは「Public(公開)な投稿をしないこと(Unlisted、 Private、Directを使ってください)」とあり、「ぶっちゃけ、なるべく独自インスタンスでやって欲しい」とも書いている。これは、インスタンス内のコミュニケーションを快適にすることを考えると妥当なものだと思う。

ところで、私は、マストドンのためのとてもシンプルなBOTをPythonというプログラミング言語で書いてみた。現在は、Unlisted(非収載=フォロワー以外には見えない投稿設定)でポストするようにしているが、それでも、BOTの応用性の高さを感じている。ちなみに、私が、これを書いてみようと思ったのは、500文字なら日本語の一般的な文章で1段落がスッポリ入ってしまう。ならば、ちょうど本を朗読するような体験が(とはいえ立ち読み的な間欠的なつぶやきではあるが)できないかと思ったからだ。画像に比べれば軽いとはいえ、BOTのしくみ自体がシステムの負荷にかかわるので慎重にやるべきものではあるが。

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「近代プログラマBOT」。実験のつもりなので、いつ停止するか分かりません。

「ことば」を使うプログラムであると見たときに、マストドンは、絶妙なタイミングで登場したといってもよい。たとえば、企業や組織が、マストドンをちょうどホームページやメールサーバーのように自前で持つようにしたら何が起きるのか? それは、企業が持つブランドや商品というものが、はじめて言語能力を持つようなことかもしれない。そんなことを実現するには何が必要かを考えること自体ネットを進化させるだろう。ツイッターは、こうしたことの練習問題だったのかなどと言いたくなる。

マストドンが、実際に、ネットの中に定着していくには、すでに指摘されているものも含めて課題もたくさん出てくるだろう。ただの便利なツールとして一部の人たちに使われるだけのものになるかもしれない(ピクシブやドワンゴが積極的な状況なのでただの流行モノとして萎むことはないとしてもだ)。しかし、この新しいプラットフォームには、ひさびさに登場したといえる前向きな可能性がある。

5月17日(水)「マストドン会議2」開催

ところで、4月28日に「マストドン会議」を開催して、mstdn.jpのぬるかる氏はじめ登壇者の方々にはすばらしいトークをしていただいた。しかし、状況は引き続き変化している。話題としてはさすがに鎮静化してきているがユーザー数は着実に伸びており、むしろ、このタイミングこそ議論が必要なのではないかと考えられる。そこで、5月17日(水)に「マストドン会議2」を開催するはこびとなった。ピクシブ、ドワンゴ、ニッポン放送など、企業でインスタンスを立ち上げた担当者を登壇者にお迎えしたた内容になっている。マストドンをテーマに自由に交流する懇親会も用意しているのでぜひ参加いただきたい。

開催概要

■セミナータイトル:

マストドン会議2 ― Mastodonにインスタンスを立てる理由~そして実装の課題

■日時:2017年5月17日(水)19:00~22:00(18:30受付開始、懇親会含む)

■会場:角川第3本社ビル 3F(東京都千代田区富士見1-8-19)

■登壇者(敬称略)

・株式会社ドワンゴ / friends.nico (https://friends.nico/about)

  栗田 穣崇(株式会社ドワンゴ 執行役員)

  まさらっき(山田 将輝)(株式会社ドワンゴ ニコニコ静画 担当エンジニア)

・株式会社ニッポン放送 / TUNER (https://tuner.1242.com/about)

  金杉 天斉(株式会社ニッポン放送 ビジネス開発センター デジタルソリューション部)

  澤田 真吾(株式会社ニッポン放送 ビジネス開発センター デジタルソリューション部)

・ピクシブ株式会社 / Pawoo (https://pawoo.net/about)

  清水 智雄 (norio) (ピクシブ株式会社 リードエンジニア / Pawooプロダクトマネージャー)

  道井 俊介 (harukasan)(ピクシブ株式会社 リードエンジニア)

■司会:遠藤 諭(角川アスキー総合研究所)

■主催:株式会社角川アスキー総合研究所

■参加費:3,500円(税込み)

■募集人数:120名

■■参加登録はコチラから!(Peatixの予約ページに遷移します)■■

(2017年5月9日「遠藤諭のプログラミング+日記」より転載)